目黒駅から歩いて3分。権之助坂の入口にたたずむ『目黒シネマ』は昭和30年に、『目黒金龍座』と『ライオン座』の2館でスタート。その後、『目黒オークラ』と名前を変えて二本立て興行の名画座として昭和50年再スタートを切った。「目黒という土地は面白いですよ。繁華街とはかけ離れた街の中に位置するので、外に出ても現実に引き戻されない静寂さがあるんです。駅までの道を余韻に浸りながら帰路に着ける良さがあると思います」と語ってくれたのは自らも大の映画ファンでそれが高じて支配人にまでなった宮久保伸夫氏。映画館で映画を観る魅力に取り憑かれたひとり。「正直言って名画座って儲からないんです。だから全てがスタッフ全員が協力して作り上げた手作りの劇場なんですよ」劇場内のロビーは上映終了後スタッフが力を合わせて壁紙や床材、ペンキを購入して自分たちで改装したという。


ちなみに入口の館名のプレートも支配人の手作りというのだから驚く。スタッフ全員、映画ファンだからこそ力を合わせる事が出来る…その姿勢はサービスや接客にも表われている。「自分たちで作ったおかげで劇場に対して愛着も今まで以上に強くなりました」と笑いながら語る表情は明るい。名画座の苦労は予算だけには留まらない。「二本立てのプログラムをどうするか、パズルみたいなものですよ。たまに奇妙な組み合わせになる時もありますが、逆に同じ系統の作品よりメリハリが出来て感動も大きくなる事もある…できるだけ理想的な二本立てが出来るようがんばっているんですけど」上映する作品の基準をとにかく良い作品である事。ハリウッドの娯楽作品だろうがアート系の作品であろうが、良い映画ならば可能な限り何でも上映したいと考えている。たしかに、あえてジャンルにこだわらず良質な作品を上映してくれるからこそ映画ファンは劇場に足を運ぶのだろう。「うちに来てくれるお客様はビデオではなく映画館で映画を観ようという気持ちの方ばかりなのでありがたいですよね」という言葉通り、リピーターが多く年齢は学生を中心とした二十代が大半を占めている。

お得な情報として、劇場で発行している小冊子(これも支配人自ら手がけている)には200円の割引チケットが2枚付いている。「もっと映画を観てもらいたいから」というせめてものサービス。利用客が多いことから、それだけリピーターに愛されているのが良く解る。また、今では珍しいオールナイト上映も毎週土曜日と祝祭日前夜に行われている。なかなか時間の取れないコアな映画ファンから始発までファミリーレストランで時間を潰すよりも映画を選ぶカップルまで利用者は幅広い。これこそ有意義な時間の過ごし方ではないだろうか?


以前「エイリアン4」の公開時にイベント的に「エイリアン1・2」の保存用のプリントで2本立てを行った時のエピソードとしてこんな事があった。フィルムが古かったために歪んでいたらしく、字幕にピントを合わせると中央の画面がボケてしまう。そこで映写技師の方(映写技師の免許を持っている昔からの職人さん)が苦心して微妙な所でピントを合わせ無事にクレームも無く済んだらしい。「映画館で映画を観るということは、ただ映画だけを観るのではなく前の人の頭を気にしながら苦心した思い出も含めた出来事全てが映画館の面白さだと思うんです。我々スタッフとして大切な事は映画館で映画を観る事を嫌いにならないようケアする事なんです。」この信念がある限り『目黒シネマ』の灯は消えないだろう。(取材:2000年12月)

【座席】 100席 【音響】DS・SR

【住所】東京都品川区上大崎2-24-15 【電話】03-3491-2557



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