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「まるで流れているとは思えぬほど静かに平面的に、翡翠と青磁を練りあわせたような深い色をして横たわっている。」これは有吉佐和子の原作“紀ノ川”のラストで書かれた和歌山城の天守閣から街の中心部を悠々と流れる紀ノ川の情景だ。名匠・中村登監督が映画化した“紀ノ川”では、主人公の花を司葉子、娘の文緒を岩下志麻が演じており、ラストシーンでは昭和30年代の和歌山市内が映し出される。関西空港から南海特急に乗り継いで40分程…和歌山市駅に到着する手前で視界が開け、市街地と紀ノ川が車窓いっぱいに広がる。河口付近の川幅は500メートル近くあって、電車が川を渡る時、その大きさに圧倒されてしまった。ここ和歌山市は、川を挟んで南北に分かれており、南側は、紀州藩の城下町として栄えた歴史ある建造物や街並みが、今も各所に残る旧市街で、南海電鉄とJRの駅がある。北側は、和歌山大学や郊外型のショッピングモールを中心に住宅地が広がり、新しい街が形成されている。和歌山港に面したエリアには戦中の1942年から操業する日本製鉄和歌山製鉄所があり、端から端まで車の移動に10分も掛かる広大な敷地を有する。戦後の好景気には街に住む多くの人がここで働いていたが、オートメーション化されてからすっかり減ってしまった…とタクシーの運転手さんが話してくれた。 |
紀ノ川を渡ってすぐのところに、かつて日本製鉄の広いグランドがあった。その跡地に、県下最大級の品揃えを誇る書店やレンタルショップ、カフェなどを有す大型エンターテイメント施設・ガーデンパーク和歌山がオープンしたのは2004年12月11日。全面ガラス張りで開放的な吹き抜けのエントランスから、エスカレーターで2階に上がると、10スクリーンを有するシネマコンプレックス『ジストシネマ和歌山』がある。運営するのは和歌山県を中心に近畿・中部地方で160店舗以上のスーパーマーケットを展開する（株）オークワを母体とするエンターテイメント部門の（株）オー・エンターテイメントだ。和歌山県内に4サイトの映画館とスポーツクラブやボウリング場などカルチャーからスポーツ、そして書籍やDVD・CDなどの販売・レンタルといったコンテンツビジネスまでエンターテイメント空間の創造に力を入れている。「元々、オークワが新しい店舗を立ち上げる時に、古い店舗の跡地を活用したりしていくつもの商業施設が建ち並ぶ街を作ったのが始まりです。そこに大きな柱としてジストシネマが入った…というのが前身です」と語ってくれたのは次長の連石紘充氏だ。 『ジストシネマ和歌山』があるガーデンパーク和歌山は、1階に、書籍、文具、そしてCDとDVDのレンタル・販売を行うTSUTAYA WAYとなっており、映画が気に入れば、帰りがけに、サントラ盤CDや原作本を購入したり、監督や出演者の過去作品のDVDをレンタル出来るのが嬉しい。また、コチラで発行されているOEカードは映画館の割引は勿論、TSUTAYA WAYとも連携してレンタル機能を付けたり、ジストボウルやジストスポーツでもお得に利用出来る。更にOEカードにシネマ会員の登録をすればポイントサービスも付加される優れものだ。長年、WAYに配属されていた連石氏は、同じグループだからこその強みを活かして、映画館という枠に捕らわれず、部門間の垣根を越えた企画を繰り出して来た。WAYの担当者と連携して、上映作品の関連書籍やサントラ盤CDを増やしたり、DVDの発売時には映画館で飾っていたポップを使ってコーナー展開もされている。
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来場されるお客様は、近隣に住んでいるご年輩が多く、名作からアート系、人間ドラマなど上質な作品に人気が集まる。『CINEMA 1』のスクリーンは横17.3m×縦7.2mと大迫力のサイズで若者に人気がある。一方サロンシネマと名付けられている『CINEMA 4』は全席にサロンシートと呼ばれるワンクラス上の椅子を採用。ここだけはジストシネマがおススメする独自の番組編成を行っている。サロンシネマのファンとなった常連さんも多く、平日の朝早くから来場しては世界の名作をたっぷり堪能して帰る…なんて贅沢な一日を過ごされている。「午前十時の映画祭のような名作から、和歌山ではなかなか観る事が出来ない作品を厳選しています。ジャンルもバラエティーに富んでいて、たまにB級C級のアクション映画やスリラーを入れたりすると、中高年の男性のお客様が結構多くいらっしゃいますよ。今ではこのラインナップもしっかり定着しており、次何やるの？大阪には行かないからここでやって欲しい…といった声も多いです」 「お客様を何とか和歌山で止めたい」という連石氏。「遠くにお住まいのお客様は紀伊半島の下（南）…御坊や田辺、串本から高速を使って一日掛かりで来ていただいてます。だから単館系の作品を遅れてでもやらないと、そういったお客様が大阪まで流れてしまうのです。早めにウチでやりますよって、伝えることで大阪への流出をここで食い止めたいのです」そうした思いはお客様にも伝わり、だったら待つよ…と言って下さる方も多い。オープンから15年。子供の頃“名探偵コナン”を観ていた人たちも、今では自分の子供と“名探偵コナン”を観に来るようになった。「アルバイトの面接で、昔、お婆ちゃんと来ていましたと、言う子も多いです。僕たちが昭和を懐かしく思うように、今の若い子たちは平成に出来たシネコンをそういう思いで見ているんですね。思い出はジストシネマさんで観たコナンとポテトの味なんですって、若い人から言われるのが嬉しいです」ちなみにそのフライドポテトは、自慢の逸品で知る人ぞ知る隠れた名物。表面がカリカリサクサクの食感を目当てに来場される方も多いそうだ。 |
『ジストシネマ和歌山』ではアニメに力を入れており、グッズの品揃えには定評がある。“ONE PIECE FILM STORONG WORLD”の上映時には、来場者特典で単行本0巻を配布したのも手伝ってロビーをファンが埋め尽くす事態となった。「その当時、僕は他店舗にいたのですが、映画館がえらいことになっているってスタッフから報告を受けましたよ」最近では、“この世界の片隅に”と“君の名は。”には、若者に混じって多くのご年輩のお客様が来場した。中には初めて観たアニメに感動してスタッフにお礼を言われる方もいたそうだ。他にも毎月第二・第四水曜日に開催される子育て中のお母さんに大人気の上映会マザーズシネマがある。ここでは子供の泣き声もOKだし、空調や音量の設定を控えたり、場内も明るめにしているのでお母さんも安心して子供と一緒に映画をゆっくり楽しんでもらえる。また平日には耳の不自由な方のための吹替え＋字幕付上映も行っている。 2018年9月…『ジストシネマ和歌山』は未曾有の災害に見舞われた。立て続けに関西に上陸した大型台風によって9月4日から13日まで休館を余儀なくされた。関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突して機能がマヒしていた映像を覚えている方も多いだろう。その台風の直撃をモロに受けたおかげで、チケット売場の天井が吹き飛ばされて穴が空いてしまい、そこから大量の雨が吹き込んできたのだ。「台風が来たのは夜中でしたから、朝、出勤して驚きました。本当に運営が再開出来るのか？と思いましたよ」滝のように流れ込んだ水でロビーは水びたしとなりスタッフ総出で復旧を急いだ。幸いな事に映写機とエアコンが故障していなかったおかげで再開の目処も立った。2週間後に一部のスクリーンで上映を再開すると、待ち兼ねたかのように多くのお客様が詰めかけた。仮設のコンセッションで缶のドリンクを仕入れて、何とか販売が出来た時のお客様の笑顔と励ましの言葉は今も忘れられないと連石氏は語ってくれた。（2019年4月取材） |
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【座席】 『CINEMA1』401席／『CINEMA2・3』275席／『CINEMA4』68席／『CINEMA5・6』88席 【住所】和歌山県和歌山市松江向鵜ノ島1469-1ガーデンパーク和歌山2F 【電話】073-480-5800
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