山梨県のほぼ中央に位置する、北に八ヶ岳、南に富士山、西にアルプス連峰を望む緑に囲まれた風光明媚な地方都市—甲府。駅から歩くこと15分、行政機関が集まる場所に平成10年9月、県内で初めてのシネコン『甲府武蔵野シネマ・ファイブ』がオープンした。東京にある“新宿武蔵野館”を筆頭に、伝説の名画座として名高い“太井武蔵野館”“自由が丘武蔵野館”(両館共現在は閉館)を運営する武蔵野興業株式会社が『甲府武蔵野シネマ・ファイブ』の前身である“甲府武蔵野映画劇場”(その後、現在の館名となる“甲府武蔵野館”と改名)を立ち上げたのは戦後間もない、昭和20年代にまで遡る。当時は山梨県内だけでも80館以上あった映画館も今では、コチラの劇場を含め7館だけとなってしまった。「山梨という場所は、自動車を持っていないと不便極まりない土地ですから、昔に比べると駅前から若い人は減って来ていますね」と語る営業スタッフの飯島洋氏。 |
近隣に次々とオープンしたショッピングモールに買い物客が流れ、街を周遊する人が減っている…という現象が、ここ数年で起きている。「他所の地方都市と同様、若者やファミリー層の志向が郊外に移行しているせいで、駅前が年々寂しくなってきているのが深刻な悩みです。ですから様々なサービスを試行錯誤しながら提供して、街に活気が溢れてもらえたら…と思っています」街全体を盛り上げる取り組みとして、甲府の商工会議所から中心街共通のポイントカードを発行している。このカードをチケット窓口で提示すると観賞料金が割引になり、かつ観賞料金に応じたポイントが加算されるといったサービスが受けられるのだ。また、劇場に駐車場が備え付けられていないといったハンディを解消する施策として、車で来場された方にはドライバーズ割引と称して、1名に限り1000円で観賞出来るサービスを実施している。一般当日料金から800円という他に類を見ない高い割引率で若いお客様の来場促進を図っている。 |
1階のチケットボックスでチケットを購入してエスカレーターで2階に上がるとポップな色彩のロビーが目の前に広がる。映画ファンにとって喜ばしいのは、ロビーに置いてある映画雑誌やコミックといった書籍の入った本棚。コチラは自由に閲覧する事が可能なので、上映開始までの空き時間を本を読みながら待っていられるのが嬉しいサービスだ。ロビーを挟んで左右に配されているワンスロープ式の場内は、どの場所からも観易い設計が施されている。 駅から歩いて来られるというという事で、昔からお馴染みの年輩のファンが数多いのも劇場の特長の一つだ。「こうした映画館に来てくださるお客様にベストな環境を提供するのが私たちの使命と考えています」と語る飯島氏は、映画館の良さを「途中で止めたり一時停止出来ない不自由さがある事」だという。
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「何ものにも邪魔されない映画館に来場されたお客様のためにも環境作りは、各スタッフが厳しい目でチェックしています」例えば、空調関係は副支配人が選任されており、季節や天候によって左右されない…いつも一定の温度調整に目を光らせている。「エアコンが付いているか付いていないかが分らない…という微妙な設定にこだわって完璧な空間を作り上げているので、他の施設に行った時、室温が妙に気になってしまいます」と言う程。他に飯島氏がこだわるのは「音響に関しては、映画館である以上、絶対に手を抜けない部分です。単純に大きければ良いというものではなく、つぶやき声みたいな小さい音を基準としており、アクション映画の爆発音のような一番大きな音とのバランスを調整して最適の音量を設定するように心掛けています」最高の環境を作る事に妥協をしないスタッフが作り上げた映画館で至福の一時を是非、体験してもらいたい。(取材:2009年9月) |