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『シネティアラ21』の前身は駅から少し歩いた星川通りで1950年代に長谷川氏の祖父によって設立された「銀映」という愛称で親しまれた『熊谷銀座映画劇場』である。その後、1985年に複合ビル「熊谷グートビル」に建て替えられた際、ビル内に『熊谷シネマ1・2・3』としてE.T.≠こけら落としでリニューアルオープンした。1990年代には4スクリーン体制となり『シネプラザ21』に改名。ちなみに館名にある「21」という数字について尋ねてみると「私も子供の頃にその理由を質問したのですが21世紀につながる≠ニいう意味を込めたそうです」近隣には東映系封切館の『富士見劇場』も経営しており、市民にとって映画を観るなら鷹の羽興業の映画館で…という認識が強く植え込まれていたのだろう。2000年には『富士見劇場』が閉場して東映系の作品も『シネプラザ21』が引き継いでいたが、駅ビルの建設計画が立ち上がると『シネティアラ21』に移行する形で2003年9月30日に閉館した。 |
『シネティアラ21』の設計コンセプトはズバリ「高級感の創出」だ。その言葉通り、エスカレーターを上がって、一歩エントランスから足を踏み入れると、目の前に広がる建物の3階分はあろうかという高い天井のロビーに驚かされる。照明を落としたシックな雰囲気のロビーは、中央に構える大きな円柱と入場口の上部にあるモニュメントの装飾が正に高級感を醸し出している。また、ロビーの天井が暗く逆に足下が照らされている陰翳のおかげで、全体像を見えにくくすることから生まれる空間の奥行きを感じさせる。 コンセッションはアメリカンスタイルのビッグコンセッションと呼ばれる大型売店で、映画館の楽しみでもあるスナックやドリンクの購買意欲に拍車がかかる。また入場後にも1番スクリーン扉の横にコンセッションのスタンドがあるのも特筆ポイントだ。お客様からも入場後に売店のスタンドがあることは高評価をいただいているそうだ。「設計の段階から活気のある売店を作ろうという計画でした。話題作の初日には入場時間前にどうしても売店にお客様が集中してしまうので、そんな時はレジをフルで開いてお待たせしないようにしています」仄暗いロビーでひと際明るいコンセッションは観客が映画に抱くワクワク感を更に増幅させる起爆剤となっているのだ。 どこの映画館もコロナ禍以降、ロビーでの飲食スペースは縮小傾向にあるのが現状だが、コチラでは飲食スペースが広めに取られており、コカ・コーラのロゴが入った椅子がアメリカンな雰囲気を盛り上げている。お客様は上映までの待ち時間や待ち合わせに利用されているが、今後はこのスペースを有効的に活用してもらおうと、映画関連本を置いた本棚を設置して、映画を観ない人たちにも気兼ねなく利用してもらいたいと考えているそうだ。映画館を開放してもっと楽しんでもらいたい…今でも他の映画館に行くのが楽しみという長谷川氏は「家業が映画館だからでしょうか…子供の頃から映画館が好きでした。だから今でも映画館に行くとワクワクするのです。映画館って遊園地よりも身近にある施設なのに非現実感を手軽に味わえるというのが良いところだと思うのです。遠出をしなくても非現実の世界に入り込める映画館にいつも行っていたので、気軽にウチのロビーで非現実感を味わってもらえたら嬉しいですね」 |
場内のスクリーンは目に優しい劇場独自のDT-PH1スクリーンを採用。音響システムも作り手が意図する音を忠実に再現する独自のCDPS(シネティアラ21ダイナミックピュアサウンド)を全スクリーンに導入している。座席に関しても長時間座っても疲れないよう大きめのシートになっており、多くのお客様から好評価をいただいているという。「せめて映画はのんびりリラックスして100%集中してもらえるよう設計しました」ちなみにヒット作はご当地の強みで前述の翔んで埼玉2 琵琶湖より愛を込めて≠ェ記憶に新しく、その時ばかりの場内は県外からも訪れた人たちで賑わった。他にも2012年に公開した犬童一心監督の時代劇のぼうの城≠ヘ舞台が隣の行田にあった忍城であることから動員数と興行収入共に全国1位となる大ヒットを記録している。 平日の昼間はお年寄りがメインだが3時過ぎると学校帰りの学生さんでロビーは賑わいを見せる。「女子高生がデートで来るような恋愛系の作品は本当に強くて近隣の映画館と比べても大きく差が出ることもあるんですよ」近年は各映画館がサービスデーの価格も値上げを余儀なくされている中、コチラではメンズデーとレディスデーの料金は従来通り1000円据え置きにされている。「正直値上げをしないと厳しい状況なのですが、私たちのような地元企業が20年間もシネコンを続けられたのは、近隣の皆さんのおかげだと思うので、恩返しの意味も込めてサービスデーの価格は安くしています」また学生が多い街ならではのサービスとして、大学生は平日17時から20時まで1000円で観賞出来るアフタースクールショー割引も長年実施されている。「ウチは学生に強い映画館なので、なるべく学生さんに遊びに来てもらいたいので設定しました。学生さんもたくさん下宿されているので、放課後は出来るだけ地元で遊んでもらいたいという思いです」 |
そしてもうひとつ人気のイベントとして、長年夏・冬・春の子どもたちの休みシーズンに開催されている映画館の裏探検ツアー≠ニいうものがある。このイベントは2時間くらいかけて日頃見られない映画館の裏側を見学するツアーだ。「小さいお子さんが対象で、映画館はこういうところだよ…と知ってもらうのが目的のイベントです」例えば売店のバックヤードで実際にポップコーンを作ったり、映写室の小窓から場内を見てもらう。実はツアーの間にスタッフが子供たちの様子を撮影しておいて、最後に場内に入るとスクリーンにツアーの様子を撮影した映像が投映されるサプライズが用意されている。「今の子供たちはサブスクで家で映画を見られる環境にあるため映画館に行く機会が少なくなっていると思うのです。だから映画館って楽しい場所であることを知ってもらいたくてこのイベントを始めました」その思いは充分伝わっており、子供たちから毎週やって欲しい!と嬉しい声が上がっているそうだ。「どちらのイベントも受付開始から30分くらいで埋まってしまう程です。お陰様で映画館で遊ぼう≠ヘ、冬休みも開催する予定です。映画を観る以外に映画館で遊ぶ機会なんてなかなか無いので、子供たちにいつでも遊びに来てイイ場所なんだ≠ニ感じてもらいたいですね」 |
コロナが明けて客足も少しずつ戻りつつあるというものの以前のようには回復されていないという。「昔は映画を観るために時間を作って予定を立てていたのが、今は時間が出来てから映画の予定を組む…に意識が変化した感じです。結局、映画館の需要って何だろうって考えた時、どうしても作品だけに頼ってお客様を呼ぶのは難しいのかなって思います」そこから考えられたのが、今年の夏休みから始めた子供たちに向けた映画館で遊ぼう≠ニいうイベントだ。「昔は映画館に映画を観に行こうとか、映画館に遊びに行こうという会話が多かった。でも今はそういう会話が減っている気がするのです。あまりにも色んなエンターテインメントが多過ぎて、選択肢が増えたため映画を観に行こうとなりづらいのかなと思ったのです」この映画館で遊ぼう≠ヘその名の通り、開場前に子供たちに集まってもらい映画館全体を使って遊んでもらうというもの。例えば、ロビーでダルマさんが転んだをやったり、映画館の色々な場所に数字を隠してフィールドビンゴを行う。「この時は好きなところに入ってイイよということにして、カウンターの内側やスクリーンカーテンの裏側に数字が書いているのです。普段は1番スクリーンのステージに上がる機会はなかなか無いので子供たちは喜んでいますよ」 |
こうした自由な発想のイベントが生まれるのも長年この地で地元の人たちと触れ合ってきた映画館だからこそ。たまの休みに家族や友人・恋人と映画館に訪れて、たくさんのお菓子や飲み物を抱えて座席に着く。カーテンがゆっくりと開き場内が暗くなる時の高揚感は昔も今も変わらない。昔、お母さんやお父さんに連れられて訪れた映画館に今度は恋人や新しい家族と一緒に観に来る。だから自分の街に映画館があることは地元の財産なのだ。子供の頃ゴジラ≠観るつもりだったのに間違えてロビン・ウイリアムズのジャック≠観てから洋画にハマってしまったという長谷川氏。「それまで洋画なんて観たことも無かったのに、出るのも面倒なのでそのまま観たら…それがすごく面白くて一気に洋画にハマってしまいました。もし映画館で観ていなければここまで入り込めていなかったと思います」だからこそ今の若い人たちにも初めて観る作品は映画館で観て欲しいと長谷川氏は次の言葉で締め括ってくれた。「映画館はワクワクする楽しい場所です。そんな映画の魅力を広めて行きたいですね」(2024年11月取材) |