1等賞が出たらスタッフ全員で「オメデトウございます!」と拍手喝采で盛り上がり、割引企画でユニークな仮装で来場されたお客様はポラロイドで記念撮影…映画館とは思えないノリで湧く光景が見られるのがココ『シネクイント』だ。1997年7月“バッファロー’66”という超ロングランヒット(ミニシアター観客動員数歴代2位!)を作った上映作品でオープンしたコチラの劇場は渋谷の中でも最も若者たちが集まる中心─スペイン坂を上がったところに位置する“渋谷パルコ・パート3”の8階にある。元々、映画・演劇・コンサートなど行っていた多目的ホール“SPACE PART3”を映画専門館にリニューアルしたものだ。「オープニングの大ヒットで、満足度の高い作品を掛けている劇場として認知していただいて、そういった安心感をお客様に持ってもらい続けているのはウレシイですよね」と支配人の斎藤智徳氏は語る。

オープンから現在に至るまで着実にヒット作を送り続けている『シネクイント』だが斎藤氏の評価は常に冷静だ。「ただ映画は水ものですから、たまたま上手く今の時流に乗っていますけど、当たると思っていた作品が思ったよりも伸びなかったり…作品選定は気が抜けないですね」渋谷という街は新しいモノ好きの多種多様な人間が集まる場所でもある。テンポが早くそれだけに何が受けるか予測することが難しい。コチラの劇場はそんな渋谷のミニシアターの中でも後発でオープンした映画館だが、経営母体は昔から渋谷系の若者たちの嗜好を考え常にリードし続けてきた“パルコ”だけに、そういった人間たちのアンテナにピッタリとマッチした作品を送っている。

「渋谷に集まる人は新しいモノ好きでありながら凄く“とんがったモノ”を求めているかというと、実はそうでもなくて、非常にマスな感覚を持った人達でもあるんですよ」と語る広報・番組編成担当の安田裕子さん「ただ“とんがって”いて最先端なんだという売り出し方をしても付いて来てくれない…かといって全国をターゲットにしているようなベタな打ち出し方をしてもソッポを向かれてしまうんです。ですからエッジの立った見せ方をしていながら中味はベタに近い(オシャレ感はあるけれど典型的な部分が残っている)映画が受け入れられるんです。だからこそ何が当たるか予測がつかないんです」事実、こちらでヒットした作品を見ても内容は解り易くアート指向に走っている作品ではなくコメディはコメディの王道を恋愛映画はラブロマンスの定石を踏まえている。それでいて何か新しさを感じる作品、というのが特徴的だ。作品選定から宣伝に至るまで全て配給会社まかせではなく一緒に考えていくのもコチラの劇場ならでは。月1回3〜4本立でトークショーを絡めたオールナイトも好評だ。「やはりお客様に直に接している我々が発信源となっていかなくては良いものが生まれないと思うんです。自分たちが満足できるからこそ自信を持ってお薦め出来るんですよね」という安田さんの言葉通り上映作品に対する思い入れには自信と力強さを感じる。


場内はシンプルに黒とグレーで統一しており、これは映画鑑賞に集中できるように余計な配色を排除した劇場の配慮だ。イスは座り心地の良いキネット社製を使用し、幅を広めにとってある事とフカフカしたクッションが実にリラックスできるのだ。「お客様が映画館で満足できる2時間を提供すること。ハッピーエンドじゃなくても“お金を払っても観に来て良かった”と思える何かを残してくれる映画だったりサービス、劇場の雰囲気作りを大事にしています」という言葉通り笑顔で迎えてくれるスタッフの接客は、きっと心地よく印象に残るだろう。

劇場の売店で販売されている商品は支配人やスタッフが探し出してきた珍しい一品ばかりで特に定番のベルギービールは是非、試していただきたい。また、上映作品にちなんだビール(好評だったのは“アタック・ナンバー・ハーフ”の時に販売されていたタイのシーハー・ビール)も劇場のウリのひとつ。ビール以外にも“ギャラクシー・クエスト”公開時にはスナックとして宇宙食を発売していたりと作品を観ながら飲んだり食べたりしているとまるで映画の中に入り込んだ気分になってしまう。また、支配人オススメのポップコーンとサッポロポテトの自動販売機もレトロな魅力と珍しさから人気の商品だ。この販売されている商品を見てお解りの通り、コチラの劇場では場内の飲食は自由となっている。「仕事が終って最終回を観ようとすると、どうしても駆けこんで来られる方が多いですよね。お腹をすかして約2時間、我慢するというのは辛いはず…他のお客様に迷惑が掛からないマナーを守っていただければ飲食は自由です」全席カップホルダーを設置しているからリラックスして映画鑑賞が楽しめるのだ。他にも上映作品に合わせたグッズを豊富にとり揃えているが、何と言っても好評なのはパンフレット。これは劇場と配給会社が毎回苦心の末に作り出したモノ。「配給会社の自由な発想を取り入れながら、お客様に毎回楽しみにしてもらえる記念品にしたいという気持ちで考えています」という言葉通りビニールケースに入っていたり、まるで雑誌の付録のような懐かしいパンフレットなど、いつもワクワクさせられる。


『シネクイント』では入場券の半券を次回提示すれば1000円で観る事ができる『チケットリターン・システム』。また、映画が大好きなスタッフばかりだから、ユニークな企画割引に思いきって参加しよう。スタッフもノリノリで記念写真を撮ってくれるから映画の想い出もちょっと違った物になるはず。ちなみに“アタック・ナンバー・ハーフ”でバレーのユニフォーム着用の6人組は1000円という企画でママさんバレーチームが大挙して押しかけたとか…あまりの数の多さに公開中、写真をロビーに掲示されていた。そして今年の3月から開始されたユニークな企画“ちけクジ”は当日チケットを購入すると当日券になんとクジが付いているというもの。星の数で景品が変り1等が出たら半年間有効の劇場招待券が当たる。他にも上映作品ごとに変る企画割引(チラシなどで告知されているスタイルで来場すると割引になる)はお祭り感覚で参加したい。サービスを第一に考えている劇場だからお客様が何を望んでいるかを常に模索し、様々な楽しみ方を提供していく…ライブ感覚で映画館を楽しむ事が出来るのも『シネクイント』なのだ。(取材:2001年7月)

【座席】 227席 【音響】SRD・DS・SR

【住所】東京都渋谷区宇田川町14-5渋谷パルコパート3 8F ※2016年8月7日を持ちまして休館いたしました。

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street