“渋谷パンテオン”と同様、渋谷の街にある老舗の大劇場として称されるのが『渋谷東急』だ。“東急文化会館”の5階にあるコチラの劇場も常に大作・話題作を送り続けている松竹・東急系のチェーンマスター館である。ビルの5階にある映画館とは思えないほど、場内に入ると高い天井とスクリーンの大きさに圧倒される事だろう。客席は前列から真ん中まではワンスロープで緩やかな傾斜がついており、中央から後ろは段差がついたスタジアム形式の作りとなっている。体にフィットする座席は座り心地が良くスクリーンが天井いっぱいにまで広がっているおかげで、どこの席からでも観やすいのが特徴だ。上映作品も“ライアンの娘”“レッズ”に代表される文芸作品を主に上映していたが、ここ数年はデートムービー的な恋愛ドラマや“モンスター・インク”などのようなファミリー向けの作品に主流を置いている。“渋谷パンテオン”が男性的な迫力のある劇場だとしたら、『渋谷東急』は、どこか女性的な優しさに溢れている。それはロビー全体が醸し出している柔らかいトーンのせいでもあるだろう。


パステル調のグリーンとサーモンピンクで彩られている壁面はファンタジックな雰囲気を持っている。場内にしてもスクリーンに掛かるカーテンに当てられているグリーンの照明は幻想的でコチラ程、ファンタジー作品が似合う劇場も無いだろう。昭和31年12月1日の設立当初からロードショウ館としてスタートしたコチラの劇場は70mmの上映も可能で、今ではもう観る事が出来なくなってしまった迫力のある70mm大作を機会があれば復活上映して欲しいものだ。ロビーはホールを囲むようにして存在しており、子供向けのファミリー作品が比較的多い劇場だけにキャラクターグッズ等の販売も充実しているのが特徴だ。

6階にある『渋谷東急2』は元々名画座としてスタート、館名も“東急名画座”だったのを20年前から、現在のロードショウ館としてリニューアルした。名画座当時にはオリジナルの上映スケジュール表を発行しており三つ折りで映画の解説が細かく入っているなどファンの間では定評があった。ロビーは『渋谷東急』と同様に女性的な色合いが強く、壁面をサーモンピンクで統一、落ち着いたムードがロビーを包み込んでいる。場内はワンスロープ形式で縦に長い中規模の劇場ながら座席が隔列毎に互い違いになっているおかげで前列の頭が邪魔になることがない。スクリーンと客席の距離が丁度良く、また座席の間隔が広く取られているので観やすさでは決して大劇場に退けをとらない。


地下1階にある『渋谷東急3』はオープン当初“ジャーナル”という館名でスタートしており、その名が示す通り映画館というよりもニュース映画を専門に上映していた。また、映画館だけではなくテレビ朝日が毎週日曜日に放映していた牧伸二司会の“大正テレビ寄席”の会場として使用されており、正にイベントが多い現在の“渋谷パンテオン”の前身とも言えるだろう。その後低料金で映画を提供する映画館として“東急レックス”という館名を経て、現在の館名になった。地下にある東急ストアの隣にあるせいか買い物帰りの袋を持った女性客も多く、特に水曜日のレディースデーには多くの主婦層が来場する。半円型のイスがユニークな場内は地下にあるにも関わらず理想的な空間を作り出しており、前列の頭が気にならない程、スクリーンの高さが計算されている。上映作品も最近では全国ロードショウ作品以外にもミニシアター系の作品を掛けるなどバラエティに富んだラインアップを充実させている。 『渋谷東急』の3館は同じビル内にあるせいか、映画館のハシゴをするファンも少なくない。また、2000年からは東京国際映画祭の協賛企画として“香港国際映画祭”もスタート。『渋谷東急』がメイン会場になる等、映画ファンにとって、またひとつ注目の場所が増えた。

コチラの3館は渋谷の駅前という好立地も手伝ってか土日祝日には多くの映画ファンやカップル、ファミリーなどが詰めかける劇場だ。だからこそ、現在劇場側が持つジレンマも有ることは確かでお客様が多い反面、立見となることも多くお客様の入りによっては劇場を入れ替えるなどの工夫も行っている。「最近、シネコンの設備や場内の構造を見ていると観やすさを追及して客席数を減らすか、それとも多くのお客様に観ていただくためにも現在の客席数を保っていくか?」が大きな課題となっているという。実際、8週目であるにも関わらず“ロード・オブ・ザ・リング”を『渋谷東急2』で掛けていた時は3回の上映全てが満席となり場内に入れなかったお客様もたくさんいたという。確かに、これもターミナル駅で一番集客が多い劇場の宿命なのかも知れない。サービスの向上と充実した環境…これからの『渋谷東急』に注目していきたい。(取材:2002年4月)


【座席】『渋谷東急』824席/『渋谷東急2』381席/『渋谷東急3』374席
【音響】『渋谷東急』DS・SR・SRD・SDDS/『渋谷東急2・3』DS・SR・SRD・DTS

【住所】 東京都渋谷区渋谷2-21-12 渋谷東急文化会館 ※2003年6月30日を持ちまして閉館いたしました。

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