季節外れの夜明けの浜辺を歩く一人の女性…フランスの名匠クロード・ルルーシュが若き日にドーバー海峡に面した港町ドーヴィルで目にして、不朽の名作『男と女』が生まれた。ヒット作に恵まれず膨らんで行く借金に苦悩していた監督の人生を変えたのがドーヴィルという町であった。また、戦前は高級リゾート地として栄えたが戦後ブームが去り閑散としていたドーヴィルに再び脚光を浴びせたのが『男と女』だった。 |
ドーヴィルに立ったルルーシュは失った伴侶を追想しながら新たな愛を求める「男と女の物語」という構想が思い浮かんだという。すぐさま脚本を書き上げたルルーシュは 、スタッフ6名を引き連れて再びドーヴィルを訪れ、海辺に建つ高級リゾートホテル“ノルマンディー・バリエール・ホテル”を舞台に、わずか3ヶ月で映画を完成させカンヌ国際映画祭に出品。「男と女」は見事グランプリを獲得、さらにアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞など数多くの賞に輝いたのだ。低迷していたルルーシュを救った町ドーヴィルをこよなく愛したルルーシュは郊外に広大な土地を購入し、自ら経営するホテルを作り上げた。それが『HOSTELLERIE de COURGEVILLE』である。
ホテルの周辺は何も無い、本当の意味で休日を過ごすためだけの施設だ。“ドーヴィル・トゥルーヴィル”駅から車で20分、人里離れた森の中にひっそりと佇む。夏は涼しく緑の色が目に優しい自然が宿泊客を包み込んでくれる。そして秋には紅葉が鮮やかに想像力をかき立て、冬になると真っ白な雪景色に包まれながらロビーにある暖炉でコニャックを傾ける贅沢さを味わう…ここでは時計は似合わない。ゆったりとした時の流れを感じながら過ごせる場所なのである。 |
小さなカウンターでチェックインを済ませる。数室の部屋しかないホテルには仰々しい施設は無く全てがこじんまりとまとまっている。中庭を見ながら部屋へと続く長い回廊には往年の名女優たちの肖像画が飾られている。部屋には全てアラン・ドロンやジャン・ギャバンといったフランスの名優たちの名前が付けられており、勿論ルルーシュの名前が付けられた部屋もある。どの部屋もシンプルな作りとなっており、逆にそれが贅沢な空間を完成させている。 |
プールやフィットネスジムがあり、気が向いた時に体を動かす。初夏、天気の良い午後には庭のリクライニングシートでお気に入りの本を読みながら風の音を感じる。そう、このホテルに泊まる時は余計な物は何もいらない。お気に入りの本を一冊持っていけば良いのだ。そしてランチとディナーはホテルのレストランで…宿泊していなくても利用できるレストランには食事だけがお目当てで訪れる人も少なくない。30ユーロ〜50ユーロ(約3500円〜7500円)といったリーズナブルな料金で最高の料理を堪能できる。 今でも創作活動をホテルで行っているルルーシュ。ホテルの地下には50席の客席を有する試写室があるのも頷ける。まるで小さな映画館がホテルにあるかのように入口にはクロークがあり、地下へ降りる階段にはルルーシュの名作のポスターが飾られている。この試写室でルルーシュは仲間たちと、どんな話しをしているのだろうか…。 パリ“サン・ラザール”駅から急行でわずか2時間で、現実から遠く離れた世界へ…。都会の雑踏や喧騒に疲れた人々が癒しを求めて訪れる小さな町の小さなホテル。季節によって全く違った顔を見せてくれる自然と建築物が見事に融合した場所。名所を辿る旅も良いけれど時間を忘れさせてくれる空間を体験してみてはいかがだろうか?(取材2004年9月) |
【住所】 CHEMIN DE L'ORGUEIL,TOURGEVILLE,14800,DEAUVILL,FRANCE 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |