北海道の最南端…津軽海峡に突き出た港町―函館。穏やかな気候に恵まれた風光明媚という言葉がピッタリなこの街は、寛永7年の開港以来、外国文化が流れ込み、異国情緒溢れる歴史的建造物が建ち並んでいる。季節を問わず多くの観光客が訪れる函館には、数多く映画のロケが行われた映画の街…という一面もある。“ギターを持った渡り鳥”では小林旭が、“居酒屋兆治”では高倉健がスクリーンに登場。

森田芳光監督は“キッチン”“海猫”など多くの映画をこの地で撮影を行い、遂には函館を拠点にシナリオ執筆をしている程、気に入ってしまったという。他にも宮崎あおい主演のファンタジー“パコダテ人”は正に函館という街が主役の映画であった。年間1〜2本のロケが行われている他にも毎年12月に“函館港イルミナシオン映画祭”が開催されている函館だが…。この映画の街に、ここ数年大きな変化が訪れていた。それまで、各メジャー会社の直営館だった老舗劇場が相次いで閉館していったのだ。中でも大劇場としてファンの多かった“巴座”の閉館は映画に親しんでいた市民にとって衝撃的な出来事であった。このままでは、映画の街として親しまれていた函館から大切なモノが無くなってしまう…。と、いう事で“巴座”の小ホールを借りてフランス映画祭などの自主上映会を行っていた団体が「だったら自分たちで映画館を作ってしまおう」と、設立したのが函館市民映画館『シネマアイリス』だ。「丁度その頃、日本全国で市民の方が自ら映画館を作り始めていた時代で、自分たちでも映画館って出来るのでは?と思い、映画ファンの方に呼びかけたところ3ヶ月で470名近くの方々から700万円もの資金が集まったのです…」と語ってくれた代表の菅原和博氏。「そうなったら、もう後には退けないですよね(笑)。覚悟が出来てからは一気加勢にオープンまで漕ぎ着けたわけです」と言われる通り、構想からわずか1年足らずの1996年5月23日に“スモーク”と“カストラート”でオープンした。

お洒落なカフェやレストラン、史跡や美術館といった文化施設が建ち並び、多くの若者が行き交う緑豊かな五稜郭公園の近くに建つ『シネマアイリス』には子供からお年寄りまで幅広い年齢層の観客が訪れる。「函館の映画館は駅前に集中していたのですが、あえて高校生が自転車でも来ることが出来る場所に映画館を作りたかったのです」と語る菅原氏。その駅前の映画館も次々と閉館され、今では2館を残すのみとなってしまった。そのため設立当初は単館系作品を中心にかけていたのだが、劇場の減少から子供たちの休みのシーズンには、一日3部構成で子供向けアニメの上映も行っている。





「丁度、オープン1年目に“トレインスポッティング”が大ヒットして…お客様もミニシアターに対する関心度が非常に高かった時期でしたので、“函館に若い人がこんなにいたのか”と思うくらい凄かったですね」と当時を振り返る菅原氏だが、決して全てが順風満帆だったわけではない。「実際、何も知らない映画好きの素人が始めたわけですから、期待していた程お客様が来なかったり…という日が続いたり2年目は経営的に厳しい状態でしたね」そんな状況を救ってくれたのが“タイタニック”のロングランヒットだったという。「ムーブオーバーでかけ始めたのですが、連日リピーターで満席となって、ある意味沈みかけた船がタイタニックのおかげで救われた感じです(笑)。その時は大ヒットする映画の威力を実感しましたね」レモンイエローのポップな扉が印象的なロビーの奥に広がる場内は、小さいながらもスタジアム形式を採用しており、観易さは折り紙付き。常連のお客様が多いコチラではお得な会員制度“IRIS CLUB”を導入している。2500円の入会金で1年間有効の会員証と招待券が進呈される他、年4回会報誌が送られる。







会員証の提示により当日券300円(学生は200円)、前売り券200円割引で購入出来る。また6回観賞すれば1回無料となるスタンプカードも発行されるので観るほどにお得になるサービスを受けられる。

「“開かれた街の映画館”として、気軽に人々が集まる場所を観客と一緒に作り上げていきたい」というコンセプトでスタートした『シネマアイリス』も今年で無事10周年を迎えた。次なる目標は、映画の街―函館にある映画館らしく、日本映画で活躍する人々をバックアップすることだと菅原氏は述べている。「皆さんに支えられている映画館だからこそ、恩返しという事でもないのですが、日本映画で頑張っている人たちを私たちで応援して、また劇場に来て市民と交流してもらう…そうやって日本映画の活性化に一役買えればと思っています」昨年の暮れには“LOFT”の公開時に黒沢清監督が来場しトークショーを行った他、篠原哲男監督は毎回自作を引っさげて来場するなど劇場を応援してくれる映画人も数多い。映画を愛する市民が運営して、その意志に共感した市民がボランティアで参加して、やはり映画を愛する市民が観客として集まって来る…。菅原氏の想い描く“開かれた街の映画館”というのは、利益を追求するだけの映画館では出来ない、皆で作り上げていく夢の場所なのだ。(取材:2007年8月)


【座席】 71席 【音響】SR

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