|
1954年4月20日、“劇団俳優座”の創設者である千田是也氏が「自分達の出来る範囲で自分達の夢を実現出来る小屋を作ろう」と提唱して建設された『俳優座劇場』。当時、芝居をやるには1000席以上の大劇場が主流で、自由に芝居ができる小規模の劇場は少なかった。そこで、劇団の枠を越えて自由に芝居ができる場として、東野英治郎氏や小沢栄太郎氏を筆頭とする“劇団俳優座”の団員や、数多くの演劇人、文化人の協力の下に設立された─まさに夢を実現する場所として誕生した。設立に至るまでの道のりは困難を極め、“劇団俳優座”の団員たちは活動の場を映画にまで広げ、出演料の70%を劇場設立の資金に充てる等…自らの夢のために力を合わせて実現したのである。 |
そして、遂に“女の平和”の上演をこけら落としとして開場以来、今日に至るまで“劇団俳優座”だけでも250公演以上、他の劇団等の公演を合わせると実に1500公演以上もの作品を世に送り出している。オープンしてから11年目の1965年、日中友好協会主催による中国映画の特集上映より、演劇公演が無い時期に映画の上映がスタート。こうした映画上映は『俳優座劇場』が主催するのではなく、各団体や配給会社が持ち込んだ作品を上映するというスタイルを現在に至るまで続けている。設立時から映写設備を設けており、映写技師はその都度、主催団体が手配する等、あくまでも劇場は場所を提供するのみというのも昔から変わっていない。特集上映として日本映画名作シリーズや石原裕次郎作品などの主演全作品一挙上映といった名画座的なプログラムの他に、ファンから定評があった自主製作映画名作シリーズのようなメジャー館では決して掛かる事が無い、新しい才能の発掘にも一役買っていた。こうした他ではお目にかかる事が無い隠れた映画にスポットを当てていたのがコチラの名物でもあった。 1980年、旧俳優座劇場の老朽化と都内に小劇場が増えて来た時代の変遷も手伝って、約2年の歳月を掛けて改築を行い、現在の建物としてリニューアルオープンした。そして1985年、今まで企画上映しか行っていなかった劇場を公演が終了した夜の回だけの映画常設館…夜10時から始まる映画館ということで“俳優座シネマテン”(オープニング作品“リキッドスカイ”)という映画上映シリーズ名でレイトショー専門のミニシアターとしてスタートを切る事になった。「当時は、まだバブル景気の影響もありましたから夜だけの映画館でも結構、お客様が集まっていらっしゃいましたね。また、現在程ミニシアターが無かった時代でしたから、メジャーに掛けられず上映する場所が無かった作品を上映したい配給会社が大変多かったわけです」と当時を振り返る支配人の高木年治氏。 |
その後、“俳優座トーキーナイト”“俳優座シネマ”とシリーズ名を変えて、キラーコンドーム”“キリング・ゾーイ”等々かなりマニアックな作品を世に送り続けている。特に近親相姦という際どい題材を描いた“カルネ”は大ヒットを記録した。また、映画上映だけではなく岩波映画主催の“岩波シネマカルチャーサロン”は170回以上も催される等、映画文化の発展に寄与して来た。 現在は常設映画館ではなく不定期ながら公演の無い時期に映画の上映を行っている。「あくまでも、上映されるのは主催される配給会社や製作会社側です。今まで、作品の特殊性が色濃く出ていたのは上映される会社が六本木という街にある劇場に、マニアックな作品をイメージされていた結果でしょうね。」という言葉通り、夜の六本木で見たい映画としてカルト的な作品を好んで来場されるリピーターは数多く、今まで観た事も無い映画をココでなら観る事が出来る期待を抱いて来場されている。「映画を配給する側の気持ちが、しっかりと見えている作品であれば私たちも、その熱意に答えるために可能な限り上映に協力したいと思っております」と笑顔で語る高木氏。最近は“怪談新耳袋”が公開されたものの、しばらくは映画の上映はお休みしている。ファンとしては、また六本木の夜をマニアックな作品で飾ってもらいたいと首を長くして次回作を期待しているところだ。 ロビーは明るく開放的で中央に広がる湾曲したウッドスタイルのベンチシートでは上映までの待ち時間をゆったりとくつろぐことができる。舞台やスタジオ美術を手掛けている舞台美術部を有する劇場だけに細部にまで設計・デザインにこだわりを見せている。スタジアム形式の場内は、落ち着いたトーンの照明でシックなムードを醸し出し、静寂に満ちた空間は妙に居心地が良い。そしてもうひとつ、新しい劇場を設計する際にこだわったのが、ロビー奥に併設された英国パブをモチーフとしたバー“HUB”である。 |
バー“HUB”は創設者である千田是也氏が演劇を鑑賞したお客様が歓談出来る場所を作ろうということで、今でもお芝居や映画の前後に気軽に立ち寄れる社交の場となっている。コチラはロビーからも利用する事が出来るが、飲食物のロビーへの持ち込みは禁止。“HUB”だけを利用される場合は建物の横手に直通の入口がある。映画を観終わった後にはカウンターでギネスビールの生で喉の乾きを潤し、その後はゆっくりと時間を掛けてスコッチをストレートかロックで味わいながら映画の余韻に浸るのも良いかもしれない。 今後の予定としては、特に決まっているわけではないが…「熱意のある映画会社から劇場を使わせて欲しいという依頼があれば、いつでもご相談に応じます。あとはお芝居の公演が掛かっていないタイミングだけですから、私たちは万全の態勢でお待ちしています」と語る高木氏。また、あっと驚くような異色作をコチラの劇場で観たいものである。(取材:2005年8月) 【座席】300席 【住所】東京都港区六本木4-9-2 【電話】03-3470-2880 |
本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |