平日の夕方ともなると仕事帰りのサラリーマンとOLが通りを行き交い、日中はショッピングや観劇帰りのご夫人方がカフェで話に花を咲かせる…時間帯によって通りの表情を変える街、有楽町。昭和30年代、かつて駅前は一杯飲み屋が建ち並び、夕暮れ時には軒先の提灯にポツンポツンと明かりが灯る雑多な街だった。街のランドマークであった大劇場・日劇が取り壊され、有楽町マリオンが完成すると、もはや駅周辺は裏通りではなく新しい街の様相を呈し始める。常に再開発が繰り返されて、平成19年10月12日に有楽町イトシアが開業すると、駅前は大きく様変わりしてしまった。そのビルの4階に東京テアトルが運営する2つのスクリーンを有するミニシアター『ヒューマントラストシネマ有楽町』(オープン時の館名は“シネカノン有楽町2丁目”)がある。平成21年12月4日にヒューマントラストホールディングスがネーミングライツを取得して現在の館名となった。 |
「ちょうど、シネカノンさんから経営を引き継いだあたりは“銀座テアトルシネマ”を閉館する話が出ていた頃なんです。有楽町駅前という立地の良さがあって、銀座地区におけるミニシアターの拠点として引き受ける事に決めました」と語ってくれたのは支配人の長島理恵子さん。群馬出身の長島さんは県下初のミニシアター“前橋テアトル西友”のオープニングスタッフとして参加して以来、ずっと興行の世界で活躍をされてきた。「その当時は、群馬に超オシャレな映画館が出来たっていうので話題になったんですよ。その前に、高崎映画祭を立ち上げたスタッフの一員として参加させてもらっていたんですが…そこに、“群馬に映画館を作るんだけど、スタッフで暇な子はいない?”って電話がかかってきたんです。その時、私は仕事を辞めて映画祭だけをやっていたので、暇なのが一人いますって(笑)それが私の長い映画館人生の始まりになったんです」 |
1スクリーンの“銀座テアトルシネマ”から2スクリーン体制へ…。営業上、非常に有利になる条件だったのだが、「CINEMA2の客席が少な過ぎて、すぐ満席になるんです。せめて80席あれば良いのですが、口コミで話題に上がった作品を終了ギリギリに来ていただいても、お入りいただけない事もあって、本当に申し訳なく思っています」確かに、CINEMA1が161席に対して、CINEMA2は62席と極端にキャパの差がある。しかし、ファンからしてみると、観過ごしてしまった映画を公開からかなり経ってもCINEMA2でムーヴオーバー的に上映を続けてくれるのが非常にありがたい。有楽町・銀座界隈では珍しく20時頃からスタートするレイトショー上映も行っているため金曜日の夜ともなると仕事帰りの会社員が多い。「会社帰りにブラッと来るのは男性が多いですが、この近辺で遅い時間までやっているお店がないからでしょうか…全体的にレイトショーは弱いんですよ。やっぱりお客様としては女性のシニア層がメインなので、お買い物とか食事とかして、映画を観て18時過ぎには帰る…というスケジュールを組まれているみたいです」また最近では40〜50代のご夫婦が増えていると長島さんは感じているという。「ミニシアターで育った40〜50代以上の方なんでしょうか…ウチで掛かる作品を好まれて通われている印象ですね。ですから作品選びも1980年代のミニシアター世代に向けて、小品でも地道に良質の作品をやっていこう…と考えています」 現在、東京テアトル系列の劇場で上映される作品は、ほぼ編成部が決めている。ミニシアターの数が減っているため、既に1、2年先までオファーが入っている作品もあるという。ちなみに昨年、大ヒットした作品は“ふたつの名前を持つ少年”だった。「この作品はウチの編成部がちょっと心配していて、配給会社からオファーがあった時、悩んだらしいんですね。戦後70周年で戦争色の強い作品がいっぱいある中、夏興行にはどうなんだろう…と。でも、フタを開けたらシニアが中心に、連日満席の大ヒットだったんです」そして、もうひとつ長島さんの記憶に残るのが“人生スイッチ”。「これは逆に配給さんが心配されていたんです。国も異色だったし、監督もそんなに知られていなくて、おまけにオムニバスで売り方が難しいと…。これも開けてみたら初回からしばらく満席続きで、動員数的にもここ数年で一番良かったです。若い人もたくさん来ていただいて。それを見て、シニア層メインって思い込んじゃいけないんだな…って考えさせられました」最近、ようやくミニシアターを運営する面白さが分かってきたと話す長島さん。以前、“キネカ大森”で支配人を務めていた時は、メイン以外の作品選定も関わっていただけに、最初の頃は作品の選定から宣伝まで全てが決められている事に戸惑いがあったそうだ。 |
「今は、お客様に快適に観賞してもらえる空間を作って、映画だけではなく一日楽しんでもらえるにはどうすれば良いか…という演出に力を注いでいます」最近ヒットした韓国映画“国際市場で会いましょう”の公開時にイトシアの地下階にある韓国料理店と組んでお互いにポスターやチラシを作成。「女性のお客様が多いので、映画を観終わった後チラシを見ながら“ここでご飯食べましょう”って、ずいぶん反響がありました。おかげでお店の方にも喜んでもらえて、今後もこういった企画をやりたいと言ってくれたのが嬉しいですね」イトシア全体でフェアを開催する時には、レストランの割引券などを1万枚配布されるため、相当数のお客様の流れが出来るらしい。 「お客様が映画を観にきて、プラスこんなお徳感があったとか、ここで一日楽しく過ごせたとか…いい気分になっていただくものを私たちは作っているのだという事が楽しくなってきたところです」いつか映画が終わってから、お客様とビル内のレストランで映画について語り合う交流会をやってみたいと長島さんはいう。「映画はもっと気楽に観てもらいたい。シーンと静まり返った中で観るのもイイですけど、映画を観て疲れちゃうというのはちょっと…。皆と共有する空間で、皆で同じ映画を観て、終わったら皆で一緒に出て行く…この不思議な雰囲気が昔から好きなんです」と笑う長島さんが最後に述べてくれた言葉が印象に残った。「私は多分、映画というよりも映画館が好きなんでしょうね」(取材:2015年11月) |
【座席】 『CINEMA 1』161席/『CINEMA 2』62席 【音響】 SRD 【住所】東京都千代田区有楽町2丁目7番1号 有楽町イトシア イトシアプラザ4F 【電話】03-6259-8608 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |