大阪と京都…共に電車で15分ほどの距離にある高槻市は、人口35万人のベッドタウンとして栄えた政令指定都市だ。JR東海道線と京都線が停る高槻駅前は、2004年に行われた駅前大規模再開発によって、一気に商業機能が向上して住みやすい便利な街に変貌した。駅コンコースとベストリアンデッキで直結する駅前に建つ高層ビルのアクトアモーレには、高層階にオフィスと居住エリア、低層階には複合商業施設アルプラザを有する住民の生活拠点となった。近くには商店街もあるため、平日の夕方には学校帰りの中高生や、買い物が終わって帰宅する主婦たちで賑わいを見せ、日が落ちて辺りが暗くなると仕事帰りの会社員の姿が多くなる。そんなアルプラザの5階に近畿地方を中心に5サイトの映画館を展開する(有)アレックスが運営する5館目のシネマコンプレックス『高槻アレックスシネマ』がある。


「高槻には映画館はウチだけなので、若い人には近所を散歩がてら映画を観る感覚で来てもらえると嬉しいですね」それでも子供たちの休みシーズンともなるとファミリー向けの映画が中心になり、ロビーの様子はガラリと変わって、あちこちで黄色い歓声がこだまする。打って変わって、シーズンオフの平日は地元のご年輩がゆっくりと映画を楽む姿が見られる。上映作品も時代劇などの日本映画がメインとなり、山田洋次監督作品や吉永小百合主演の映画が人気という。「大阪が舞台だった“後妻業の女”には、連日、朝早くから多くのお客様に来ていただけました。やはり大阪が舞台のご当地映画が強くて、高槻は阪急も走っているので“阪急電車 片道15分の奇跡”も評判が良かったですね」他にも名作上映は不動の人気を誇り、午前十時の映画祭では、作品が入れ替わるたびに来られる常連のお客様が多く、帰りがけに面白かったよ…と声を掛けていただくこともしばしば。「常連のご年輩の方が多い地域にある映画館としては、こうした名作上映はありがたい企画です。昔の映画をスクリーンで観る機会はなかなか無いので若い人にも観てもらいたいですね」

前身は2004年2月21日にアルプラザ設立時にオープンした『TOHOシネマズ高槻』。2007年6月には高槻を拠点とするパチンコ店などのアミューズメント施設を経営していた企業に営業を譲渡して『高槻ロコ9シネマ』となった。しばらくは駅前という利便性から多くのお客様が訪れていたが、映画興行事業からの撤退に伴って2011年9月5日に閉館。そして(有)アレックスが運営を引き継ぎ、アレックスシネマの中で最大のスクリーン数を有する『高槻アレックスシネマ』として、僅か10日後の9月15日に再オープンすることとなった。「高槻は大阪と京都のベッドタウンとなっているので、ウチにいらっしゃるお客様は地元の小学校に通うお子さんがいるファミリー層とか、高槻市在住のシニアの方が多いです」と語ってくれたのは支配人を務める茶谷徹氏だ。駅から直結という利便性の良さのおかげで、車を運転しない層の人たちが気軽に来場出来るのも大きな強みとなっている。ただ、利便性に優れた街には、住みやすい反面、外に出て行きやすいという一面がある。「若い人たちは、繁華街のある大阪や京都に行かれちゃうんですよね」と頭を抱える。


エスカレーターで5階に上がると間接照明の落ち着いたエントランスがある。天井を見上げると、遊び心溢れるモザイクのデザインが印象的だ。お客様の入れ込みも一段落した平日の夕方は、ロビーにも少しの間だけ静寂が訪れる。数分前までの賑わいが嘘のようだ。と思ったのも束の間…学校帰りの女の子たちがグループでワイワイ言いながらエスカレーターから降りて来てチケットを購入する。駅近のシネコンは目まぐるしく変化するものだ。あれよあれよという間に、ロビーに設置されているベンチは、次の回を待つお客様で適度に埋まってしまった。『高槻アレックスシネマ』には、なかよしコースという入会金無料の会員制度があり、ポイントごとにポップコーンや招待券と引き換えが可能。珍しいのは、火曜日のメンバーズデーに来場されると本人だけではなく同伴者5名まで割引サービスを受けられるのだ。火曜の仕事帰りには職場の仲間を誘って映画観賞会を開いてはいかがだろうか?チケットを購入して入場すると…薄明かりの中、天井の間接照明に仄かに照らされるコリドーのラグジュアリーな雰囲気に気分も高揚する。シアターごとにデザインが異なる場内はどれも個性的で、427席の『CINEMA2』では大スクリーンで迫力ある映像を体感出来る。また、かつてプレミアムシアター(現在は一般料金で利用可)だった『CINEMA9』は全てテーブル付きのカップルシートで、更にリクライニング仕様となっているので贅沢な気分を味わえる。


昨年は、6月に高槻と茨城を震源とする大阪北部地震が発生したり、夏には大型の台風が立て続けに直撃するなど自然災害に見舞われた年だった。「地震があった時、私はちょうど出社したところで…本当に怖かったです。結局、インフラが全て止まってしまい、それから3日間は上映が出来ませんでした。完全に復旧するのに10日くらい掛かったんですよ」それでも、夏休みに開催された映画館の裏側を紹介するバックヤードツアーには多くの子供たちが参加してくれた。映画がどのように上映されているか、ポップコーンがどうやって出来上がるか…というスタッフの説明に子供たちは目をキラキラさせて聞き入ってくれたという。「最後にクイズ大会をすると、みんな喜んでくれて…本当にやって良かったなと思いました。ここで見た映画館の仕事について、ずっと記憶に残ってくれたら嬉しいですね」

そんな茶谷氏もまた、子供の時にお父さんと初めて映画館で観た“ゴジラ”が、今でも忘れられないという。「どこで誰と観たというのは、おぼろげながらも残っているものですよね。私がこの仕事を選んだ理由も、その時の楽しかった思い出が残っているからなのです」茶谷氏は、『高槻アレックスシネマ』が、そんな思い出の場所になってくれたら…と続ける。「映画自体は既に完成されているので、僕らが映画をもっと面白くする事は出来ません。…でも、観に来てくれたお客様が、もっと楽しんでもらえる環境を作り上げる事は、私たちに出来ることです。今度は自分の子供にも同じ体験をさせたいですね」映画が終わり場内が明るくなる。思い切り背伸びして、あぁ面白かった…と言って席を立つ。そんな単純な満足感を味わらせてもらうために映画館はあるのかも知れない。(2018年8月取材)


【座席】 『スクリーン 1』283席/『スクリーン 2』427席/『スクリーン 3』162席/『スクリーン 4』151席
     『スクリーン 5・6』129席/『スクリーン 7』158席/『スクリーン 8』301席/『スクリーン 9』78席
【音響】 デジタル5.1ch

【住所】大阪府高槻市芥川町1-2アルプラザ高槻内 【電話】072-684-8088

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