1984年、数多くの老舗の店舗が建ち並ぶ数屋橋と有楽町駅前の歓楽街のちょうど中間点に位置する場所に華々しくオープンした有楽町の新名所“有楽町マリオン”。映画やレビューの中心地だったコチラの場所に駅前再開発という波が訪れてから3年後…1987年にマリオンの新館が竣工する。ちょうどマリオンの裏手に位置する新館に東急洋画系のチェーンマスター館として同年10月2日に“イーストウィックの魔女たち”で『丸の内ルーブル』がオープンした。
バブルの絶頂期に建設された館内は現在では実現不可能と言われる程の贅を尽くした豪華な内装を施されている。1階のチケット窓口でチケットを購入してビルの7階にエレベーターで向かうと、そこはもう映画館というイメージを覆す程の高級感溢れる雰囲気を持ったロビーが現れる。エントランス中央にはきらびやかなイルミネーションの円柱が設置され、壁面は本物の大理石で覆われるなど…劇場に一歩足を踏み入れたとたんに日常とかけ離れた別世界が広がっている。場内はビルの中にある劇場とは思えない程天井が高く、見上げると中央には大きなシャンデリアが…照明は明るく、広々とした開放的な空間が落ち着いたムードを醸し出している。また、上映が始まる時にはブザーではなく“ツアラトゥストラはかく語りき”の幻想的な音楽(オープン当時は“白鳥の湖”)と共にスクリーンカーテンが開く。しかも、スクリーンカーテンは左右に開くのが一般的なのに対して上にゆっくりと開いていくのがコチラの劇場の特長でもある。 |
ちなみにカーテンの開き方にはいくつかのパターンがあるそうだが、最近は上に開くパターンで定着しているという。こうした、ちょっとした所にも大劇場の風格と贅沢な時間を過ごしてもらおうとする劇場のこだわりが垣間見えるのだ。全国のチェーン系列館をリードするコチラの劇場は常にハリウッドのヒット作・話題作を送り続けておりジャンルもアクションからSF、恋愛からコメディーに至るまで幅広く上映されている。過去のヒット作としてダントツの人気を誇ったのが“ボディーガード”だったというのも納得のいく結果であるが、他にも“ラストエンペラー”の動員数は今でも記憶に残っていると支配人の横田浩司氏は語る。「やはり80年代は洋画…特にハリウッドの話題作が多かった時代でしたね。ですから印象に残るのも、その頃の作品に集中してしまいます。決して数字だけの結果ではなく観客の熱気というものが強く伝わって来たのが80年代だったわけです」 |
初日には次の上映までの間にビルを取り囲む長蛇の列を作り、その状況が新聞に取り上げられる程の現象を見せたのが“ラストエンペラー”であった。「ここ数年は近隣に増えているシネマコンプレックスの影響でお客様の流れが変わって来ていますから、今までの営業スタイルを変えてより良いサービスを提供する事を考えていかなくてはならない時代になって来たと思います。作品だけに頼らずに劇場に足を運んでもらえる劇場ファンを増やしていかなくてはならない」と今後の老舗既存館が直面している課題を語ってくれた。今年の6月に全席のリニューアルを行い、7月より全席指定席の完全入替え制を導入するなどサービス面を徐々に改善している。また、今後DLP上映が可能になる設備の導入も検討されているなど映画の街・有楽町にある大劇場は更なる進化を遂げようとしているのだ。 銀座の土地柄、平日の観客層は渋谷・新宿・池袋に比べると年齢層が高く夕方よりも昼間の方が強いのが特長的「銀座には昔から常連のお客様がついている街ですから、映画を観るなら銀座・有楽町とこだわられているお客様が多いですね。それだけに劇場に愛着を感じて頂いている方が多く、私たちもそういったお客様を大切にしていきたいと思っています」と語る横田支配人。当初、懸念していた指定席制導入もスムーズに受け入れられ、今ではレディースデーにはお昼休みを利用して仕事が終わってからのチケットを購入されるOLも増えているという。 チェーンマスター館であるコチラの劇場の名物は、やはり初日の舞台挨拶…毎回出演者や監督、その他意外なゲストが来場して場内を沸かしてくれる。最近では夏に公開された“奥様は魔女”のノーラ・エフロン監督とシークレットゲストとして日本語のイメージソングを歌っていた松田聖子が来場するなど趣向を凝らしたイベントでファンを楽しませてくれている。 |
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