今も昭和の薫り漂う新開地商店街の北端にある近隣住民の憩いの場となっている湊川公園。湊川公園駅から1分、新開地駅から5分ほど歩いた辺り…小高くなった公園の半地下に名画座『パルシネマしんこうえん』がある。前身は、公園内にあった芝居小屋から戦後、映画館に転身して松竹・東映・大映作品を掛けていた“公園劇場”という邦画の二番館だ。当時は“鞍馬天狗”や“一心太助”などの時代劇で場内の扉が閉まらないほど多くの観客で盛り上がっていた。やがて、日本映画人気も下火になりはじめた昭和43年に神戸市が行った湊川公園改修に伴い、“公園劇場”は取り壊される事となる。 |
それから3年後の昭和46年1月1日に“新公園劇場”という館名で再オープンしてからは、西部劇や戦争アクションを中心とした洋画の二本立て興行に路線を変更する。現在のような邦画やアート系の作品を取り入れるようになったのは、今から30年ほど前。代表を務める小山康之氏が、先代のご両親から劇場を任されるようになってからだ。「公開が終わって、順番に回ってくる映画だけやっているのもツマラナイなぁと思い、青春物とか文芸物を番組に組み入れたのが始まりです」と当時を振り返る小山氏。最初は2ヶ月に1回の割合で単館系作品を上映するようになり、次第にそれまでのアクション映画に来られていた客層とは異なる新しいお客様が来場するようになる。「当時、三宮にあった名画座が話題作を中心にプログラムを組んでいたので、同じ路線で勝負してもお客様は三宮に行ってしまうだろうから(笑)。差別化を図ったというのも狙いのひとつです」 |
以前は週替わりだった上映期間も現在は10日から11日切り替え。入場料金は2本立で、一般1,200円、学生・シニア1,000円とリーズナブルだ。作品の選定は年間250本以上の映画を必ず観て選ぶという小山氏は、上映本数は少なくなったものの、その分、妥協のない良質な作品を提供出来るようになったと自負する。「観ないと(作品の良し悪しは)分からないですから。選ぶ基準は、ストーリーの良さと、映画的な表現が成されているか…極論すれば、この二つだけなんですよね。その上で、これはお客様に観て欲しいと思ったものだけをリストアップします。ですからウチで掛かっている作品は、私が自信を持ってオススメしていると思っていただいて結構ですよ」と語る小山氏が次に行うのはその作品をどう組み合わせて二本立てにするか…という作業だ。小さな事でも必ず何かしらの共通項がある作品を組み合わせるのがポイントだ。ベストな組み合わせが出来るためには、少しくらい待つ事も厭わない…と小山氏は言う。「二本立ですと、お客様の中には一本観てしまったから…と観られない方は結構多いです。ただ、その一本だけでも観る値打ちがあるものを選んでいるので、出来れば観てもらいたいんですけどね」 ちなみに現在の館名となったのは、小山氏が引き継がれてから2年ほど経ったあたり。仲間という意味のパルを入れてパルシネマとしたのが館名の由来。だから小山氏は出来るだけお客様と会話を持つように心掛けている。「二本立は、お客様の滞留時間が長いので、休憩時間には声を掛けさせていただいてます」更にお客様とのコミュニケーションを図るために長年継続されているのが、全て手書きで作品の紹介をしている「パルしんKAWARA版」という会報誌だ。「かわらばんを通じて映画館には無いコミュニケーションをしたいので…それが無いと映画を観終わったらサヨウナラでしょう?間接的でも映画の事を話しが出来る読み物を作ったのです」 |
昔懐かしいコルトン看板に書かれた「名画をあなたに 日本の名画座BEST3 プログラムは世界No.1」の文字に誘われて自動券売機でチケットを購入して入場する。小さな受付と売店を通り、地下にある小さなロビーへワクワクしながら階段を降りる。ロビー左手には映写室へ続く細長い階段。希望者は映写室を見学させてくれるというのが嬉しいサービスだ。また、何よりも『パルシネマしんこうえん』は、周辺のロケーションが魅力的だ。公園の真下にあるおかげで、アート系の作品を観終わって、いきなり現実に引き戻されないのが良い。天気の良い日は公園を散策して遠回りして帰るのも良いだろうし、新開地で昔ながらの商店街をブラブラしながら洋食屋に立ち寄るのもオツな映画の観方ではないか?「昔、この辺は神戸で一番の繁華街だったんですよね。映画館も20館以上あって、チャップリンも訪れたという映画の街だったのですが、戦後、中心が三宮に移ったことから人の流れが変わってしまった…ここはそんな場所なんです」テレビの普及とその次にやってきたレンタルビデオとシネコンの台頭によって最盛期の3分の1にまで映画館が減ってしまった。 |
「そこに(阪神淡路)震災が起こって、今まで住んでいた人たちも郊外に出て行ったりして…今じゃ、この辺りは昔みたいに夜遅くまで賑やかという感じでは無くなりましたよ」震災当時は崩壊は免れたものの劇場も休館を余儀なくされたという。そんな幾多の厳しい状況を乗り越えて今もなお、多くの人々が訪れ、平日の開場30分前から常連脚の列が出来始める根強い人気の『パルシネマしんこうえん』には何があるのか?「若い世代がシネコンに流れているので厳しいですが…良い作品を選んでいるからお客様に来ていただけていると思います。だからプログラムは妥協出来ないです。いわゆるヒット作を順に組んでいけば、ある程度お客様が増えるかもしれないですが、その気にはなれないですね」“観て欲しい!”作品へのこだわりを守って行きたいと力強く語る小山氏。「そのこだわりが無くなると崩れて行きますよね?心に残る映画という部分は大切にしたい。観終わって、あぁ良かったなと言ってもらえる作品をこれからも提供していきますよ」と、最後に語ってくれた言葉が印象に残った。(2013年8月取材) |
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