京成上野駅池の端口から歩いてすぐのところに平成22年8月4日、大蔵映画株式会社が運営するOP映画の新作封切館(三本立て)『上野オークラ劇場』とワンコイン(500円)の名画座(一本立て)『上野特選劇場』がオープンした。全国の成人(ピンク)映画館が閉館し続けているこの厳しい時代に、何故、大蔵映画が新しい成人(ピンク)映画館を?世間から、そんな疑問の声が多く上がったのは当然の事だ。「確かに、当時は大丈夫なの?とか正気の沙汰じゃない…といった噂話をよく耳にしましたから(笑)かなり目立った行為だったのでしょうね」と、当時を振り返る支配人の斎藤豪計氏。斜陽と呼ばれているピンク映画産業の中で多額の建設費をかけて新築の成人映画館を新しくオープンするという決断は、結果的には多くのピンク映画ファンから絶大な支持を集めた。 施設を新しくした事も追い風となり、旧館時代とはまた違った層のお客様が増えている。ちょうど『上野オークラ劇場』がリニューアルオープンした辺りから、それまでピンク映画を観なかった若者からサブカルチャーとして"何だこの映画は?"と興味を抱かれるようになったように思える。勿論、それまでも日活ロマンポルノの芸術性については市民権を得ていたが、OP映画の多様性のある面白さに若者が気づき始めた…と言っても良いだろう。「昔はピンク映画の情報を劇場から発信するという事は、ほとんど無かったんですよね。受け身でも充分商売として成り立っていた…そういう時代でした。でも、これからはどんどん劇場側から発信していかないと世間から埋れてしまう。若い人たちの中には、"ピンク映画ってまだあったの?"と言う人も多いんです」そこで『上野オークラ劇場』が積極的に行っているのが監督や女優による舞台挨拶や“OP映画祭り”といった様々なイベントだ。「ピンク映画をやっている映画館っていうのは新しいお客様にとっては敷居が高いものなんですよね。そこで、ご来場しやいように劇場側で何かキッカケを作りたいと、考えた結果、女優さんのトークショーや、サイン会、握手会、撮影会を実施したのです」 |
「もちろん、既存のお客様へのファンサービスも念頭に置いて、敷居を下げる雰囲気作りをしたらどうか…と思いました」実際、イベント参加をキッカケにリピーターとなったファンも多いという。「観ていただければ楽しんでもらえる自信を持っているので、私たちスタッフが考えるのは、何をすればご来場いただけるか…という事」リニューアルしてから今年で4年目だが着実に新しいお客様が増えている実感をしていると斎藤氏は言う。「イベントなど一見、華やかですがスタッフは死に物狂いですよ(笑)。皆、休日の時まで何をすればお客様に喜んでもらえるか?を考えています。フルパワーの集団だからこそイベントを満席にする事だって出来るんだと思っています。設備の整ったシネコンだって、なかなか満席にならないこのご時世に、世間に向かって、"ピンク映画館は満席になるんだぞ!"と声をあげたくてやっています。最高のPRになりますから。勿論、それをやり続ける重圧もありますが、ここまで来たらもう止まらないんで…(笑)」 |
舞台挨拶などはファンへの感謝を込めたサービスの一貫として行われているため、通常料金で入場可だ。「よく"イベント料金はいくらですか?"というお問い合わせがありますが、ウチでは特別料金とか、サインをもらうのに条件をつけたり…という事はありません。好きな色紙やサインブックを持ってきていただければ、気持ちよくサインしてもらえますよ」こうしたイベントは観客だけではなく出演者にも喜ばれており「女優さんの中には公開前から、舞台挨拶をやりたいって、ツイッター等に書き込んでくれる方もいるんですよ。"ピンク映画に主演して『上野オークラ劇場』で舞台挨拶をやるのが私の夢でした"って言ってくれた女優さんもいらして…嬉しいですね」 確かにピンク映画の女優が、応援してくれるファンの熱気を肌で感じる機会が少ないだけにココは彼女たちにとっても貴重な場所であるのだ。映画館が作り手と観客との橋渡しとして機能していて、好きな女優に対する想いを届けられる場所だから互いのモチベーションも上がるのだろう。こうした作り手と観客の距離の近さも『上野オークラ劇場』ならでは。「昨年は、ピンク映画に出演している女優さんの写真集発売を記念してイベントをやりました。他にもピンク映画の女優さんたちが出演する舞台とコラボレーションしてお芝居のさわりを披露したり、歌ったり踊ったりする…という内容盛りだくさんのイベントを実施したり。映画と直接は関係なくても、こうしたイベントをやることで女優さんとお客様の距離を縮めるお手伝いをしています。映画館という箱を使って上映施設としてだけではなく未来に向かってエンターテインメントの可能性も追求していきたいと思っています」 |
『上野オークラ劇場』が最も熱く活況を見せるのがGWの三日間だ。今年で8年目を迎えたイベントOP映画祭りの最終日に、昨年からあのピンク大賞を開催。「元々は旧館時代、GWに全国のファンの方が集まれる大きなイベントをやろう!という事から始まりました」毎日、日替わりで華やかな女優が来場されるため、北海道や九州など遠方から泊りがけで毎年楽しみに来場されるファンも多く、昨年・今年と開催したピンク大賞表彰式は扉が閉まらないほどの観客がロビーまで溢れる反響を見せた。「これが成人映画専門館でやるピンク大賞の意味なんだな、と実感しました。しかし、当館開催は今年でまだ2年目…これからが勝負ですね」コチラのお客様は熱心な映画マニアの方も多い。「本来、映画っていうのは、表現においてギラギラしたり、生々しかったり…ちょっと危険な側面も持っているんですよね。だからテレビでは放送出来ないものもある。映画館でしか観られない表現の価値がありました。しかし、今はテレビ放映ありきが主流になってきて、いつの間にか、そこには映画のヤバさがあまり見られなくなってしまいました。そうした最近の映画に物足りなさを感じている人たちがピンク映画に辿り着いたのではないでしょうか?」 |
ロビーではピンク映画を通じて顔馴染みになったファン同士が、映画の話しをされている光景をよく見かける。中には斎藤氏を呼び止めて意見を言う熱烈なファンも多い。「お客様同士のお話を聞いていると実に楽しいですよ。あの女優は良かったとか、あの監督はどうだ…とか。じゃあ、この後メシ食いに行こうよ…とか(笑)」公園に行く人たちが映画館の入口に立っている女優の顔写真を切り貼りしたマネキンや、よく観光地などで見かける顔出し記念撮影パネルに一瞬足を止める。これらは全て劇場スタッフによる手作りPOPだ。「実際に撮影する人がいるんですか?とよく聞かれますが、これが順番待ちになったりするんですよ」と笑う斎藤氏。最初は賑やかしになれば…という軽い気持ちで作ったそうだが、面白がって撮影される方が意外に多いという。こうしたPOPはロビーの至るところにもあったりして…スタッフの情熱と映画愛がヒシヒシと伝わってくる。大蔵映画の旗館となる『上野オークラ劇場』が背負っている責任は大きい。年々、入場者数が減少する中で細々と運営を続けている全国の成人映画館に対して、厳しい予算の中で新作を供給していかなくてはならないOP映画がグループ会社でもあるという一面において、ピンク映画の灯を守って行く…という使命を帯びているのだ。 |
「ピンク映画産業自体、厳しい現状です。全国のピンク映画館もどんどん閉館しているのと同様に、ウチも状況は楽ではない。この御時世に新築で成人ピンク映画館を建ててやっていけるのか?という慎重論は社内でもありましたし、ココを一般の映画館にするという選択肢があったのも事実です」しかし、大蔵映画が選んだのはピンク映画を守るという結論だった。「大蔵映画がピンク映画から手を引いてしまうと、ピンク映画は消滅してしまうと思います」と斎藤氏が述べる通り、約90%以上の新作がOP作品である以上、大蔵映画グループが撤退する事は、世の中に新作が出ていかなくなり、その先にあるのが、現在残っている全国の成人(ピンク)映画館の窮乏だ。『上野オークラ劇場』は映画館でありながらピンク映画の広告塔でもあり、日本全国の成人(ピンク)映画館に対する責任があるのだ。「責任も大きいが可能性も大きい。そして我々に課せられた使命も大きいです。中にはキレイな映画館で恵まれている…という声も聞きますすがそれは表面上で、内情は必死です(笑)。皆、ピンク映画の灯を消さないぞ!という思いでやっていますので」と、最後に述べてくれた斎藤氏の言葉が強く心に残った。(取材:2014年5月) |
【座席】 『上野オークラ劇場』141席/『上野オークラ劇場2』47席/『上野特選劇場』71席
【住所】 東京都台東区上野2-13-6 【電話】 03-3831-0157 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |