新宿の裏通りに位置する『新宿昭和館』に入ると、モギリのおばちゃんが笑顔で出迎えてくれる。「ウチの劇場は昔の作りだから柱も大きいし建物もシッカリしているんだけど一番の問題は老朽化だな」と語ってくれたのは支配人代行の山本龍二氏。昭和7年に開館したが大平洋戦争が激化した昭和19年に建物疎開で取り壊される。戦後間もなく昭和26年に再オープンした『新宿昭和館』は当初、新東宝の封切り館としてスタートするが、その後新東宝が無くなり2〜3ヵ月は洋画も上映したが、客の入りは芳しくなく、昭和37年頃から現在のスタイルを続けている。「けっこう、日本映画の中でもヤクザ映画の名画座っていうイメージが強く浸透してしまっているのですが、喜劇をやったりもしているだけどなぁ」たしかにラインアップからは現在のVシネマから昔の東映作品に至るまで仁侠ものやヤクザ映画の印象が強く、来場される常連客もそれを求めている方が多い。「バブルの頃は場外馬券売場の客が多かったけれど、最近はそこから客が流れるってことは減ったよね。以前はこの先に簡易宿泊所があったせいか日雇い労働者の人なんかも結構いたけど6年位前の道路拡張でみんな整備されちゃって、そういった意味ではお客さんの数は減っていますよ。ただ昔と違うのは本当の映画ファンが確実に増えていますけどね」ココの特徴としては作品によってガラリと客層が変る事だろう。Vシネマや『弾丸ランナー』『ポストマン・ブルース』といった作品は若い年齢層、高倉健の東映時代の作品ともなると年齢層はグンと上がる。「大体、今の若い人は仁侠時代の健さんなんか知らないでしょう。逆に映画ファンの女性客の方が増えていますよ」ところが、意外にも名画座となってからのヒット作というのは『蒲田行進曲』だったという。「たまにヤクザ映画以外の単発でやった映画が入ったりするんですよ。この時は1階の扉を閉めることが出来なかったんだから」 |
どうしてもヤクザ映画専門で掛けているとそれ以上の広がりが無くなってしまうということで、たまにカラーの違う作品も番組に組み込んだりしているという。それでも最近の定番は哀川翔主演のVシネマだという。「作品によっては16mmで撮影して35mmにブリーアップしているので映画館でも掛けられるんですよ」フィルムにこだわる哀川翔主演作品は劇場で観れるが、残念ながら人気のある竹内力の主演作はフィルムで撮影されていないそうだ。「Vシネマはフィルムで撮影するのかは役者さんの希望を聞くらしいんですよね。哀川さんはフィルムで撮って一度は映画館で上映する…というのを条件にしているそうで、やっぱり映画館で自分の作品を上映するというのが役者のステイタスなんでしょうね」 早朝割引を求めて朝早くからチケット売り場に開場前から長い行列が出来る光景はこの界隈の風物詩となっている。開放された鉄扉の入口から入場する。自動販売機でポップコーンを購入して2階へ上がるとさらに階段が続く。グルリとコの字に囲まれた今では珍しい立ち見席専用の階段なのだ。よくみると壁が木で出来ている場内は天井が高く昔から続いた風格と歴史の重さを感じさせる。平日の朝の入りは1割程度だろうか…大きめのブザーと共に場内が暗くなると、ポツリポツリとライターの火が。朝から夜まで寝床として利用される観客も多く、昔は場内で喧嘩沙汰が起きる事も日常茶飯事だったという。勿論、その筋の任侠映画を地で行く常連さんも多く、中には毎日夕方あたりからやって来ては場内で客引きして連れ立って一時外出(勿論、連れ込み宿に直行)を繰り返すプロの女性だったり…と、新宿裏通りにある映画館らしいユニークな客層で溢れていた。 |
『昭和館地下劇場』は昭和31年に地下を深く掘り下げて作られた。急勾配の場内はかなり年期が入っているものの前列の人の頭が邪魔にならない当時としては珍しい作りになっている。こちらで公開された『明治天皇と日露大戦争』は立ち見を含めて300人収容の館内に1日で1000人という観客が詰めかけたという逸話も残されている。当時は非常口を出口にして客を回転させていたらしい。オープン当初はココでも新東宝の封切りをやっていたが上の劇場と違ってもう少しナンパっぽい『不良番長シリーズ』とか新東宝のエッチ路線を中心に上映していた。「その頃の流れが今に続いているわけですよ」と語るように現在では新日本映像(日活)の封切り館として週替り3本立で成人映画を専門に掛けている。たまに女性客の姿も見られるが、メインの客層は意外にも70〜80代のお年寄りが大半を占めているという。昔のにっかつファンかと思うとそうでもないらしい。「結局、ビデオ慣れしていない世代なんでしょうね。だから昔の絡みが少なくてストーリー性のあるものよりも今のハードな絡みのある作品の方が好評ですよ」と言われる通りSMが人気らしい。その年齢になっても男のロマンを求め新作を観に来るパワーは羨ましい気もするが、一方では「やはりそういったファンも年々減ってきていますよね」という切ない現実もある。ちなみに両方の劇場に名画座としては珍しくチケット売り場がある。「ウチの先代が“入場券は人の手でお金を頂いて人の手で渡す”という考えの人で、その精神は今も継承し続けているんです」今日も新宿にロマンを求め映画ファンが集まって来ている。「古い映画館だから毎年、閉館の噂が流れるんだけど(笑)オーナーは、ずっと映画で儲けさせてもらったから多少の赤字は出ても映画館は続ける…それが映画への恩返しと言ってますよ」(2001年2月取材) 【座席】『新宿昭和館』291席/『地下劇場』212席 【音響】 DS 【住所】東京都新宿区新宿3-35-13 |
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