山に囲まれた北海道夕張市─かつては炭鉱の街として栄え活気に満ちていたこの地も炭鉱の閉山と共に変革を余儀なくされた。16館もあった映画館には炭鉱夫たちが昼夜を問わず娯楽を求め訪れていたという。人口の減少と共に映画館も次々と閉館…今では市営の常設館1館のみが残されている。そんな夕張が映画の街として脚光を浴びたのが1990年より開催され続けている“ゆうばり国際ファンタスティック映画祭”。人々の脳裏から忘れ去られようとしていた映画に対する想いを再び甦らせただけではなく全世界の映画人からも熱狂的な支持を受けるほどの映画祭に成長した。そして、ここ夕張に2003年2月8日…また新しく映画の名物が完成した。『郷愁の丘 シネマのバラード』である。炭鉱住宅地跡“郷愁の丘”に映画の資料館としてオープンしたコチラには映画にまつわる数々の貴重な資料が展示されている。“ゆうばりファンタ”チーフプロデューサーの小松沢陽一の協力の元、映画祭に参加された映画人たちが個人的に所蔵していた品々を寄贈している。これも14回という年月、映画祭を続けて来たからこそ得られた宝であろう。中でも映画祭にゲストとしても参加された日本映画が誇る撮影監督、岡崎宏三氏が提供された数々のメイキングムービーはオープニングを飾るにふさわしい映像資料となった。


テレビドラマ“西部警察”で使用されたパトカーや“怪獣大決戦”ヤンガリーの立像が出迎えてくれる『郷愁の丘 シネマのバラード』は展示ゾーンとして3つのコーナーから構成されている。数多くの映画パネルと共に映画の歴史を見る事ができる“パネル展示コーナー”、毎回テーマを変えて貴重な資料を展示する“特別企画展コーナー”、ゆうばりファンタの軌跡と参加されたゲストのスチール写真や手形を展示されている“映画祭コーナー”だ。
映画スターたちのパネルが展示されているエントランスから中に入ると、日本映画で何度も映画化された“中心蔵”赤穂浪士たちが…まずは活動写真時代から日本映画の歴史がひも解かれる。時代劇スターから現代劇へと移り変わり、建物の丁度、中心に位置する広いスペースには巨大な大魔人が立ちはだかる。圧巻は何と言っても“男はつらいよ”の全48作のポスター展示。その前には年代もののアーク式映写機、さらに岡崎宏三撮影監督が実際に使用されていたカメラ、フィルムが展示されている。勿論、他にも実際の撮影で使用されていた衣装や機材など貴重な品々が展示、日本映画の知らない一面に触れる事が出来るのも魅力のひとつだ。その次にハリウッド映画を中心とした外国映画…迫力ある大型パネルによって当時の興奮が甦る事だろう。企画展示コーナーの記念すべき1回目の出し物は時代映画集大成と銘打ち、日本映画の根底に流れるベースをかい間見る事ができる。




とは言っても映画はやはり動く映像を観てこそ映画。展示品だけに留まらないコチラのもうひとつの目玉は客席数50席のミニシアターがあること。200インチのスクリーンにDVD、VHS、3Dの映像を映写できるシステムを完備している。オープニングの記念すべき上映作品は田中絹代がアメリカに親善大使として渡った時の映像が流され、これまで公開される事がなかった当時の姿が初めて映し出されたわけだ。そして、もうひとつ前述の岡崎撮影監督によるメイキングの数々…今でこそ珍しくないメイキングシーンを昭和30年代から既に撮影していた岡崎氏に感動を覚える事だろう。映画祭にゲストとして来ていた工藤夕貴が出演していた“戦争と青春”のメイキングを3Dで撮影しており本人も実は初めてココの上映会で知ることになり、余りの感動で涙を流したほどだ。まだまだ、年間を通して貴重な映像を上映する予定になっており今後のスケジュールから目が離せない。展示ゾーンを出ると映画に関するグッズを多数揃えている物販ゾーンと休憩ができる喫茶室がありショップでは国内のみならずハリウッド・シネマグッズが揃っているコーナーも充実。掘り出し物も見つかるかも…。


夕張という小さな街はお世辞にも映画という世界にとって恵まれた環境とは言えない場所であった。せいぜい映画のロケ地として使われる程度であったこの地に映画を愛する人々がいて“ゆうばりファンタ”を先駆けにして映画の資料館を設立するまでになった事…小さな一歩が大きな歩みに変えてしまったという事実。黄色いハンカチがはためいた時から映画ファンの心を捉えた街。この街に来ればいつでも映画に触れる事ができる…そんな可能性を秘めている夕張と郷愁の丘に建つ新しく出来た映画の資料館をこれからも注目し、応援していきたい。(取材2003年2月)

【ミニシアター客席数】50席
【住所】 北海道夕張市高松7-1
【電話】 01235(2)1544


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