十数年前、従来の映画館の概念を覆したシネマコンプレックスが日本に初登場。映画館が映画を観るための場所からショッピングや飲食を融合させてワンストップの利便性を高める事によって日本の映画人口増加に成功した。現在、そのシネコンが更なる変化を始めている。従来の機能性を重視したシステム設計から映画館そのものを楽しめるコンセプチュアルな体感するシネコンが増えているのだ。その先駆けとなるのが全国20箇所に展開している“ユナイテッドシネマ”。映画館の新しいカタチ“デザインシネマ”を提唱し、新しいスタイルのシネコンを次々と立ち上げている。2007年10月にオープンした『ユナイテッドシネマ浦和』は、まさにそのコンセプトを基に“晴れた日は映画館へいこう”というテーマを掲げた地元密着型のシネコンだ。JR京浜東北線“浦和”駅東口真ん前に建つ“浦和パルコ”の6、7階…3人のクリエイターたちによって誕生したコチラの劇場は、映画を観なくても映画ファンなら毎日通いたくなるような空間演出を施している。空間デザインを手掛けた形見一郎氏は自然光が充分に取り入れられる建物の特長を活かして白を基調としたニュートラルなロビーを作り上げた。 |
吹き抜けの開放的な6階のロビーからガラスの階段で7階に上がるとカフェとライブラリーが融合した“スルークカフェ”がある。白を基調とした壁面に鮮やかに映えるビビッドな色彩のシートが並ぶコチラのカフェは、松浦弥太郎氏がセレクトした映画関連の書籍を中心とした1000冊以上の蔵書数を誇り、自由に読む事が可能だ。ライブラリーにある本の中には絶版となっているレアな逸品もあったり、マニアには感涙ものだ。 「お客様がゆっくり楽しんで映画を観ていただくのは勿論ですが、それ以外のプラスアルファ(空間)を楽しんでもらいたいのです。」と語る後藤宏志支配人。“デザインシネマ”のコンセプト通り、館内のサインひとつ取ってもシンプルな中に微笑ましい温かさがあったり…鈴木直之氏の手掛けたサインは、空間の中にしっかりと溶け込んでいる。そんなサインに誘導されると思わぬ所に行き着いてしまったりする。7階のカフェカウンター横にある細長い通路を歩いて行くとガラス張りになっている映写室にたどり着くなど発見が至るところにあるのだ。 自然光が充分に注がれるロビーは、6階から7階まで吹き抜けとなっており、開放的な空間は心地よく過ごせるスペースとなっている。 |
ロビー壁面には、かまくらをイメージして作られたという小さな個室があり、壁に埋め込まれたモニターでは次回上映作品の予告編が流れている。中でも後藤支配人のオススメはロビーにある大きな出窓。夜になるとそこから見える夜景を眺めに大勢のカップルが押し寄せる。他にも、アイスのコーンが壁一面に敷き詰められたコンセッションも遊び心溢れたデザインで思わずアイスに手を伸ばしたくなる。女性のお客様が多いだけに女性トイレのデザインは業界でもトップクラス。やはり白を基調とした清潔感溢れる室内だが、パウダールームには三面鏡が完備されているのが女性にとってはありがたい気配り設計だ。 マット調のシックな扉を開けて、場内に入るとカラフルな壁面が目に飛び込んでくる。メインとなるスクリーン4は、ステージが完備され、今後舞台挨拶等のイベントも計画されている。中でも一番のこだわりは席幅62cm(何とも贅沢なスペースを実現)、単独の肘掛けが備わっているハイバックシート。もう、隣の人と肘掛けの争奪戦に悔しい思いをすることはないのだ。 |
料金サービスもレイトショー、レディースデーは勿論の事、コチラだけのサービスとしてファーストショーサービスというのがある。平日午前中の上映は1200円で観賞可能なのだ。また、今年いっぱいに限るが、毎月20日はシネマサンクスデーとして1000円で観ることが出来る。殆ど毎日がサービスデーのようだが、一人でも多くの方に気軽に映画を観てもらいたいという劇場の気持ちの表れだ。 待ち時間も充実して映画を観る環境も充実して、映画観賞以外の用途も充実…ただ映画を観ればイイという環境から更に一歩踏み込んだ『ユナイテッドシネマ浦和』は、「今までは映画ファンを増やす事を私たち業界の人間は目指してきましたが、これからは映画館ファンを増やしていく事が大事だと思っています。仲間と映画を観に来て終わった後、感想を述べ合える最高の空間作りをしていきたいですね」まずは地元の方に愛される劇場を…と目標を掲げる後藤支配人。駅前のという立地の良さからシネコンでは珍しくお年寄りのお客様が多く、映画館で映画を観る事を愛する人々が世代を超えて同じ空間に集う…まさに後藤支配人が目指す映画館が実現しようとしている。(取材:2008年4月) |