かつて新宿、歌舞伎町はB級映画館と二本立、三本立名画座の宝庫だった。朝まで営業しているバーや深夜喫茶と同様に始発電車までの時間を映画館のシートで過ごす人々が当り前の様に見受けられた街─まさしく不夜城と呼ぶに応わしい映画の街。それは銀座とも渋谷とも違う独特の雰囲気を持っていた。 昭和30年代には全盛期を誇っていた歌舞伎町の映画館も今では当時の半分を残すだけとなったのだが、館名を変え上映形態を変えながら、今でも映画ファンの心を捉え続けている劇場がある。それが『新宿ジョイシネマ』だ。「暑い夏、一本の映画を観るために汗を流して並ばれるお客様と、少しでも気持ち良く映画を観ていただくために同じ様に汗を流して対応するスタッフがいて、快適な空間が生まれるんですよね」と語る劇場スタッフの石井好子さんの言葉通り初日の土曜日は慌ただしく動きながらも笑顔を絶やさないスタッフの姿が見受けられる。 |
『新宿ジョイシネマ』のある歌舞伎町一丁目は大小の映画館がひしめき合う映画の激戦区であり、若いカップルから年輩の男性まで年齢としては実に幅広い客層を持っているのが、歌舞伎町の特徴でもある。その中でも「今まではレディスデーがあまり強くなかったんです。やはり歌舞伎町が女性一人では来難いイメージだったのでしょうけど…ここ最近、女性のお客様が多くなってきました」と石井さんの言葉通り昔の歌舞伎町界隈の映画街の持っていた雰囲気とは、かなり変わってきている。歌舞伎町の変貌と共に時代に合わせて変わって来たのが『新宿ジョイシネマ』と言っても良いだろう。3館とも共通のチケット窓口で当日券を購入し、同ビルの地下に降りると『ジョイシネマ1』が、エスカレーターで3階に上がると壁面いっぱいに貼られた映画のポスターが出迎えてくれる『ジョイシネマ2』がある。こちらのビルは昭和22年12月に634席を有する邦画・洋画の特選劇場としてオープンした“新宿地球座”だった。その後、邦画三本立の“新宿座”という館名で親しまれてきた名画座も、その後松竹の封切館として“歌舞伎町松竹”と名前を変えた。 |
平成7年に“アポロ13”でバーチャルシアターという体感型劇場として場内に大きなスロープと段差を作り、以前にも増して快適な映画館として生まれ変わった。『ジョイシネマ1』のロビーは広く、今年の7月にリニューアルされた売店がウリのひとつ。充実したメニューは「上映開始ギリギリにいらっしゃるお客様が結構いらっしゃるんですよね。映画を楽しく観ていただくために、やはり空腹で観るのは辛いと思うので…」というお客様のニーズによって品数も豊富に取り揃えられポップコーンやホットドッグがビールなどのドリンクとセットになったA〜Cセットが好評だ。一方、“新宿地球座”という館名だった『新宿ジョイシネマ2』は平成10年“追跡者”でリニューアルオープンした時、それまでの同ビル4階から現在の3階へ移設、同時にそれまでフラットだった場内をスタジアム形式の劇場となった。両館共に上映作品としては“丸の内ピカデリーチェーン”の作品で構成されている。『ジョイシネマ2』のロビーはシックなダークブルーの色調で統一されており落ち着いた雰囲気を持っている。3館の中でも一番段差がついている場内は、前列の人の頭が気にならない。 |
その中で異彩を放っているのが道路を挟んで向かい側ミラノビルの隣に位置する『ジョイシネマ3』。映画ファンの間でもかなり特殊なプログラムを組む劇場として定評がある。昭和32年に客席500席を有する“新宿名画座”という館名でオープン。昭和40年代後半から低迷する日本映画の低迷期を成人映画館として乗り切った“新宿シネパトス”という館名に変わったあたりから『新宿ジョイシネマ3』の特色が色濃く出始めたと言っても良いであろう。ホラー、アクション、SFなどユニークなB級作品の単館レイトショウ上映は今でも変わりなくB級映画ファンにはたまらない魅力なのだろう。最近では“殺し屋1”のロードショウを行い大ヒットを記録。他にも“ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ”やレイトショウでは“スパイダーズ2”“アタック・オブ・ザ・ジャイアントケーキ”などキワ物のホラー、モンスター映画などマニアックな作品を上映。平成11年“名探偵コナン”でリニューアルオープンしたのを契機にコチラの劇場は東宝系が中心となっている。 |
今後、フリーブッキングで作品の上映を行っていくという。夜にはきらびやかな電飾でライトアップされたエントランスがエンターテインメントな雰囲気を醸し出している。ロビーはいたってシンプルな作りだが、特筆すべき点は場内の音響の良さ。ファンの間では歌舞伎町随一の音響と定評があり、たしかにフロントスピーカーとリアスピーカーの音のバランスはピカいち。爆発音などの激しい音は勿論だが、むしろ静かな澄んだ微妙な音色を楽しんでいただきたい。「初めてかかる予告編にどよめくお客様の反応を見るのが好きなんです」と石井さんは続ける。「特に満席の場内が暗くなって予告編が始まり、シーンと静まり返った場内が一本の予告でざわめくと、私まで何かワクワクしてくるんです」お客様が満員になった時の喜びは“映画館の仕事をしているならではの満足感”という。いつも場内の最後尾で見守っているスタッフがいるからこそ我々は楽しいひと時を過ごせるのだ。今日も映画の陰で汗を流して動くスタッフが快適な空間を作り出している。(取材:2001年8月) 【座席】『1』400席/『2』305席/『3』300席 【住所】 東京都新宿区歌舞伎町1-21-7 |
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