東北地方の南部に位置し、国内3番目の面積を有する福島県—その県庁所在地・福島市に6スクリーン・3館から形成されるミニシアター『フォーラム福島』が出来たのは、今から20年以上も前の事。ちょうど、東京ではミニシアターブームで世界各国の様々な映画が上映され始めた頃だ。それまで、メジャー系の作品しか観る事が出来なかった東北の映画ファンが“観たい映画が上映出来る劇場を…”という願いから誕生した劇場である。各々シンプルながらも個性的な外観が特長的で、エントランスの扉を開ける前から映画に対する期待が自然と高まってしまう。そして、一歩中に入ると最初に目に飛び込んでくるのがロビー壁面に貼られた上映作品に関する雑誌の切り抜き等の資料の数々。また、次回上映作品のチラシは常時、キレイに整理されてテーブルの上に置かれている細かな配慮。劇場内のそこかしこにスタッフの心配りを垣間見る事が出来て、実に気持ちの良い映画館という印象を持つ。 2011年3月11日に東北地方をM9.0の大地震が襲い、福島県も沿岸部を中心に大打撃を被った。「震災による劇場の損傷は幸いにも無かったのですが、何よりもお客様に怪我が無かったのが一番でした」と当時を振り返るマネージャーの桑原拓也氏。観客を安全な場所へと誘導してから戻ってみると、重い映写機が数センチも動いていたというのだから揺れの凄まじさが想像出来るだろう。地震後、停電となった劇場はしばらく再開の目処も立たないまま「残ったスタッフで復旧作業を試みたのですが、いかんせん電気が戻らない限りは何も出来ず、2日後に電気は戻ったのですが…」ところが、追い討ちをかけるように劇場の再開を阻んだのは原発事故であったのは言うまでもない。先行きが不透明で、もしかすると大惨事になるかも知れないと住民が不安を感じていた中で、とても映画を上映出来る雰囲気ではなかったという。結果的に劇場が再開したのは震災から3週間以上が経過した4月2日。その当時の模様はテレビでも取り上げられ、番組を見たという何人ものお客様から問い合わせがあったという。「ちょうど春休み映画の公開が控えていた矢先でしたから、あの作品はどうなりました?といった問い合わせが多かったですね」中には映画館の再開は早いのでは?という意見も寄せられたというが、原発問題が現在進行形であったため中には厳しい声もあったという。 |
「色々な復興や支援の仕方があると思のですが、我々は映画館なので映画という娯楽を提供出来る体制をいち早く作り上げるのが復興のカタチなのではないか…と思いオープンに踏み切りました」と桑原氏は語る。再開当日は映画を早く観たいと待ち望んでいた多くのファンが列を作り、暗いニュースが続く被災地での生活にウンザリしていた中で久しぶりに娯楽に接する喜びを味わった。中には久しぶりの映画に朝から2〜3本ハシゴをされた方も少なくなかったという。現在では、節電対策としてロビーの照明を落としたり、最終回を早めた短縮営業を実施されていたが、ゴールデンウィークからはようやくレイトショーが復活。仕事帰りに映画を楽しみにされていたOLやサラリーマンの方々から「いつからレイトショーは再開するのか」といった問い合わせが多数寄せられていただけに、嬉しいニュースである。 1987年7月、市民出資による映画館『フォーラム福島1・2』が2スクリーンを有する福島県初のミニシアターとしてオープン。「当時はまだミニシアターといえば東京や大都市圏にしかなかった時代、東北地方でも単館系の作品を…というお客様の声に応えられる映画館を作ろうという主旨で立ち上げました」その後、'92年10月に『3・4』、'97年4月に『5・6』が同エリア内にオープンして、さながら小さな映画街のような様相を呈している。現在では、ミニシアターとしてだけではなく要望があればメジャー系の作品も随時上映している。 |
メインの客層は中高年というコチラの劇場ではファミリー向けの作品よりも大人の観客を意識したものが多い。作品の選定は各地区のフォーラムによって異なり、お客様からの要望が多かった作品を中心に作品選定担当者と劇場の支配人が当たっているという。他にも通常の配給網に掛からない各種団体が自主制作した作品の上映も行っており、要望があれば上映から運営に至るまで協力する事も可能だ。 「ウチで働いているスタッフは元々、観客として通っていて、劇場が好きだから…と入った子たちばかりなんです」映画が好きなスタッフで構成されているから自然にお客様とのコミュニケーションが深まるのも当然の事。逆にお客様も熱心な映画ファンが多く、常にアンテナを張っていないと会話についていけない苦労もある。「たまにお客様の方が情報が早い事もありますからね。でもそれが我々にとっても良い刺激になったりするんですけど…」と、桑原氏は笑う。東京ではヒットしなかった作品が予想外に当たる事もしばしばあるというから面白い。「だからこそ、スタッフ自身も映画の好みがあっても良いと思うのです。お客様も“このジャンルならばこのスタッフに聞こう“と思って声を掛けていただければ、それが劇場の個性につながるのではないでしょうか」今では“フォーラムが選んだ作品だから”と信頼して観に来ている固定ファンも多く「お客様の中には山形、宮城、福島のポイントカードをお持ちの強者もいらっしゃいます(笑)」 |
「最近よく耳にするのが“片付けも疲れちゃったから映画を観て気分を変えようと思って”というお客様の声です」と、語る桑原氏。通りは日を追うごとに車の交通量も増え、少しずつ震災前の生活を取り戻しつつあるようだ。そんな中、5月1日より復興キャンペーンとして全てのフォーラム系列劇場にて入場料金の一部を義援金に充当したり、6月には復興名画上映会の実施を計画されているという。「映画は文化であり、私たちの心の栄養です。映画の感動は私たちを元気づけ、復興の原動力になると確信しています」と述べられている長澤裕二代表の言葉通り、映画によって心から笑える日が一刻も早く訪れる事を願う。(取材:2011年4月) |