江戸時代より加賀百万石の城下町として栄え、現在も新旧の文化が交差し融合する北陸の古都・金沢。城下町の風情を今に残す長町武家屋敷跡や兼六園、金沢21世紀美術館などの文化施設に囲まれ、多くの若者たちが行き交う香林坊にミニシアター『シネモンド』がある。1998年12月、KORINBO109の4階に“ムトゥ踊るマハラジャ”でオープンしたコチラの劇場は、北陸三県初のミニシアターとして注目を集めた。ユーロスペースで映画の買い付け・宣伝を担当されていた創設者の土肥悦子社長が、結婚を機に東京から金沢へ移り住んだ時、自分の観たい映画を上映している劇場が無い事に愕然としたという。

「それならば観たい映画は自分の手で…」と、東京で開催した“イラン映画祭”を金沢に持ってきて、それを契機に年に数回の自主上映会を開くようになる。これが『シネモンド』の前身となるのだが、ユーロスペース時代の経験を活かし、当時の金沢では観る事が出来なかった作品を次々と紹介していった。今でも石川県内に唯一のミニシアターとして小品ながらも良質の作品を上映し続け、多くの映画ファンから親しまれている『シネモンド』。自主上映を始めた思いをそのままに、北陸では観れない映画を上映する映画館として立ち上がった館名に込めた思いは、フランス語で“映画の世界”。そんな場所になろうというコンセプトから付けられたという。「私たちのお薦めする映画は、全ての人に受け入れられるものでは無いかも知れません。でも、普段だったら通り過ぎてしまうような作品でも偶然観た時に、言葉に出来ない何かが心に残る事ってあると思うのです。

決して泣ける映画=感動作というわけではないんですよね。喜怒哀楽以外にも心が動く映画ってあるんですよ。“何だ!これは?”と思える映画を楽しんでもらえたり受け入れてもらえるような仲間がいっぱい出来たらな…と思って、世界中から選りすぐった映画をお届けしています。」と語ってくれたのは自主上映時代から手伝われてきた上野克支配人。コチラで上映されているラインナップは多岐に渡っており、人間ドラマとドキュメンタリーの後にホラーが上映される等、まさにこの場所は“映画の世界”そのもの。もっぱらホラー映画のセレクトを担当されている上野氏は初めて“悪魔のいけにえ”を観た時の鮮烈な記憶が忘れられないという。「“怖い!”というよりも“何だこれは!?”という気持ち…そういう体験を皆さんに提供出来たらと思っています」

金沢の中心地である片町から香林坊の周辺には、かつて10館近くの映画館が軒を連ねていたというが、90年代半ばあたりから閉館が相次ぎ、10年前からこの界隈には『シネモンド』を残すのみとなってしまった。現在の課題も若い世代の客層が減っている事だと上野氏は語る。その一環として新しい試みも2003年からスタートしている。子供たちに映画に親しんでもらうため、映画館体験や実際に映画監督を招いて実際に映画を作ってみる“こども映画教室”だ。これは、土肥社長が代表を務める“金沢コミュニティシネマ”が行っている活動のひとつで年3回のペースで実施されている。夏休みの初等クラスでは、映画の始まりを分かりやすく教えたり、実際の映写機に触れてみて、何故止まっている絵が動いて見えるのか…といった映画の原理を視覚玩具を使って学ぶワークショップを開催。春休みの中等クラスではプロの映画監督と一緒に映画を作るといった本格的な内容となっている。「御礼のお手紙を送ってくれる小学生がいたり、先日はお母さんと一緒に単館系の作品を観に来てくれたりして…そういう光景を見ると本当にうれしいですね」









エスカレーターで4階に上がると壁一面に貼られているたくさんのチラシやポスターが印象的な劇場エントランスがある。入口をくぐると受付を兼ねたチケットカウンター、こじんまりとしたロビーと、造りはいたってシンプル。ロビーに設置されているスタッフが手作りでこしらえたという本棚に映画関連書籍が並べられ、狭いながらもワクワクする空間だ。「お客様から“取りあえずあそこに行けば何かやっている”と思って来場してもらえる劇場」を目指しているという上野氏は最後にこう続けてくれた。「映画館という場所は時間の制約があって、長時間そこに座らされて…それだからこそ得られる何かがあるはずなのです。それはきっと言葉にならないものなのでしょうね」(取材:2011年8月)

【座席】 91席 【音響】 DS・SR

【住所】石川県金沢市香林坊2-1-1 香林坊東急スクエア 4F 
【電話】076-220-5007


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