2015年6月12日、製作50周年ということで、鎌倉にある川喜多映画記念館と鎌倉芸術館の共同企画による35mmフィルムによる特別上映が行われ、600席もあるホールは満席となった。コンサートホール用の施設だからセリフ部分の反響は多少気にはなったもののミュージカルシーンの音は映画館とは違った迫力があって、それはそれで素晴らしかった。8割が年配の方々で、鎌倉の民度の高さに今さらながら感心する。

日本公開が1965年。私が初めて観たのが1980年のリバイバルで中学生の頃。札幌市内にあった大劇場の帝国座で観たトッドAO70mmの大スクリーンに映し出されるアルプスの雄大な景色に圧倒された。(3時間の長尺なのに『チコと鮫』の二本立だったのがローカルらしい)実在するオーストリアの軍人一家フォントラップ・ファミリーがドイツとの併合を嫌いスイスへ脱出するまでを描いた実話を名作曲家オスカー・ハーマンスタイン二世とリチャード・ロジャースがブロードウェイミュージカルとして上演したのが1959年。更に遡る事1956年に『菩提沙樹』というフォントラップ一家を描いた西ドイツ映画があったのを知ったのはもっと後のことだ。

厳格な軍人の家に家庭教師として派遣された修道女マリアと七人の子供たちとの交流を描いた本作は、その年のアカデミー作品賞を受賞。『ウエストサイド物語』でニューヨークのダウンタウンを舞台に対立する若者グループを描いたロバート・ワイズ監督が、本作では一転…音楽の都ザルツブルクを舞台にナチスが台頭しヨーロッパ全土に影を落としている第二次大戦前夜の時代を取り上げている。

ゆっくりとアルプスの山々を捉えるテッド・マッコードの空撮による雄壮なオープニング映像。険しい山脈を越えると抜けるように広がる美しい森と湖…そしてカメラは高原となっている山頂を颯爽と歩く、米粒のようなジュリー・アンドリュース(=マリア)にカメラはグングン近づく。そして名曲〜サウンド・オブ・ミュージック〜を高らかに歌い上げるオープニングでスッカリこの映画の虜になってしまったのだ。パンフレットで映画評論家・野口久光氏は、この曲はややオペラティックに歌って欲しいと書かれており、舞台のメリー・マーティンよりも向いているそうだ

アンドリュースのコミカルな演技と、迫力のある(それでいて繊細で美しい…)ソプラノボイスは、深く思春期の少年だった私の心に留まった。残念ながら映画デビュー作の『メリー・ポピンズ』以外、彼女の良さを充分に活かしきった作品は少なく、『サウンド・オブ・ミュージック』を越えるキャラクターには遂にお目にかかる事がないまま今日に至ってしまった。そして1997年喉の手術によって4オクターブ声域が失われてしまったという一報は残念でならない。

アルプスの天気待ちで、11週間という長期ロケとなってしまい、育ち盛りの子供たちの身長が変わってしまったのを靴のかかとで調整したそうだ。初めて本作を観た時から三女ブリギッタを演じていたアンジェラ・カートライトの美少女ぶりに心を奪われてしまった。クリストファー・プラマー演じる子供たちに厳格な父とシャーミアン・カー扮する長女が、母の死後初めて心を交わせるエーデルワイスを歌うシーンでのこと。二人を切なげな表情で見つめるカートライトの微妙な心境を表現した演技は見事だ。それもそのはず、既に『傷だらけの栄光』でワイズ監督と組んでおり、経験が子供たちの中で一番長いのだった

ゴールデン洋画劇場で二週に渡って放送されたのをビデオ(勿論、βマックス)で録画して、CMを入れたくないからポーズボタンに指を掛けながら観ていた。そうこうしている内に海外版のビデオが日本でも購入出来るようになり、1万5千円と高校生には高価だったにも関わらずバイト代を貯めて購入した。勿論、字幕なんて無いけど、テレビの吹き替えを何度も見ていたからセリフは全て暗記済みだったから、何ら不自由はしなかった…という事を映画を観ながら思い出した