静岡における活動の歴史は七間町から始まる。大正8年4月…七間町札の辻角に常設の映画専門館“キネマ館”が創業を始めてから間もなく90年を迎えようとしている。現在、8館の映画館を運営する“静活株式会社”の前身、静岡活動写真株式会社は、最盛期には静岡市内だけでも14館もの劇場を有し、静岡市民に数多くの名作・話題作を送り続けて来た。勿論、設立当初は弁士と楽団が独自の語り口で映画の迫力を伝える無声映画であったが、戦前、戦中、戦後…と、日進月歩—時代の移り変わりと共に大劇場の時代に突入。昭和26年に、昭和通りに県内最大級の大劇場“(旧)オリオン座”がオープンした。

それまで、ハリウッド作品を一手に引き受けていた“国際劇場”に代わり、シネマスコープ、ビスタビジョンサイズのハリウッド黄金期の大作を次々と公開。七間町だけではない静岡市のシンボル的な映画館としてその名を知らしめていた。戦後、それまで日本では公開できなかったハリウッドの大作や迫力あるアクション満載の西部劇が一気に輸入され、劇場は常に観客が入り切らない程の盛況を見せていた。そのラインアップの代表的な作品を挙げても“シェーン”“グレンミラー物語”“ホワイトクリスマス”昭和30年代に移ってからは“戦場にかける橋”“十戒”といった蒼々たる作品が名を連ねている。正に“(旧)オリオン座”は戦後におけるハリウッド映画の歴史と共に歩んで来た劇場と言っても過言ではない。


そんな、大劇場も昭和46年に長い歴史に幕を下ろし、その任務を全うしたのである。丁度、ハリウッド大作映画が華やかりし頃―昭和32年6月、現在の七間町―七ぶらシネマ通りに松竹映画の専門館“静岡松竹劇場”と、その地下に洋画専門館『静岡有楽座』の2館がオープンした。外壁にはスーラの絵画をモチーフとしたタイル画が全面に施されており、これは“(旧)オリオン座”の外観同様、静岡市民にとってシンボルとなっていた。「新しい劇場を設立するにあたり、丁度その頃、松竹が“君の名は”で空前のヒットを記録して業界ナンバーワンに躍り出ていたので、ココの大劇場を松竹専門館としてオープンさせたわけです」と映画興行支配人、佐藤選人氏は語る。「勿論、当時はテレビもまだ普及していない時代でしたから娯楽の中心は映画であって、松竹スターを一般のお客様が見られるのは、地方巡業されるステージでしかなかったわけです。そのため、劇場も映画上映だけではなく、お芝居や実演が出来るような舞台装置や楽屋などを完備した設計が施されているわけです」と、言われる通り、スクリーンの袖に廻ると未だに緞帳のロープが当時のまま残されていたり、裏手に廻ると、当時実演を行ったSKD(松竹歌劇団)の踊り子さんたちが使っていた楽屋やお風呂等が埃をかぶったまま残っている。他にも島倉千代子や渥美清など数多くのスターが来館…中でも渥美清が舞台挨拶中に停電となり、懐中電灯を持って舞台に上がりアドリブで観客を沸かせたというエピソードは今でも語り種となっている。
そんな日本を代表する松竹と共に歩んで来た“静岡松竹劇場”も“(旧)オリオン座”の閉館と同時に館名を『静岡オリオン座』と改め、上映作品も洋画系の作品を中心に上映する事となる。「昭和30年代、静活(株)は、この界隈で松竹、日活、大映の封切館を持っていたのですが、七間町通りで洋画を観られる劇場だったのが、『静岡オリオン座』と『静岡有楽座』といった形で静活(株)が、独占していたわけです」1990年以降、松竹洋画系のルーブル、ピカデリー系の作品をメインとして、時には東宝洋画系の日劇1系列の作品を上映している590席という日本でもトップクラスの大劇場『静岡オリオン座』。










ワンスロープと後方スタジアム形式の開放感あふれる広々とした場内は、とても観やすいと定評があり、特に最近リニューアルを行い大きめのシートを導入。まさに全席プレミアムシートと自負されるだけあって、ゆったりと映画を鑑賞できる。エントランスから中に入ると広い階段が我々を出迎え、アールデコ調のデザインを施されたロビーは昭和30年代の雰囲気を今も残している。一方、地下の『静岡有楽座』は、地下にある劇場と思えない程広く、心地よく映画を楽しむ事が出来る。
両館共に、今では少なくなった昔ながらの単独ロードショウ館だけに柱や床の造作は凝った細工を施している。「勿論、このまま当時の香りを残したまま存続させたいと思いますが、建物の老朽化も時と共に激しくなるのは仕方が無い事ですから、今後どのような形になるのか分かりませんが…」と語る佐藤氏。出来る事ならば、いつまでも静岡のシンボルとして大作を送り続けてもらいたいと切に願う。(取材:2006年6月)


【座席】 『オリオン座』590席/『静岡有楽座』312席
【音響】 『オリオン座』SR・DTS・DTS・SRD・SRD-EX/『静岡有楽座』DS・SR・DTS・SRD

【住所】 静岡県静岡市七間町15  2011年10月2日を持ちまして閉館いたしました。

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