(株)エスピーオーは、劇場用映画の企画・製作・配給を行っている映像会社で、アジアに機軸をおいた事業展開によってアジア諸国との交流の促進にひと役買っている。韓国・台湾・中国・香港などの国で制作された娯楽映画を中心に、こだわりのファンから絶大な支持を集めている。シネマートは、六本木に第1号館である“シネマート六本木”を平成18年3月にオープン、その年には立て続けに“シネマート心斎橋”、そして同年12月9日に『シネマート新宿』が次々と立ち上がり、アジア映画に特化した明確なプログラムがウケた。『シネマート新宿』はオープン記念にシネマート・シネマ・フェスティバル in 新宿と銘打って、韓国映画を中心とした11作品を一挙上映。世はまさに空前の韓流ブーム…このイベントには長蛇の列が出来、映画そのものよりも主演男優のグッズに数多くの叔母樣方が殺到していた光景が忘れられない。勿論、日本映画にも力を入れており、ここでしか観られないようなB級作品にコアなファンが集まっている。

国籍も年代も違う、様々な人種が集まる雑多な街・新宿。特に新宿三丁目界隈は、老舗百貨店・伊勢丹や周辺にある高級ブティックに訪れるご婦人から、一歩路地に入ると夜遅くまでやっているバーや小洒落たカフェに集まる若者たち…と、幅広い年齢層が行き交う、東京でも珍しい様相を呈している街なのだ。昭和30年代…映画が庶民にとって一番の娯楽だった時代には、この辺りにも数多くの直営館から二番館・三番館と、映画館がひしめきあっていた。かつては靖国通りを挟んで、新宿三丁目エリアと歌舞伎町エリアに分かれた二つの映画街が凌ぎを削っており、正に新宿は銀座に継ぐ、一大興行街だった。時代は変わり、映画館の数が最盛期の半分以下になろうとも、新宿という街が醸し出している多国籍で異文化の雰囲気は今でも変わらない。そんな伊勢丹の斜向いにある新宿文化ビル(以前は東宝の封切館“新宿文化シネマ”が入っていた)に(株)エスピーオーが運営するアジア映画専門のミニシアター『シネマート新宿』がある。



『シネマート新宿』がある新宿文化ビルの前身は、昭和12年7月に東宝映画の直営館として創設した“新宿映画劇場”にまで遡る。戦争直前には、ニュース映画の専門館“文化ニュース劇場”となるが、戦後は“新宿文化劇場”と館名を改めて一般映画を上映するようになった。そして、まだミニシアターという呼び名が無かった昭和37年にはATG映画の封切館“アートシアター新宿文化”と方針を転換。更に地下には“蠍座”という映画館をオープンして、その名の通りアンダーグラウンドな映画と芝居の上演が行われた。70年安保を控えた昭和40年代の新宿には、多くの早稲田の学生が集まって日本の将来を憂いたり、未来の夢を語り合う…という独特の若者文化があった。学生運動の勢いが次第に沈静化すると共に新宿の映画館から活気が失われ始め、“アートシアター新宿文化”も昭和49年に建物を取り壊して新宿文化ビルを建設する。その中に新設された“新宿文化シネマ”は、4スクリーンの映画館として東宝作品を上映してきたが、平成18年には運営する三和興行(株)がシネコンの台頭を理由に映画館事業から撤退。その後“新宿文化シネマ2・3”を『シネマート新宿』が受け継いだ。

ミニシアターとしては後発だったが、韓流ブームという時流に上手く乗って、ここに来れば朝から晩まで韓国やアジア映画が観られる…というイメージの定着に成功した。しかもコチラで上映されるのは、小難しいアート嗜好の映画ではなく、あくまでも娯楽に徹した作品をチョイスしている事も人気のひとつだ。それは劇場の装飾にも現れており、今年10周年を迎えた『シネマート新宿』では、エレベーターの扉が開くと「10TH ANNIVERSARY !」という文字と、隙間を埋め尽くさんばかりのスチールとPOPが目に飛び込んで来る。コンセッションのカウンターにまで映画の宣材写真が浸食していると、映画を観る前から自然とボルテージが上がってしまう。よく見るとコンセッションに掲げられているメニューボードなんか、アジアの古い映画館にありそうな、何とも味があって良いデザインだ。まずは6階でチケットを購入…『スクリーン2』の7階には売店が無いので、先に飲み物やスナックを購入しよう。ここではお菓子をたくさん買い込んで思いっきり映画を楽しむべきだ。6階の『スクリーン1』は客席333席の舞台挨拶や映画と連動したライブなどが行われる劇場で、7階にある『スクリーン2』はカマボコ型の背もたれが特長的な客席62席の小さな劇場だが、この狭さが逆に居心地が良いと、映画通には割と評判だったりする。


平成27年6月に“シネマート六本木”が閉館し、『シネマート新宿』は、アジア映画を観られる数少ない映画館となってしまった。上映作品のコンセプトが明確だからマニアックなファンが多いのもコチラの特長。アジア映画ファンから「ずっと続けて欲しい!」と、熱いエールが送られるのは誠にもっともな話だ。料金サービスも充実しており、入会金300円のポイントカードで毎週火曜日は1000円になる他、ポイントが貯まれば映画が1本無料となるのが嬉しい。韓流ブームが去ったとは言え、まだ根強いファンが1階のエレベータ前で列を作って開場を待っていたり、今年の4月に行われた10周年記念の特別上映(何と!700円均一だった)には、多くのファンが訪れている。映画を観終わってから今日は新大久保まで足を延ばして韓国料理を食べて帰ろうか?それとも裏手の末広亭通りでエスニック料理にしようか?等と映画の世界観をそのまま寄り道するのもオツな観賞の仕方なので、是非お試しいただきたい。(取材:2016年4月)


【座席】 『スクリーン1』333席/『スクリーン2』62席 【音響】『スクリーン1』SRD-EX・SRD/『スクリーン2』SRD

【住所】東京都新宿区新宿3-13-3新宿文化ビル6・7F 【電話】03-5369-2831

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