新宿という街は、ちょうど“靖国通り”を挟んで二つに分かれている。飲み屋などが建ち並び、歓楽街として親しまれている歌舞伎町…そしてオフィス街やデパートが建ち並ぶJR東口。わずか数百メートルしか離れていない二つの場所は、集まる人種も全くと言っても良いほど異なっている。新宿という街はひと括りに出来にくい場所なのだ。そして、もうひとつの新宿という街の特徴は、日本有数の映画館激戦区であるという事。そんな新宿にある松竹第一興行(株)の直営館─『新宿ピカデリー』は昭和33年10月に木下恵介監督作品“この天の虹”でオープンして以来、数々の名作を送り続けてきた。設立当初は『新宿松竹』『新宿名画座』『新宿スター座』という館名でスタート、現在の『ピカデリー』という名称がついたのは昭和37年からだ。『新宿ピカデリー』では洋画を『新宿松竹』では邦画を上映しており、記念すべき“男はつらいよ”の第一作もコチラで上映され、永い歴史がある大劇場だけに過去のヒット作を見ても劇場の片鱗がうかがえる。そして平成13年3月に全館をリニューアルオープンした。 |
「場所柄でしょうか歌舞伎町に比べると女性のお客様…特にOLの方が多く、今までトイレの数が少なかったせいで休憩時間などトイレに長蛇の列が出来てしまって、今回のリニューアルでは女性のお客様にも満足して頂けるように設計しています。」と語ってくれたのは総支配人の近藤元氏。「特に当館は伊勢丹や三越に近いという立地条件もあり、女性のお客様が多いので、アクション作品よりはラブストーリーや感動作品が強い傾向にあります」今回のリニューアルで一番、変わった所は何と言ってもロビーだろう。特に1階にある『ピカデリー1』のロビーは入口に立った瞬間、ひと目で解る豹柄のカーペット。以前に比べてシックな落ち着いた雰囲気となった。勿論、売店も新しく拡張されて、これから上映作品に関するグッズの販売を増やす事も考えているという。また、今まで2階は完全に壁で仕切られていたのだが、それを吹き抜けにして天井の空間に余裕を持たせた。2階のトイレは男女あったものを全て女性用にしてしまい、もう慌てて上映時間ギリギリに場内へ駆け込むことは少なくなった。 |
落ち着いたトーンに変化した『ピカデリー1』と同様に地下にある『ピカデリー2・3』もロビーを一新、近未来的な柱上部に備え付けられた照明がリッチな気分にさせてくれる。どちらも売店で販売されているポップコーンはその場で作ったハンドメイドになり、その他のスナック、ドリンクメニューも充実…映画を鑑賞する理想的な環境に変貌した。そして、映画を観る上で一番重要な客席も今回のリニューアルで大きく変身。今までの座席数を大幅に減らし(『1』では1154席から820席に)座席の感覚に余裕を持たせ、しかも体にフィットするシートの座り心地は抜群。場内に関しては全館リニューアルしたので、どの会場で観てもその違いは実感できるに違いない。「元々『ピカデリー1』にはゴンドラ席があったんですが、まだ施設自体は残してあるんですよ」 |
それでは今後また復活させるか、それとも別の使い方をするのか…「それは検討中です。とりあえず今回のリニューアルでお客様の評判は上々で、これからもお客様に喜んでもらえる物を採用していこうと考えています。結局…」支配人は続ける。「新宿は同じ映画を何館も上映している訳ですから、同じ映画を観るのだったら自分が気に入った劇場を選ぶのも当然なんですよね。ココの劇場に足を運んでもらうには…と考えたら、やはりサービス面であったり、そういった施設面の充実になるんです。」という言葉通りスタッフの接客は人一倍気を使っており、特に今回から身障者向けのスペースを設けたことで、誰でも楽しめる映画館作りを目標にしている。コチラの上映作品は松竹東急系という形で編成を組まれているが『ピカデリー4』に関してだけは例外で、劇場独自で番組を選定している。 |
『ピカデリー4』は、元は麻雀店だった場所を改装した小じんまりとした劇場だけにミニシアターとしての機能も果たしており、ココでしか観られないような作品も上映されたりする。勿論、ヒットした作品をムーヴオーバーとして掛けたりするので見逃してしまった作品などは要チェックだ。サービスとしては当日券の半券を持っていれば“新宿松竹会館”内にあるボーリング場などの施設が1割引で利用出来る。1階にあるビデオショップでも1割引で商品を購入できるのだからお気に入りの映画は是非、ココで購入したいものだ。そして鑑賞後には同じく1階にあるウェンディーズに立ち寄ろう。ココでも半券を提示すれば全品1割引になるのだから友達同士でお茶しながら映画の感想を語りあうのも良いのでは? 「昔と比べてお客様の映画の観方がかなり変わりましたね。昔は立ち見でも構わないっていうお客様が多かったんですけど、今の若い方は立ち見になると次の回まで待たれたり、他の劇場へ行ってしまったりしますよね。むしろ年輩の方のほうが今でも立ち見に関しては抵抗ないみたいです。あと、年輩の方からの問い合わせで一番多いのが途中入場できますか?っていう質問なんです。勿論、それは構わないんですが、それでも終了間際は整列入場という形をとっていますから…昔はエンドクレジットでも場内に入るのは当り前だったんですよ。“猿の惑星”や“キャリー”の時は“衝撃的なラストを用意していますので途中入場はご遠慮下さい”って看板を掛けた位ですから…。」多分シネコンによって習慣が変わったのだろうと分析する支配人は最後にこう続けてくれた「若いお客様と年輩のお客様が混在しているだけに双方が気持ち良く映画を観られるような環境を作っていかなくては…これが我々スタッフの課題ですね。」(取材:2001年9月) |