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昭和54年にはスクリーンを3つに増やし、翌年には更に1スクリーン、そして昭和56年には1階に東映の直営館“飯塚東映”が入るなど正に日本映画の全盛期を支えてきた。平成に移りセントラルビルを全面改装を行い、4スクリーン体制を整える。以前は近隣に数館の劇場を有する株式会社飯塚セントラルという法人が運営していたのだが、平成20年4月に一度閉館。入れ替わって別の法人が経営を引き継ぐも運営が軌道に乗ることなく程なく撤退。それをセントラルビルの所有者ある三木拓祐氏が「(映画館を)そのまま潰してしまうのは勿体ない…みんなの財産である映画館を守っていこう」と、地元で映画館を運営できるNPO法人“もっといいづか”を立ち上げて平成21年3月より再オープンする。ビルのオーナーが映画館を存続させるためにNPO法人を立ち上げる…というのは、かなり珍しい。その時にオーナーがこだわったのは「いくらNPO法人で運営しているからといって、しょぼい空間だと結局はお客様は離れてしまう。だからシネコンに負けないようなフードカウンターだったり休憩スペースを設けよう」という空間のイメージ作りだったと語るのは支配人の森裕晃氏。 |
なるほど、ロビーに置いてある休憩所のソファーやカウンターはポップで明るい色調のもので揃えており、ポップコーンマシーンひとつ取ってもゴールドメダルというディズニーランドで採用された海外のメーカーから取り寄せたものだったりする。「せっかく映画を観に来たお客様に最高の気分を味わってもらいたい…という思いで皆で知恵を出し合って立ち上げたんです」もうひとつコチラの劇場のユニークな点は1スクリーンをライブやパーティーが出来るイベントホールにしてしまった点だ。元々映画館だったスペースだけに音響設備は充実。近年ではプロのミュージシャンがライブで利用されることも多い。 コチラでは会員制を取り入れており、毎月1,200円の会費を払えば会員カード(e-moカード)を発行。何と会員本人は毎月何本映画を観ても無料というのだから驚く。「その代わりウチは新作をやらないので、要はお客様がどちらを選ばれるかなんですよね。やはり新作をすぐに観たい方は博多へ出て行かれますから」公開から2〜3ヶ月遅れの準新作とは言うものの、まだDVDになる前の作品を映画館のスクリーンで楽しめて、しかも3スクリーン計6本の作品を自分の都合に合わせて全作品を観たとしても月1,200円はかなりお得な料金体形だ。「元々、人口が少ない場所で、映画人口で考えると更に少ないですから。その状況で新作を興行して50年やってきて結局はダメだったという結論が出ているので、同じ方法を取っても潰れるのは目に見えているわけなんです」では、どうするか?ということで辿り着いたのは会員を募って会費で映画館を存続させるという方策だった。年齢層も幅広く、親子連れから地元の中高生、そして年輩のお客様など近隣に住んでいる方がメインとなっているだけに、作品選びも単館系のものよりも知名度のある作品を中心に構成されている。「やはり作品に魅力が無いと退会されてしまうお客様もいらっしゃいます。とにかく続けて行く事…今はただそれだけを考えていますね」現在の会員の中には若い頃にココで映画を観て、飯塚に映画館を残す…という趣旨に賛同して会費だけ払っている方も多い。 |
「作品だけじゃなく、映画館に対する思い入れが深い昔からのファンためにも映画館を無くすわけにはいかないのです。“地元に映画館が無い”という肩身の狭い思いをしたくないですから…」森氏が受付をしている時によく声を掛けられるのは年輩のお客様からの「ありがとう」という言葉だ。それは映画に対する感動と同時に、そんな素晴らしい体験をさせてくれた劇場に対する感謝の言葉とも受け止められる。「涙を拭いながら杖をついて起こしいただいたお客様からそんな言葉をかけてもらった時は映画館をやっていて良かったと思いますね」作品が新しいか古いかが問題ではなく続けて行く事が大切なのだと森氏は語る。また、家からお饅頭を作って食べなさい…と来場されたおばあちゃんから渡される事もしばしば。「映画館で映画を観る良さは作品と一緒にその時悩んでいた事とかを引っ括めてひとつの作品の思い出になる事だと思うんです。それって家でDVDを見ているだけじゃ、決して得られない事ですよね」そんな思い出を多くの人に持って帰ってもらいたい…という森氏の言葉が印象に残った。(2011年9月取材) |
【座席】 『スクリーン2』88席/『スクリーン3』115席/『スクリーン4』78席 【音響】 SRD 【住所】福岡県飯塚市吉原町8-48 ※2015年3月26日を持ちまして閉館いたしました。 |