人通りの激しい渋谷センター街─その入口にそびえ建つガラスの塔、Q-FRONT(キュー・フロント)ビル。夜になるとライトアップされたその姿は幻想的で近未来SFに出てくる建造物を思い起こさせる。スターバックス、ツタヤなどが入るこのビルはサブカルチャーの宝庫と言えるだろう。このビルの7階に1999年12月にディズニー・アニメ“ターザン”でオープンした東宝直営のロードショウ専門館『シネフロント』は正にサブカルチャー発信基地である。1階のチケットショップで入場券を購入する。全席指定席なので早めに購入しておけばギリギリまでゆっくりとしていられるのがウレシイ。エレベーターで7階に上がると、そこに異次元の空間が広がっている。宇宙をモチーフとしたコンセプトでデザインされたロビーは薄暗く、床にはまるで星のような照明が散りばめられている。エレベーターを降りて右手には宇宙船の通路のようなライトアップされた通路が続いている。そして何と言っても圧巻なのはコンセッションの壁面に描かれたスペースシャトルと宇宙空間のイラスト。これほどまでに明確なデザインコンセプトが成された劇場も珍しい。「この劇場は東宝直営館の中でも特殊なスタイルの劇場だと思います」と言う副支配人の馬場亮一氏。確かに開映までの待ち時間、コチラのロビーで過ごしていると妙に落ち着くのだ。 |
ロビーを取り囲む壁は光沢のある黒を基調としており、その雰囲気は“2001年宇宙の旅”に出て来たモノリスのよう…。奥にあるカウンターの休憩スペースには宇宙船から見たような宇宙空間が広がり、コチラは“スタートレック”のエンタープライズ号のラウンジにいるかのような楽しい錯覚に陥らせてくれる。客層としては、やはり場所柄だろうか若者の姿が目立つ。コアな映画ファンというよりもデートムービーとして楽しむカップルの姿が土日のメインだろうか。一方、先述した通り夏・冬・春休みシーズンともなると家族連れがメインとなる。コチラのヒット作といえば不動の動員数を誇る“千と千尋の神隠し”というのもうなづける結果だ。以前はレイトショウ上映で単館系の作品も上映していたというが、今後も機会があれば、そういった作品も上映していきたいと語ってくれた。 |
上映作品はオープン当時は“日劇3”系チェーンだったが現在は“ニュー東宝シネマ”“みゆき座”“日比谷映画”系の作品を掛けている。中でも子供の休みシーズンともなると“名探偵コナン”の上映館としてファミリー層で賑わいを見せている。「今ではコナンシリーズは定番となっていますが、今後大人が落ち着いて楽しめるような作品もどんどん提供していきたいですね。」場内はワンスロープ式の傾斜が大きく、ゆったりとした空間でコチラもロビーと同様、スクリーンを囲む光ファイバーのチューブが様々に色を変化させ幻想的な世界を演出している。座席の感覚もゆとりがあり、深々と腰掛ける事が出来るシートは実に快適だ。昨年より“東京国際映画祭”の上映会場ともなっており、監督や出演者などのティーチインなど様々なイベントがコチラで催された。あえて舞台には上がらずに最前列の前にイスを用意して観客と同じ目線で映画について語り合うなど映画祭では考えられなかった新しいふれあいの場を提供してくれた。こうしたイベントはレイトショウのみでの上映だった“ウォーターボーイズ”でも行われ、初日に出演者たちが来場、終映後にはお客様を握手して見送るなどのサービスも行った。お世辞にも決して大劇場とは言えないが、この適度な広さの空間だからこそゲストとファンがより身近に接する事ができるのだ。「こうしたひとつの事を観客皆で共有できる…非日常的な体験を味わう事が映画館では可能な訳です。こうした感動をもっと多くの方に分かち合ってほしいです。」という劇場側の思いを映画館へ足を運んだ観客は理解し、映画館の魅力を再認識してくれる事を願う。(取材:2003年6月) |