市電が走る緑豊かな街—熊本市の繁華街近く、下通りに面した雑居ビルの地下にひっそりと成人映画館がある。小さな看板が立っているだけなので、うっかりすると見過ごしてしまいそうだ。ビルの入口から階段を下りるとスナックの向かいにあるガラス張りのドア…まさかここに映画館があるなんて信じられず、おずおずと中に入ってみると小じんまりとした明るいロビーが広がっている。そこが、平成17年11月19日にオープンした(多分、日本で一番新しい成人映画館と認定しても良いだろう)DLPシアター『桃天劇場』だ。当時、全国的にも成人映画館が閉館していく中でのオープンは、かなり後発で周囲からも驚きの声が上がっていた程だ。「同じ系列で“シネパラダイス”というアート系専門に掛けていたミニシアターがあったのですが、両輪としてまだ熊本では少ないですけどファンがいた成人映画を掛ける映画館を復活させてみよう…ということで小じんまりとした規模で始めたというわけです」と語ってくれたのは支配人の土本公一氏。土曜日は午前中の開場前から新聞を片手に数人の男性ファンが入口で待っている光景が見られる。


平成に入ってから加速した成人映画館の激減によって、観る場所を奪われてしまった人々は『桃天劇場』のオープンを歓迎しているかのようだ。「おかげさまで今では元日活ロマンポルノの監督だった川崎軍二監督や坂本太監督のビデオ作品が人気なんですよ。」と語る土本氏。「ただ、ビデオ作品は絡みのシーンが長いので、3本全てをビデオにしてしまうと観ている方が疲れちゃうんですよね(笑)。ですからあくまでもピンク映画を主体にしながらソフトな作品とハードな作品を上手にミックスさせて上映しています」と上映作品の選定にも工夫しながらラインナップを組まれている。「やはり、観て楽しいのはストーリー性のあるピンク映画の方ですよね。成人映画でありながら胸が締め付けられるような作品もありますし…ですからビデオ作品でも出来るだけストーリー性のあるものを選んでいるつもりです」そういった意味においても川崎監督や坂本監督作品はビデオ作品でありながらストーリー性や構図としてのアングルがしっかりしているおかげでファンからも好評を得ている。

作品としては、同じ女優さんを続けないように気をつけて(昔と違い、やはり飽きられるらしい)出来るだけバラエティーに富んだ組み合わせを心掛けている。他にも“熟女特集”や“川崎軍二VS坂本太監督特集”といったユニークな特集上映を組まれる事もあるそうだ。「やはりメリハリをつけていかないと似たような作品ばかりだと長続きしないので、変化のある特集を組んで…かと言ってそれで動員数が上がるわけではないのですが、大切なのは今いらっしゃっているお客様に長くお付き合いいただく事ですからね」

前述の事からも分かる通り、コチラの劇場に訪れる客層は比較的、成人映画を純粋に作品として楽しもうと思っている方が多く、土本氏が感じる印象でも7割近いお客様がコアな成人映画ファンだという事だ。「いずれにしても、ウチにいらっしゃるお客様って作品のファン…というよりも『桃天劇場』のファンと言っても良いのでは?と自負しています」ビルの入口や地下のエントランスは、あまり成人映画館という印象は少なく、その分、入りやすい環境にある事は事実だが、土本氏としてはもう少し通りに面した壁面にポスターを貼りたいというのが本音のようだ(残念ながら同じビル内に他のテナントが入っている関係上、劇場名の看板しか設置していない)。また最近では新聞にの上映案内欄には作品のタイトルを掲載する事が出来ず、女優と監督名のみに留まっている現状が悩みのひとつだ。「まずは場所の認知から…」と今後の課題について語る土本氏。「近隣のホテルに出張で宿泊されているお客さんが暇つぶしにブラリとお越しになるケースも多いですから、実際に週10本前後は場所の問い合わせをされる電話があるので需要は少なくないと思うんですよね」客層は7割が65歳以上の年輩の常連さんがメインとなっており、たまに若い方がグループで来たりするものの昔からの常連さんが劇場を支えている。コチラの売店では過去に上映されていた作品のポスターも販売しておりロビーに掲載されているラインナップを一服しながら眺めているだけであっという間に時間が経ってしまう。










場内は小さいながらもゆったりとした座席間隔と座り心地の良いシートで、プライベート空間のように一日ここで過ごされる年輩の方には最高の環境となっており、顔見知り同士で映画が始まってもずっとロビーで歓談に興じるお客様もいるという。「そんな感じで良いと思っているんですよ。家にいるよりもココに来た方が楽しいと思っていただけたら、映画は二の次だとしても…」と土本氏は笑う。「今後は団塊の世代と呼ばれている日活ロマンポルノで青春時代を過ごされた方々にもっと足を運んでもらいたいですね」いずれは昔のロマンポルノやピンク映画の名作を上映してみたいと、語る土本氏は最後にこう続けた。「なかなか家では成人映画を観る事が出来ないお父さんたちにゆったりと過ごしてもらえる憩いの場、そして純粋な成人映画ファン(勿論、女性でも)にとっていつでも気軽に安心して楽しめる劇場を目指して、番組編成も新作が少ない作品群の中から飽きが来ない作品を選んで提供していきたいですね」(取材:2010年4月)


【座席】41席 【音響】 DLP

【住所】 熊本県熊本市下通り2丁目3-6双栄ビル地下1階 【電話】 096-222-7222

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