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戦後ストリップショーを行っていたキャバレーだった建物を昭和30年に映画館に改装、ニュース映画専門館“金星ニュース劇場”としてオープン。その当時と変わらない姿で現存する貴重な劇場である。石野氏の言葉通り、場内の前列には、ところどころ椅子の背もたれしか残されておらず、肝心の腰掛ける部分は外されていたり、場内に入るドアの蝶番が壊れかけていたり…受付のおばちゃんが、中に入ろうとするお客さんを「そこんところドア壊れているからね」と注意を促す等、年期の入り方は半端ではない。「壊れたものの補修や修繕は、全て私がやっているんですよ。椅子も古くなってどんどん壊れてくるから新しいのにしたんですけどね…予算が無いから、あまり座らない前列の椅子を分解して、後ろの椅子にすげ替えているわけです」今から5年前に映写技師として招かれた石野氏は、数多くの映画館を渡り歩いて来たこの道50年のキャリアを持っている大ベテランなのだ。 |
「今、映写機で使っているレンズは他の劇場が交換して使わなくなったものをいただいたんですよ。私が来た時は何十年も使っているレンズでスクリーンに映る映像が黄色く焼けて見えていたんです。だからレンズを換えて鮮やかに映った時は嬉しかったね」と、機械のメンテナンスには一切手を抜かず、近所の映画館まで自らお願いに行く…と、いったこだわりを持っている。昔キャバレーだった舞台はスクリーンの下に残っており、ステージの下にはセリが今でも眠っているという。その後、空前の映画ブームに乗って横須賀中にあった数十件の映画館からニュースフィルムを借りに廻って、終わるとまた返す…という事を繰り返していた。当時、向かいにあった“ヨコビル映画街”に務めていた石野氏は、この頃からのお付き合いという。「テレビが普及して、ニュース映画の需要が無くなってから一般の映画をかけていましたが、昭和30年代後半からピンク映画の人気が沸騰して…当時は劇場を開ける前に自衛隊の若い人たちが40〜50人並んでいましたよ」と、当時を振り返る石野氏。全盛期は数館あった成人映画館も日活の直営館が閉館されて以来、コチラの劇場を残すのみとなってしまった。 現在は、毎週水曜日が初日の一週間興行で、新東宝と大蔵映画の3本立て上映となっている。料金は一般1,300円、昼までに入場されると早朝割引として1,100円で観る事が出来る。「本当はシニア割引料金があって然るべきなのですが元々の値段設定が安いもので…中には当然シニア割引があると思って来られるおじいちゃんもいたりするので、その時は早朝割引にしてあげた事も…」と言われる通り、コチラの劇場も来場者の多くは年輩の方。大体が顔見知りのリピーターで、そのため終映が早い(18時40分には終わってしまうのでご注意)のも特徴のひとつ。時々、終わりの時間を合わせるために朝イチの作品を1巻抜いて上映した…なんてあり得ない事をしたこともあるという。これも高齢のオーナーが劇場の2階に住んでいたためであろうか?それに文句を言ったお客様がいなかったと、いうのだから何ともほのぼのとした映画館である。また、お客様で多くを占めているのは他所と同様ゲイの方々。やはり社交場と出会いの場として活用されるのは何処も一緒。 |
毎週日曜日になると決まって5〜6人のグループが来場されて上映が始まっても、しばらくはロビーのソファに座って話し込んでいる。「そういう方たちはお友達を呼んで劇場を支えてくれていますから、社交場となるロビーは常に清潔を心がけています。トイレは年期が入った昭和初期のままですがね…」ただ、こうした劇場には色々な趣味趣向のお客様が多いのも事実。中にはソファに下半身剥き出しでお尻を突き出してかかんでいた人がいたり、トイレの便器に股引を突っ込んで詰まらせる人がいたり…普通では考えられない事に遭遇するらしい。「それでも病院帰りに立ち寄ってくれるおじいちゃんがいてくれると少しでもキレイな環境で観てもらえるように頑張っていますよ」と最後に笑顔で語ってくれた。(取材:2006年12月) |
【座席】100席(内、数席破損) 【住所】 神奈川県横須賀市若松町1-9 ※2012年8月末日を持ちまして閉館いたしました。 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |