山梨県・甲府駅からJR身延線に乗って3つ目の南甲府駅から歩く事10分程…住宅地が建ち並ぶ甲南通り沿いに、成人映画館『甲南劇場』がある。かつては、この通りに4〜5館あった映画館も今ではコチラを残すのみ…戦後間もない昭和23年に設立された当初は松竹、大映の二番館として最盛期における日本映画の名作を数多く上映し続けていた。昭和30年代に入り、テレビの普及が脅威だった時代にも関わらず、大映が勢いに乗っていた頃、“座頭市シリーズ”や“ガメラシリーズ”といった作品にたくさんの大人から子供まで劇場に押しかける光景は日常茶飯事だったという。昭和40年代、経営状況が悪化していた大映は日活と共同で“ダイニチ映配”を設立。 |
エロ・グロ・ナンセンスを売りにした作品を送り続けていた時期と同じくして『甲南劇場』は昭和45年よりピンク映画専門館として再スタートを切る。昭和46年には大映は倒産してしまうも日活ロマンポルノは空前の大ブームとなり、コチラの劇場にも多くの男性客が訪れるようになった。「ちょうど、その頃私がこの家に嫁いで来て主人の実家の稼業である映画館を夜だけ手伝うようになったのですが、たまに夜一人になると心細い時がありましたよ。最初の頃はチケット売り場に座っていると男性のお客さんから嫌がられるような目で見られたりして…私もまだ若かったので本音を言うと凄い嫌だったんですよ(笑)」と当時を振り返り、語ってくれたのは、現在も劇場の支配人として運営を任されている恩田さんだ。ところが、あるお客さんが言ってくれた“こういう映画だから、いかつい男性よりも、かえって女性の方が来やすいよ”という一言で不安がったり恥ずかしがったりするのをやめようと思ったのだという。 |
恩田さんは20年前に先代の館主であるご主人のお父様が急逝されて以来、殆ど劇場の切盛りをされている。成人映画館となってから、日活、新東宝、時には洋物ピンク映画を月に数本上映していたが、現在は、新日本映像、新東宝、大蔵映画3社の作品を1週間切り替え4本立て(土、日前日はオールナイト興行3〜4時まで)で上映されている。3本立て興行はよくある話しだが4本立てというのは珍しく「今は殆ど新作が製作されませんから、週替り4本って結構大変なんです…でも毎週楽しみにして来ていただいている常連さんたちの事を考えると、頑張って続けていかなくては…と思いますね」と言われる通り、毎週のように朝から晩までコチラの劇場で過ごされるのを楽しみにしている常連の方は数多い。 「ウチの劇場は常連さんたちで成り立っているようなものですから」と語る恩田さん。常連の方同士が既に顔見知りになっており、映画そっちのけでロビーで延々とおしゃべりに興じる光景は毎度の事だという。「私たちは、映画館をそういった社交の場としてもらえる事を目指していましたから本当に嬉しいですね」恩田さんが映画館に来たての頃が嘘のように、今では普通に挨拶してくれる常連さんばかりだ。農業の方が多い地域だけに農繁期となると、軽トラで乗り付けて泥の長靴で来場されロビーが泥だらけになる事もあるというが、「清掃は確かに大変ですけど、それを楽しみにお仕事を終わらせて着の身着のままで来ていただいたお客様を思うと、本当にありがたい事ですよね」と恩田さんは目を細める。その一方で、馴染みの常連さんも高齢化が進み、次第に顔を見せなくなる方も増えてきているという厳しい現実もある。ロビーは、こうした常連の方が集まって歓談しやすいようにテーブルを囲むようにソファを配置。ロビーの壁には上映作品のロビーカードやプレスシート(中にはご主人自ら作成したカレンダー付きのポスターも)、歴代ピンク映画女優のピンナップ等が所狭しと飾られており、それらを眺めているだけで、あっという間に時間が過ぎてしまう。 |
ワンスロープ式の場内はコンクリート剥き出しの床が何ともレトロで歴史の重みを感じさせる。扉を開けると、まず最初に目に入る左右にある10席の横長のソファ。ロマンスシートと名付けられたこのシートはカップルで来館された方に好評の席というが、座り心地の良い革張りのソファは、平日サラリーマンの休憩スペースとして重宝されているというのも納得だ。また中央の座席も後ろの5列はカップホルダー付きの新しいシートにリニューアルを施し、長時間(成人映画館特有の終日劇場で過ごすお客様が多い)快適に過ごす事が出来る。一度、上映が始まると途中休憩はなく終映までフィルムは廻りっぱなしで、場内が明るくなる事は無いので終日、ゆっくりと過ごす事が出来る。「最近は山梨に限らず、静岡や長野とか遠方からいらっしゃるお客様が増えてきたんですよ」と言われる通り、場内の行き届いた清掃やメンテナンスがインターネットのクチコミで評価が高まり、他県のファンがわざわざ足を伸ばして来場されているのが目立つ。成人映画館として大ヒットを記録したのは、20年程前にお正月作品として公開した3Dの飛び出すポルノ映画。 |
最近では杉本彩の“花と蛇”が入ったというが、定番として人気があるのは“痴漢電車シリーズ”と小林ひとみやイヴの主演作は不動の人気を維持しているという。年輩の方から若いカップルに至るまで純粋に成人映画を楽しみたい…という幅広い年齢層のファンに支持されているだけではなく、中には女性グループ4〜5人でワイワイ言いながら来場されるケースもあるなど、“成人映画館=怖い”というイメージは払拭されつつある。その甲斐があって、今では、友だちとの待ち合わせまでの時間つぶしや、中には、ちょっと休ませてくれ…といってブラリ訪れる方もいらっしゃる気軽に立ち寄れる映画館として認知されるようになった『甲南劇場』。恩田さんは「パチンコで1万円擦るよりもココに来れば1300円で一日暇を潰せるからイイ」とお客様から言われた一言を励みに、これからも誰もが来やすい成人映画館を目指していきたいと最後に締めくくってくれた。(取材:2009年9月) |
【座席】188席 【住所】 山梨県甲府市幸町16-23 ※2021年11月23日を持ちまして閉館いたしました。 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |