平成15年6月30日、渋谷にあった伝説的な大劇場─東急文化会館の“渋谷パンテオン”と“渋谷東急”が駅前の再開発に伴い、その永い歴史に幕を降ろした。閉館イベントでは、かつてこちらの劇場で上映された名作の数々を大スクリーンに蘇らせたり、劇場の名物イベントであった東京国際ファンタスティック映画祭(東京ファンタ)の番外編としてオールナイトを行い多くのファンが劇場との別れを惜しんでいた。そして…同年7月12日に、新しく渋谷の東急系映画のチェーンマスター館として新生『渋谷東急』がクロスタワー2階にオープンした。こけら落としとしてオープニング上映作品を飾ったのは、閉館イベントで特別上映されたホラー映画“デッドコースター”である。 |
渋谷駅東口から6分程歩くと駅前の雑踏からオフィス街に変わる。その入口に位置するオフィスビルであるクロスタワー2階にコチラの劇場がある。「東急文化会館が駅前にありましたから、オープン当初は場所が離れてしまったために問い合わせが多かったです。また、パンテオンはどこにオープンするのか?という質問も数多く寄せられ、改めて東急文化会館の存在感の強さを感じましたね…」と語る支配人の田島伸二氏。まず最初に手掛けた事は劇場に来てもらうための場所の認知度を広める事だった。「渋谷という街は駅周辺から、ちょっと離れると全く違った顔が存在する街なのです。オフィス街には商業施設が殆どありませんから、興行的には難しい場所であった事は事実です」という田島氏の言葉通り、劇場周辺は我々が思い描いているような映画館がある場所のイメージとは異なり、ともすれば見過ごしてしまうような落ち着いた雰囲気の場所に位置している。確かにリピーターを中心としたミニシアターと違い通常のロードショウ劇場は作品によってもガラリと客層が変わってしまうため立地的にハンデを負っている場所というのは否めないが、一度劇場に足を運ばれたお客様は“むしろ落ち着いて観る事ができるのがウレシイ”と満足されている方が多い。人通りが多い繁華街と切り離されている場所だけに映画は映画として楽しみ、映画を観終わってもしばし余韻に浸る事が出来る静かな雰囲気が喜ばれているわけだ。特に平日、仕事を終えてから来場される女性にとっては夜遅くなっても安心して帰る事が出来る環境が重宝されている。やはり、オフィス街にある映画館だけに平日の夕方から社会人の姿が目立つが、意外な事に“ファインディング・ニモ”や“ハリー・ポッター”といったファミリー向けの作品に人気が集中し集客もアップしているという。やはり、郊外からの私鉄が集中している渋谷だけに周辺からの家族連れが多いのだろう。 作品は、東急系作品“渋谷東急系”のチェーンマスター館としてアクション大作からファミリー向けに至るまで幅広いジャンルでプログラムを組まれている。「オープンしてから2年が経ち、春・夏休みの話題作のおかげで着実に劇場の認知度が上がって来ているようです」 |
これからも新しい試みを随時行ってもっと幅広いお客様に劇場の良さを知ってもらえたら…その新しい試みとして注目されているのが今年初めて、18年ぶりに会場を日比谷の“シャンテシネ”から渋谷に移して開催された“ぴあ・フィルム・フェスティバル”である。「この施設で、こうしたイベントを行うのが初めてですから今まで来場された事がないお客様に劇場の場所や施設の良さを知って頂ける良いチャンスだと思っております。」と熱く意気込みを語る田島氏。元々、渋谷は東京ファンタや東京国際映画祭といった映画祭の街である。だからこそ、渋谷に映画祭が戻って来た事を心待ちにしていたファンも多いのではないだろうか。 クロスタワーの1階と2階を利用しているだけにビルの中にある映画館とは思えない程、広いロビーを有する『渋谷東急』。エントランスから入場すると右手奥に長い通路が続いている。途中のショーケースには上映作品にちなんだディスプレイが装飾されているなど待ち時間を快適に過ごす事ができる。ロビー左手の階段から下に降りると、もうひとつ落ち着いた雰囲気のロビーがあるのでゆったりとロビーでくつろぐ事が可能だ。またロビーでは全70種類ものポストカードを販売。上映作品によって商品を入れ替えており劇場イチ押しのアイテムだ。シックなデザインと抑えた照明が何とも心地良い場内も天井が高く開放的で、スタジアム形式を採用した段差の激しい座席は前列の頭が邪魔にならない設計となっている。 |