毎日多くの人々が行き交う街、渋谷道玄坂。若者文化の中心地であるかの地に古くは“渋谷東宝”という名前で親しまれて来た大劇場があった。東宝直営館として渋谷の顔だった劇場も駅前の再開発で1991年に4館の映画館を有する『渋東シネタワー』として新しく生まれ変わった。シネタワーという名前が示す通り、そこはまるで映画館の塔(タワー)。まだシネマコンプレックスが日本で浸透する以前から複数の劇場と飲食店などが入ったアミューズメントスペースとして注目を浴びる。「ここに来れば映画の梯子が出来るということでチケット窓口で全作品のチケットを買って行かれるお客様も多いですよ。」と語る副支配人の馬場亮一氏。特に映画の日はそういったお客様が数多く見られるという。上映作品としては『シネタワー1』がスカラ座1系、『2』が日劇1系、『3』が日劇3系、そして『4』が東宝邦画系に分かれている。コチラで一番大きな『シネタワー2』は都内でも数少ない2階席を有する劇場で2階席は全てプレミアシートとして全席指定となっている。2階席があるだけに天井は高く、非常に開放的で大スクリーンで観る大作は迫力満点だ。これこそ映画館で映画を観る醍醐味を満喫できる劇場と言えるだろう。 |
渋谷地区ではこうした大劇場が少なくなってきており、大劇場の魅力に取り憑かれた映画ファンはこの映画館をこよなく愛する。だからこそ「長い列が出来ているからと帰られるお客様は他所と比べると少ないと思います。」という馬場氏の言葉は、そういったファンたちの心境を裏付けているように思える。渋谷で最も人通りの多いハチ公口。劇場には地下からも直接アクセスできるのがウレシイ。センター街の交差点で人ごみに揉まれる事なく地下1階にある『4』の前にそのまま行く事ができる。地下に在る『4』は小さいながらも落ち着いた空間でシックなトーンに彩られた場内は大人のムードを醸し出している。そのまま地上に上がり1階に在るチケット窓口で入場券を購入して階段で2階の『3』、エレベーターで『1』『2』の劇場へ…雨の日には駅から濡れずに行く事が出来るのも大きな特長のひとつだ。 |
ロビーは4館各々特徴的だが、中でも『2』のロビーは吹き抜けになっており、壁面のガラス面からは充分な自然光が入ってくる。また、今年の3月に改装したばかりのショップで販売されている商品の中でもコーヒーは絶品。「実は渋谷と言う街はコーヒーの売れ行きが良い街でもあるんです。Qフロントビルにあるスターバックスの売り上げが世界一になった事が何度もあるほど…」というこの地において他と引けを取らない本格的な味を体験する事ができる。また、冬になると登場する東宝直営館名物の中華マンが好評。映画を観ながら頬張る中華マン、是非一度味わってもらいたい。 客層としては若者を中心とした構成となっており、それだけにオールナイト興行は強い。最近公開された“8Mile”はまさしく渋谷系の若者に支持された作品として、予想以上の反響があったという。「渋谷という街に集まる人々は乗りが良い人種が多いので、面白い仕掛けにはすぐに反応してくれます。以前、前売り券を窓口ではなくビルの共用ロビーで販売した時なんか通常の10倍の売れ行きでした。こうしたイベント性が好きな街なんでしょうね。」最近では近隣のカフェとタイアップして半券を持っていけば割引になるなどのサービスを作品によって行うなど積極的な活動を行ったりしている。小さな子供からカップル、シニア層と幅広いニーズに応えるためマニュアル化されていないサービスを心掛けている『渋東シネタワー』。「温かみのある一人一人に対しての接客を…臨機応変にお客様に合わせた対応をする事を一番に考えるように務めています。」という言葉通り、そこには明るいスタッフの笑顔があった。(取材:2003年6月) |