東京・新宿駅から急行電車に揺られること30分程…小田急線“新百合ケ丘”駅は、緑豊かな街並で東京のベッドタウンとして人気のあるエリアだ。実は、この街、川崎市の中でも文化事業に積極的に取り組んでいる事でもよく知られており、駅前には“昭和音楽大学”や故・今村昌平監督が設立(現在は映画評論家・佐藤忠男氏が校長を務める)した“日本映画学校”が隣接。また、今年で14年目を迎える“KAWASAKIしんゆり映画祭”や“麻生音楽祭”を開催しているなど「しんゆり・芸術のまち」をモットーとして、街を挙げて芸術文化発展の拠点作りを推進している。 |
そんな街に、2007年10月31日、新しく芸術文化振興の拠点となる『川崎市アートセンター』がオープンした。駅から徒歩3分…今尚、開発の続く万福寺の入口に位置する『川崎市アートセンター』は全面ガラス張りの近未来的な建物で、夜になるとライトアップされた幻想的な姿を浮かび上がらせる。正面の階段を上がり、2階部分に当たるエントランスから中に入ると、日中は充分な自然光を取り入れられる明るく開放的なアーチ型のロビーが広がる。正面に位置するチケットカウンターを挟んで、左手奥には国内外の新作・旧作を1日4〜5作品入れ替え上映を行っている『アルテリオ映像館』と、右手には古典から現代演劇・ダンスなどを上演する『アルテリオ小劇場』の2つの劇場がある。3階には、誰でも自由に利用出来る“コラボレーションスペース”があり、講師を招いて映画・演劇に関する講演会を行ったり、定期的に子供向けのアニメーション教室や映画講座といったワークショップを開催。今後も映画や演劇に深く接してもらえるようなイベントが計画されているという。勿論、開場までの待ち時間をゆっくりと過ごす等、用途は自由。2階には、お母さんにありがたい“授乳室”も完備されているので、安心して利用していただける。 |
このように充実した施設だが、忘れてはならないのがチケットカウンターの横に展示されている故・今村昌平監督がカンヌ国際映画祭でパルムドール受賞した時のトロフィー(レプリカではない、本物!)。ここでしか見る事が出来ない貴重な映画遺産だ。 現在、『川崎市アートセンター』は市より指定管理者として選定された川崎市文化財団グループが運営しているが、当初、計画段階では映画を上映する劇場は考えられていなかったという。「地元の人々も交えて協議を重ねた結果、映画と演劇、2つの劇場が作られる事となったのです」と語ってくれたのはスタッフの千葉さん。現在、“日本映画学校”校長の佐藤忠男氏からも様々なアドバイスをいただいているという。「今後は、佐藤忠男氏と“東京フィルメックス”のディレクター市山尚三氏を選定委員長と副委員長として、映画に携っている有識者の方々に参加していただき、2ヶ月に1度、上映作品の方向を協議しているのです」と、何とも贅沢なメンバーによって、まるで毎日が映画祭?と言えるような贅沢なプログラムが期待出来そうだ。勿論、名画の特集上映の他にも単館系からメジャー作品の新作も取り入れていくという。「映画学校に講師に来られた監督をお呼びして上映だけではなくトークショウを開催するなど、作り手と観客がふれ合える場所として提供したいと考えています」と語る千葉さん。更に今年より“KAWASAKIしんゆり映画祭”の会場としても使用される事となり、ますます映画を深く楽しめる場所になるだろう。 『アルテリオ映像館』の最大の特徴は、様々なフィルムに対応出来る映写設備を有している事だ。戦前の古い作品でも当時のサイレントスピードやフルフレームで上映できる特殊な35mm映写設備を備えている他、16ミリ・35ミリは勿論、4Kデジタル・シネマの上映に至るまで幅広く対応している。映写室の横には、バリアフリー上映の際、目の不自由な方のための音声ガイド制作をするための副音声室が完備されている他、聴覚障害者のための字幕投影も可能だ。 |
「今後は、通常の上映時に、このシステムを取り入れて、いつでも映画を楽しんでもらいたいと考えています」今まで映画祭でバリアフリー上映を行っていたため、その時期を心待ちにされていた障害者の方も多く、このシステムへの期待も高まっている。『アルテリオ小劇場』は、俳優と観客が一体になれる演劇の空間として設計され、前列4列までの客席が可動式となっており、内容によって舞台と客席を最適な形に設定できるようになっている。更に、“芸術を創り、育て、楽しむ”を基本コンセプトとして、新たな映像作家を目指す人々を支援する場(芸術を創造する場)としても施設を提供しており、3階には中級者から上級者向けの“映像編集室”やナレーション収録に最適なミキシングシステムを備えた“録音室”。また、1階には舞台装置や美術、小道具制作が可能な“工房”などが備えられている。 昨年末に活弁&生演奏付きでサイレント映画の上映を『アルテリオ小劇場』で行ったり、通常の上映時にも監督や俳優など多くのゲストを招いてトークショーを開催している。過去の名作に限らず昨年末に佐藤忠男氏が推薦する韓国の日本未公開作品“ウエディング・キャンペーン”を初上映し、多くの観客が訪れた。「ただ、映画を上映するだけでは観客の皆さんがついて来てくれないと思うのです。一時期、映画館離れをしたお客様から“映画祭のおかげで映画館に足を運ぶ機会も増えた”という声をいただいています」と言われる通り、最近では“この映画をかけて欲しい”という要望が出て来るようになり、固定ファンもつき始めたという。「この地域には高齢者の方も多くいらっしゃいますからハリウッドの名作を特集して映画館ではなかなか観られないような作品を上映して大スクリーンで映画を観る楽しさを思い出していただけたら…」と、千葉さんは思いを述べ、最後にこう続けてくれた。「映画館で映画を観るという事は体験だと思います。観終わった後、外に出ると雨が降っていたとか…そうした状況も含めて想い出を提供するのが映画館だと思うのです」(取材:2008年2月) |
【住所】神奈川県川崎市麻生区万福寺6-7-1 |
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