何と言っても洗練された都会の女性を魅力的に描くのを得意とするのはパラマウント映画だ。グラマラスなマリリン・モンローよりもオートクチュールが似合うスレンダーなオードリー・ヘップバーンなのだ。ブレイク・エドワーズ監督作品『ティファニーで朝食を』の主人公ホリーがニューヨークの高級コールガールであってもオードリーが演じると、キュートなロマンチックコメディになってしまう。(もっとも原作者のトルーマン・カポーティは、マリリン・モンローをイメージして執筆していたというが)

明け方、ジバンシーのドレスを着こなしたオードリーが、ティファニーのショーウィンドウ前に佇むオープニング。オードリー作品をいくつも手掛けた撮影監督フランツ・ブレイナーによる青を基調としたテクニカラーの映像が美しい。ハイソサエティな暮らしに憧れ、金持ちの男から男へ渡り歩く女性の物語だ。映画では直接的に描かれていないが、ホリーはかなりきわどい生活を送っているのは想像がつく。毎晩金持ちの男性を誘っては肝心なところでトイレに行くふりをして自宅に逃げ帰る日々。その度に迷惑を被るのはアパートの階上に住む日系カメラマンのユニヨシ(MGMミュージカルの名優ミッキー・ルーニーが演じるヘンテコなキャラクターは、まだ日本人のリサーチが出来ていない戦後らしい出来事だ)。ある時は警察沙汰になりながらも無邪気な笑顔で難なく切り抜けてしまう。そんな主人公を天真爛漫に可愛らしく演じられたのはオードリーだからであり、カポーティが思い描いていたモンローが演じていたら、ここまで女性の映画ファンに支持されていただろうか?エドワーズ監督は最初からホリーはオードリーしかいないと考えていたそうだ。

ある日、同じアパートに小説家を志ざす男性が引っ越してくる。演じるのは、アクターズスタジオ出身でデビュー間もないジョージ・ペパード。彼もまた金持ちの婦人(往年の名女優パトリシア・ニールが気品溢れる名演を披露)をパトロンに、会うたびにお小遣いを貰っている身だ。言ってみれば二人の主人公は、どちらも世間に胸を張って暮らせない者同士。だからこそ互いに惹かれあっていく過程をジョージ・アクセルロッドは自然体に脚色している。

ある事件によって大富豪との結婚がご破算になったホリー(果たして大富豪が本気で妻として迎える気があったのかは疑問)がヤケになるが、そこで真実の愛に気づく…という原作にはないラストシーンが素晴らしい。ヘンリー・マンシーニのムーンリバーが流れる土砂降りの雨の中、次第に近づく二人が抱き合うシーンは『風と共に去りぬ』のラストで真実の愛に生きる決意をするスカーレットと共通するものを感じる。ちなみに原作では、ホリーは失意の中でも南米に渡り消息不明となるというほろ苦いラストなのだ。

パンフレットの館名は日比谷スカラ座になっているが、東京宝塚劇場の隣にあったこの映画館は、みゆき座と並ぶ日比谷映画街の中でも女性をターゲットとした洋画を中心にプログラムされていた。スタジアム形式の観やすい場内は、今のスカラ座にも引き継がれており、大劇場の風格が残っているのが嬉しい。バンフレットの中で女性映画評論家の草分けだった山本恭子女史が、まだ個人の海外渡航が許されていなかった時代のニューヨークに対する憧れを綴っていたのが印象に残る。