下町の温もりが今も残る三軒茶屋周辺。新しい町並みと昔から変らない商店街が共存しているこの場所に『三軒茶屋中央劇場』が昔のままの姿で建っている。戦後間もない昭和27年、松竹系の封切り館としてスタートしたが、しばらくしてから名画座へ路線を変える。そして昭和46年“日活ロマンポルノ”専門館と数々の遍歴を経て劇場の活性化を図ったという。以前は国道246沿いに、もう1館劇場があったのだが平成5年に閉館…以来こちらの劇場をムーヴオーバー館として再出発する。劇場正面にある河童の絵が非常に特徴的だがこれは先代の経営者の発案によって昭和38年より登場したものだ。

「それから、ずっと地元の人々から“河童の映画館”なんて呼ばれているんですよ」と語ってくれるのは劇場スタッフの原田健太郎氏。「外観は昔と変らないですから劇場名の看板も右から左へ流れていたり“各社封切”という看板も当時のスタジオシステムが健在だった頃のままなんです」戦後の混乱期…日本の将来に不安を感じていた庶民に映画という娯楽を提供し続けて来た映画館の姿を見る事が出来る。

以前はハリウッドの娯楽作品が多かったものの最近ではミニシアター系の作品を中心とした週変わりの2本立てで上映している。客層としては年輩の方が多かったものの「三軒茶屋という町自体が下町なので昔から住んでいるお年寄りの方々が中心でしたが最近では結構、若い方も増えてきてますね。だんだん新しくなって来ている周辺の環境のおかげでしょうか、若い方々と年輩の方が同じくらいの割合とお客様の層も変化してきています」と原田氏が語る通り“三軒茶屋”という街の新旧融合されたスタイルが客層にも反映されているようだ。つい最近まで公開されていた作品を一般1300円という料金で2本観る事が出来るという名画座の醍醐味を味わえるとあって遠方から来られる方も増えている。

「ここ数年でこういった名画座が閉館してきているという現状もあるんでしょうね。千葉からわざわざ来られるお客様もいらっしゃいますよ」今では少なくなってきた名画座の老舗として期待を寄せるファンも多いのだ。入口の自動券売機でチケットを購入してロビーに入ると、そこにも昔から変らないレトロな空間が広がっている。場内へ続く茶色の扉や、ドッシリとした柱…ロビーを眺めているだけで懐かしい発見がいくつもある。「近代的な建物が建っている駅前から一歩、中に入ると過去の遺跡みたいな映画館があるわけですから…こういった雰囲気も合わせて楽しんでもらえたら良いんですけどね」と言う通り、ひと味違った映画鑑賞を味わえる。映画館の前から見える、銭湯“千代の湯”の煙突が郷愁を誘う。


「ちょっとノンビリと映画だけを観たい時なんか理想的な場所がココ三軒茶屋だと思うんですよ。大都市というわけでもなく、かと言ってそれほど小さい街でもない適度な規模の街ですから映画をゆっくりと観るには丁度良いのではないでしょうか?」以前に比べ女性のお客も増えており映画を観終った後でも余韻に浸りながら家路につける場所なのだ。サービスとして毎週金曜日は割引料金(一般200円・学生100円引き)で映画を観る事ができるので是非、利用して頂きたい。街に溶け込んだ映画館だからフラリと立ち寄れる雰囲気があり、“遊びの精神”をモットーとしているから普段着のままの自分のスタイルで映画を楽しむことが出来る身近な映画館が『三軒茶屋中央劇場』なのだ。(取材:2001年5月)

【座席】 262席 【音響】DS
【住所】東京都世田谷区三軒茶屋1-14-5
※2005年2月18日を持ちまして閉館いたしました。


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