とある映画館の地下室で借金の型に拉致された女…ヤクザから逃避行をおこなう男女の姿を抽象的に描いた、荒木太郎監督の新作ピンク映画“桃色仁義 姉御の白い肌”の舞台となった静岡市にある映画館—静岡オリオン座…。大半のロケ撮影に全面協力を行ったのが、大正8年の創業以来、映画興行を行っている(株)静活である。同社が運営している8つの映画館が並ぶ七間町“七ぶらシネマ通り”は、現在も変わらず昔ながらの映画街の雰囲気を残している場所だ。その“七ぶらシネマ通り”に、昭和34年、複合型文化施設—屋上にはプラネタリウムと飲食店が設置され、アイススケート場と映画館を有する—“静岡文化会館”がオープン。静岡市民の憩いの場として数多くの人々が訪れたコチラの施設も現在では映画館単独のビルとなってしまった。


1・2階にある“静岡ピカデリー”は一般のロードショウ館だが…屋上には静岡県で1館だけとなってしまった成人映画館『静岡小劇場』が建っている。自分の作品がどのような劇場で上映されお客様がどんな反応をしているのか?…と、自ら全国の成人映画館を歩き回っていた荒木監督と、それが縁で親しく付き合いを始めたという(株)静活映画興行支配人、佐藤選人氏はロケ撮影に全面協力したいきさつを次のように語ってくれた。「成人映画の苦労は、ロケ撮影に依存しなくてはならない予算でありながら。協力してくれる施設が少ないところなのです。“桃色仁義 姉御の白い肌”の時は映画館の地下にアジトがある設定で、静活の劇場などの施設にラブホテル、賭場など簡単なセットを作って撮影しました。ロケ隊は映画館に寝泊まりしながら撮影をされていましたよ。」と、言われる通り過酷な状況の中で撮影をしなくてはならない成人映画のスタッフにとって協力してくれるコチラのような劇場は実にありがたい存在なのだ。

現在、新東宝・エクセス・OP(大蔵映画)3社の作品を週替わりで上映されている『静岡小劇場』は、真面目に成人映画を観賞したい…と、いうファンのために成人映画の上映を行っている映画館だ。だからこそ頻繁に監督や出演者が快くトークショーや舞台挨拶(かつては吉行由実、林由実香も舞台挨拶に訪れたという)に来場してくれる。こうしたイベントの多さからも分かるように、真面目に成人映画を観劇しようとするファンにとってもありがたい映画館なのである。ユニークなのは、そのイベントの内容…普通の舞台挨拶だけではなく、同じ屋上に建つ今では使われなくなったプラネタリウムの中央にゴザとちゃぶ台を置き、監督と出演者の周囲をファンが囲んでお茶菓子を食べながら映画の話しをするなど、コチラの劇場ならではの親睦会を開催した事もある。だからこそ現在の成人映画館が持っている怪しい雰囲気はコチラの劇場には見られず、来場者は純粋に映画を楽しむために来ているファンばかり…という事も頷ける。

エレベーターを下りるとポツンと佇む小さな劇場。本当に、その名もズバリ「小・劇・場」という看板を掲げている可愛らしい建物が広々とした屋上にただ一つ建っているのが何となくユーモラス…。一瞬、営業しているのか不安になりつつ、雨よけのフードに沿って歩くとエントランスのドアの向こうに明るく清潔なロビーが広がっている。ロビーは至ってシンプルでスナック菓子が販売されている売店と喫煙所…そしてアダルトフィギアのガチャポン(エロポン)販売機が置いているだけ。一歩、薄暗い場内に入るとワンスロープ式の座席でも前列の頭が邪魔になる事が無い程、高い位置に設置された小さなスクリーン。常に清潔に保たれた場内は—誰にも邪魔される事の無い—お父さんたちの心落ち着く隠れ処なのだ。ただし、成人映画館としては夜が早く、19時台には終了してしまうので気をつけて…。









オープン当時は“ニュース喫茶”という当時でも珍しい(ニュース映画館という劇場は多くあったが…)ニュース映画をサービスで上映している喫茶店としてスタートを切っていた。「当時は映画館として登録されていなかったため入場料を取らずにコーヒーを飲みながら、下の劇場で掛けていたフィルムを持って来て、映画館並みのニュース映像を観る事が出来たわけです。まだ、昭和34年といえばテレビの普及率も低かったためサラリーマンが休憩しながら情報を得られる画期的な場所だったのです。」と言われる通り、冷房の効いた喫茶店でコーヒーを飲みながら5時間近くニュース映画を観て時間を潰せたわけだからサラリーマン(内容がニュースからポルノに変わっても)にとって、昔も今も、強い味方であったのだ。

そんな時代も昭和40年に入りテレビの本格的な普及とともに終焉を迎え、館名も現在の『静岡小劇場』と改め、邦画専門の二番館としてリニューアルオープン。一本立て興行の各安料金で上映を行っていた。“静岡にっかつ並木座”(現・静岡ミラノ3)で上映していたにっかつロマン・ポルノの終焉後、残された成人映画をバトンタッチする形で、コチラで上映するようになり現在に至っている。「アダルトビデオが普及し次第に成人映画にお客が来なくなって、平成4年には静岡駅の南側にあった同じく静活の成人映画館“静岡南街劇場”が閉館して、今ではとうとうウチが市内で唯一の成人映画館になってしまいました」と語る佐藤支配人の表情は寂しさを隠せない。「お客様も年配の方が多くなってきていますけど、若いファンの方も大勢いらっしゃいます。皆さん純粋にピンク映画を映画として楽しみに来られる方ばかりですから、静岡市内に残る最後の成人映画館として、その灯を消さないように頑張りたいと思います」(取材:2006年7月)


【座席】 90席 【住所】静岡県静岡市七間町14 ※2010年10月5日を持ちまして閉館いたしました。

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