出雲空港から日本百景に選ばれた宍道湖を眺めながら、島根県の県庁所在地である松江市に向かって30分ほどのバスの旅を楽しむ。数時間前まで雨だった雲の切れ間からオレンジ色の太陽の光がサーッと湖に注がれる幻想的な景色に心を奪われた。宍道湖を背にして松江藩の城下町として栄えた街は、湖から幾重に延びる堀川の美しさから、東洋のベネチアと言われる水の都だ。宍道湖から中海に注ぐ大橋川によって市街地は北側が橋北、南側が橋南と呼ばれ、南北に二分されている。JR山陽本線の松江駅から線路沿いに歩くこと10分足らずの場所に地上3階建てのショッピングモール・イオン松江店がある。1994年5月1日、マイカルが運営する松江サティとして開業した日は、朝から7000人もの市民が詰めかけたという。その3階に島根県初のシネマコンプレックス“松江SATY東宝”が同時にオープンした。


サティに入るシネコンというと当時は、“ワーナー・マイカル・シネマズ”が主流だったが、コチラに限っては、東宝とマイカルが共同出資するサティ東宝(株)を立ち上げ、独自のシネコンをオープンさせた。かつて市内に洋画系の“松江中央劇場(500席)”を筆頭に、大手メジャー各社の直営館も含めて5館あった映画館も1990年代には全て閉館していた時代だ。県内初のシネコンといっても、共通のコンセッションや入替え制などのシステムは、既に知れ渡っていたからだろうか、特に戸惑われるお客様も少なかったという。現在は、中国地方を中心に映画館を展開し、1995年から東宝株式会社の完全子会社となった歴史ある興行会社の関西共栄興行(株)が運営を引き継ぎ、2012年9月に『松江東宝5』と改名して、遠くからでもよく見える大きな看板を外壁に掲げている。

平日の日中は若者の姿もまばらだが、朝8時と早朝から営業している松江サティにはお年寄りが多い。エスカレーターで3階に上がると、明るい照明のフロアの一角にシックな照明の『松江東宝5』がある。朝早くから、お友達を連れ立った多くのお年寄りが訪れ、不慣れな自動券売機をスタッフに教えてもらいながら操作する光景が見られる。取材した日も島根県のご当地映画である“たたら侍”が終わると10名近くのお年寄りの団体が口々に昼食の相談をしながらワイワイと出て来た。「ウチの劇場は結構、中高年からご年輩まで、比較的高い年齢のお客様が来られるんですよ。やはり駅から近いため、ご年輩の方が足を運びやすいので、かなりの強みになっています」と劇場スタッフが語ってくれた。また夏休みに入ると子供会の映画鑑賞会が催されたり、ファミリーから中高生が多くなる。



チケットを購入(お得なシネマポイントカードもある)して、開場までの時間は共有スペースである向かいのフードコートを利用出来る。劇場のコンセッションスタンドのスナックやドリンクでもOKなのが嬉しい。過度な飾り物がない落ち着いた雰囲気を持つ奥行きのあるロビーは完全バリアフリーとなっている。『松江東宝5』の特長は5つの場内がそれぞれ個性的なデザインとなっているところ。「最近のシネコンはコスト面からも場内はどうしても同じ仕様になりますけど、ウチは古い劇場ですから(笑)ひとつひとつ違うんです」特に天井の造形は、劇場の広さと音の反響を考慮したためだろうかユニークなデザイン(中でもスクリーン2の造形は素晴らしい)が施されている。またワンスロープで縦長の場内もスクリーンが適度な高さに設置されているので、どの席からでも観易い設計が施されている。

昨年、大ヒットを記録した“君の名は。”には若者だけではなく後半は幅広い年齢層が来場した。オープンしてから最大のヒットを記録した98年秋公開の“踊る大捜査線 THE MOVIE”にも幅広い年齢層が詰めかけて、まだ全席指定ではなかった劇場の前には長い列が出来た。思えば、両作品共若者に支持を受けてシニア層へと人気が拡大したケースだ。ちょうどシネコンが登場してブロックブッキングへと移行する当時は、ネット社会に移行する現代と共通点を感じる。松江は冬になると腰のあたりまで雪が積もる豪雪地帯だが、それでも雪が降ったからといって客足が遠のくということは特に無いそうだ。ひとつ確かな事は雪が降る中でも訪れてくれるお客様はネットやデジタルではなく、映画館の椅子に座って大勢の人たちと観る…極めてアナログな体験を求めてやって来るという事だ。(2017年7月取材)


【座席】 『スクリーン1』127席/『スクリーン2』126席/『スクリーン3』180席
     『スクリーン4』231席/『スクリーン5』115席
【音響】 『スクリーン1・2・5』SRD/『スクリーン3』DTS・SRD/『スクリーン4』SRD-EX・SRD

【住所】島根県松江市東朝日町151イオン松江店3F 【電話】0852-28-2100

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