かつて新宿にはヤクザ・任侠映画専門の名画座があった。そこでは3本立て興行を週替わりで行い、硬派な男たちの憩いの場所として親しまれていた。平成14年2月、永い歴史を持つ“新宿昭和館”は建物の老朽化を理由に閉館…多くの映画ファンが最終日に別れを惜しむため詰めかけた。それから2年後の平成16年3月6日、同じ敷地にアパレルや飲食店が入ったテナントビル“SHOWAKAN-BLD”が建ち…そして、そのビルの3階に新宿で4番目のミニシアター『K's-cinema』が新しくオープンした。女性に優しい劇場を目指し、ロビーに設置されているインテリアや室内装飾はデザイナーズブランドを使用する等、昔の“新宿昭和館”面影は一切無い。


「どうしても取材される皆さんは“新宿昭和館”のイメージが強いらしいのですが私たちは映画館をリニューアルしたつもりは無いのです。たまたま同じ場所に新しい映画館を造ったと思っていただきたい」と語ってくれたのは支配人の山本龍二氏。山本氏は“新宿昭和館”の時にも支配人を務めており「まぁ、私が“新宿昭和館”最後の支配人だったせいもあるんでしょうけど(笑)…その私が、また劇場の支配人を務める事になったので皆さんはココでヤクザ映画を上映するのだと思ったらしいですね。ただ、今回はテナントビルの中の劇場で映画館単独でやるのとは訳が違いますから。以前みたいにヤクザ映画や成人映画はかけられないんです」元々コチラのビルのオーナーが“どんな形でも良いから映画館だけは存続させていきたい”と要望し、名画座とは全く違ったミニシアターとしてスタートさせたという。

ところが…「正直言って名画座の時とミニシアターではプログラムを組むやり方が全く違うんですよ。名画座はフラット(作品の上映権を買い取りプログラムは劇場側で決める事が出来る)であったのに対してロードショウ作品の場合は配給会社との取り決めで劇場の自由には出来ないという制約があったりして…全く名画座時代の知識は役に立ちませんでした」と語る山本支配人の言葉通り歩合制の新作は一日の上映時間(スケジュール)も配給会社からの要望(最終回の時間は何時までといった)があるなど、かなり細かい制限が付けられる。「そのためプログラムに関しては専門家を入れて番組構成をしています」

コチラの上映作品はジャンルとして特に固定されておらず製作国も千差万別、共通しているのは女性が観易い映画をセレクトしている。「まだオープンして半年も満たないですからジャンルを決めるには早過ぎると、思っています。むしろ良質の作品を掛けていって、まず場所を認知していただくことが今一番の課題ですね。とにかく女性の方に知っていただきたい…」将来的には女性映画の専門館にしていきたいと言われるように劇場の雰囲気は明るく気品ある柔らかさに溢れている。 エレベーターを降りると目の前にロビーが広がり、通りに面した全面のガラスからは充分な自然光が射し込んでいる。むきだしのコンクリートの柱は透明アクリル版をあしらったチラシディスプレイとなっており、ロビーに設置されているイスやテーブルはカッシーナなどのデザイナーズブランドを使用している。









女性用トイレも男性用に比べ、充分なスペースを確保するなど女性を意識した設計が施されている。場内は88席という小規模ながらも天井が高くゆとりがあり、傾斜と感覚が充分に取られた座席は観易さの点では文句がない。スクリーンも高い位置に設定されており前列の頭が邪魔になる事は無く、居心地の良い空間を実現させている。「新宿はまだまだミニシアターが少ないですから、定着していけば後発の劇場ですが他所には負けない自信がありますよ」と語ってくれた山本支配人。これからサービスや特集上映等も検討していく予定だという。確かに、新宿の裏通りに位置するコチラの劇場は仕事帰りにぶらりと立ち寄りたくなるプライベートな隠れ処的な映画館となるだろう。(取材:2003年7月)

【座席】84席 【音響】DS・SR・SRD・SRD-EX

【住所】東京都新宿区新宿3丁目35-13 SHOWAKAN-BLD3階 
【電話】03-3352-2471

  
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