昔から上野という街は時間の流れが止まったまま昭和という時代を今に残している…そんな不思議な魅力に溢れている場所だ。終戦直後、ヤミ市、盛り場が存在していた不良っぽい独特の匂いが漂う繁華街。だからこそ、昔からこの場所に愛着を感じ、上野をこよなく愛する人々が自然と集まってくる。東京という都市に一番最初に足を踏み入れる駅が上野であった時代、大都会の持つ迫力に圧倒された学生、集団就職で上京してきた人間たちにとってやっぱり“遊ぶ”と言えば上野なのだ。そんなギンギラギンに光り輝く電飾に誘われて『上野オークラ劇場』に足を運ぶファンたちは、その当時から通い詰めている常連が多い。アメ横と平行して走る中央通り沿いに昭和27年、東映の封切館“上野東映”としてオープン、経営母体である大蔵映画株式会社が自社で映画を製作するようになってから現在の館名に変わった。 |
全盛期には激戦区だった上野だけでも8館あった成人映画専門館も今ではコチラを含め4館のみ(内1館はホモ映画専門館)。「だんだん年齢層も高くなってきて、一時期はオールナイトをやっている時なんかは酔っ払って深夜に来場される方が多かったものですが、今では夜も12時を過ぎると入場されるお客様は殆ど見られなくなりましたよ。」と支配人の本田恵造氏は語る。夜になると“ADULT MOVIES”のネオンが目立つ…毎日が朝までの3本立てオールナイト興行だから明るくなるまで煌々と通りを照らし続ける。 特に金・土曜日のオールナイトが人気の『上野オークラ劇場』は成人向けの劇場としては珍しく2階席(40席)があるのが特長だ。一般1600円、学生・シニア1300円の入場料金にプラス500円で2階席でゆっくりと映画を楽しむことができる。場内は昔と変わらない重厚な作りとなっておりシックな色調が50年という歴史を感じさせてくれる。また、天井が高く開放的な空間は昔の劇場の良さを残している。 リニューアル時に全席カップホルダー式の座り心地の良いシートに替え、座席数を減らしてゆとりを持たせてから、快適に映画鑑賞が出来るようになった事も魅力のひとつ。あまりの居心地の良さに朝までグッスリと熟睡される年輩のお客様もいらっしゃるとか。しかも2階席は昔ながらの段差が激しいスタジアム形式だけに観易さはバツグン…前列の頭は殆ど視界に入らない。勿論、1階席もスクリーンが高い位置に設定されているから鑑賞のし易さは定評がある。ロビーは広く売店も充実。正面に飾られている大蔵映画の看板女優の写真がいい味を出している。 |
そして地下にある『上野地下特選劇場』は、1本立て興行でたった500円という格安の入場料金で映画を楽しめる。こちらも場内は昔ながらの雰囲気を残しつつ全席シートをリニューアルしたワン・コイン名画座とは思えない贅沢な施設が自慢の劇場である。最後尾の座席は段差も激しく狭いながらも快適な空間作りを目指している劇場の姿勢が何ともウレシイ。カップホルダー付きのシートでゆったりと映画を楽しむ…土曜・祝祭日の前日はオールナイトを行っているため500円で一日時間を潰される強者もいたり、上の劇場で観てからコチラに流れてくるファンも多い。座ってみるとスクリーンの隣にある小さな部屋に気付く…なんとココは珍しく場内からダイレクトに喫煙所(勿論、座席で吸うのは禁止)がある劇場なのだ。これも昔の名残だろうか…いちいちロビーに出るのは面倒くさいという昔からの映画ファンにとって精一杯のサービスだ。 コチラの劇場も昭和27年にオープン、当時はまだテレビが無い時代で“地下ニュース劇場”という館名通りニュース映画を専門に上映していたのだが、テレビの台頭そして普及と共にニュース映画が少なくなり昭和40年代に成人映画のムーヴオーバー館となった。遠方からもわざわざ来られる方が多いコチラの2館、年輩の常連の姿が目立つ。大蔵映画名物“痴漢電車シリーズ”ともなると待ちわびていたファンでロビーは溢れかえる。看板スターが少なくなって来たとは言え、その盛況ぶりを見ていると、やはりココは成人映画を家では観る事が出来ないお父さんが自分だけの居場所を与えられているオアシスなのかも知れない。「上野という街もあまり発展しない場所ですからね。駅前の最開発という話しも出て来ているから人の流れも変わってきちゃうかも知れませんよね。」という言葉通り、今までアンタッチャブルだったエリアに開発という新しい波が押し寄せて来た時、上野という街に慣れ親しんできた人達は新しく生まれ変わった街を一体どういう目で見るのだろうか?昭和の息吹を残している上野の味をそのまま活かして、やはりココだけはお父さんたちの聖域として新しいカルチャーで侵して欲しくないと痛切に思う。(取材:2003年1月) |
【座席】 『上野オークラ劇場』157席/『上野地下特選劇場』80席 【住所】 東京都台東区上野公園2-14-31 ※2010年7月31日を持ちまして閉館いたしました。現在は、別の場所にて新規運営中。 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |