神奈川県一の賑わいを持つ巨大なターミナル駅である横浜。JR線と2本の私鉄そして市営地下鉄が交差する横浜駅西口から徒歩2分の場所に5つの劇場を持つ商業ビルが建っている。青と白の縞模様が印象的な“相鉄ビル”内にあるロードショウ館『相鉄ムービル』だ。昭和30年代、映画産業が活気を帯びていた頃、横浜における映画文化は意外にも横浜駅ではなく隣駅の桜木町と伊勢佐木町であった。最盛期には25館以上の映画館がひしめき合っていた中、唯一ココ横浜駅前で人々に愛されて続けていた“相鉄大映劇場”“相鉄映画劇場”“相鉄地下劇場”“相鉄日活劇場”“相鉄こども劇場”“相模松竹”という5つの映画館があった。 |
神奈川県を中心に幅広くスーパーなどを展開している“相鉄ローゼン”によって運営されている『相鉄ムービル』は、昭和57年7月に“みなとみらい”再開発に伴い映画館を移転。アットホームな接客を劇場のコンセプトとして昔ながらの映画館が持っているサービスを第一に考えている老舗の映画館だ。駅からのアクセスが良く、平日は年輩の方や女性のグループが多く訪れる、今は少なくなった駅前劇場だ。「近所にもシネコンが増えてきましたから、どうしても若者が減っては来ていますが…」と語る支配人の近沢義孝氏は、こう続ける「確かに流行りのシネコンと違って作りは古いですけど、ウチはマニュアルが無いアットホームな劇場運営を行って、お客様の立場と同じ目線に立ったサービスをしていこうと常に思っています」ひとつのビルに入っているからシネコンと思われている方も多いようだが、各劇場は独立しており、あえて指定席制や完全入替え制といったシステムはとっていない。「と、いうのもウチに来られるお客様は年輩の方が多いのですが…その時代の皆さんは映画を途中入場したり立見で観る事に慣れていらっしゃるんですよね」 |
逆にシネコンのシステムに抵抗を感じている方が多く、だったら我々はあくまでも昔ながらの映画館のスタイルで通そうじゃないかという方針になった…と語る近沢氏の言葉通り、平日は朝から新聞を広げてロビーでくつろぐ年輩者の姿が多く、お年寄りの映画ファンから喜ばれている。中には気に入った作品を続けて2〜3回観て行かれるファンもいるなど、昔から変わらず何も規制していない劇場スタイルが生き続けている。コチラの劇場が年輩の方と女性に人気がある理由がもうひとつある。とにかく車を使わなくても駅からすぐに行けるというのが最大の利点だ。特に横浜駅西口はデパート、専門店街、レストラン街等々が充実しており映画観賞後、買い物される主婦層に圧倒的な人気を誇っている。レディースデーの金曜日は開場前から女性客が列を作り始め、5階から1階の階段までその列が続く程である。この盛況ぶりは都内のターミナル駅にある映画館以上と言っても過言ではないだろう。また、土日になると子供連れのファミリーがショッピングの途中で多く訪れる。劇場には駐車場が無いものの隣にあるジョイナスの駐車場を利用すれば入場料が300円割引(子供料金は除く)になる。例えば4人グループで来場すれば1200円お得になるので是非利用して頂きたい。 各劇場にあるロビーには各々売店が設置されており、全て劇場内で完結される。「これも、昔ながらの劇場スタイルとしてこだわっている部分ですね。また各ロビーには喫煙スペースを設けていますから、最近施設内禁煙の劇場が増えている中、片身の狭くなった愛煙家の方々には感謝されているみたいです」ロビーはいたってシンプルで、余計な装飾は施されていない。それでいて常に清潔感を醸し出しており、映画を観に来た人々が心地よい気分で帰る事を徹底している劇場の姿勢が伺える。3年前にリニューアルして全シートを新しく導入した場内はワンスロープ形式でゆったりと映画を観賞できる。 |
ビルの中にある劇場とは思えない程、天井は高く実に開放的。常に最高のものを…と心掛けているだけに最高の音響を提供してくれる。「劇場創立期から30年以上も続けているベテランの映写技師が揃っていますから画質や音響に関しては自信がありますよ。映写機も分解から組み立てまでできる人ですから…メーカーからメンテナンスに来た時も立ち会って逆に色々と要望をつけていますよ(笑)」
上映作品は“ムービル2”がスカラ座系、“ムービル3”が日劇系、“ムービル4”が丸の内ルーブル系となっている。“ムービル1”“ムービル5”はフリーの劇場として独自のプログラムを組んでいるが、今年4月より松竹系と東急系の作品を上映する事になっている。「実は、近隣に新しくオープンした“109シネマズMM横浜”は東急を主体として松竹と相鉄が共同経営という形をとっているのです。これからは、バッティングしない番組編成や上映時間を組み合わせた連携が取れる様になるはずです」と、近沢氏は語る。「近くにシネコンが出来たから心配されるお客様がいらっしゃいましたけれど、映画館としてのコンセプトやスタンスは全く違いますからお互いに魅力を活かして行けたら良いのだと考えています。やはり映画館に来てもらってイイ気分で帰ってもらう…これを守り続けて行けばお客様から支持されると信じています」と笑顔で語る近沢氏。「あそこの劇場に行けば昔ながらの映画館だから、安心してゆっくりのんびり映画を観せてもらえるという事を皆様に知ってもらえるように努力して行きます」その言葉通り劇場のロビーは観客の笑顔で溢れ返っていたのが印象に残った。(取材:2005年2月) |