広島県と岡山県の県境に位置する城下町―福山市。古くから潮待ち風待ちの港として栄えた鞆の浦や“ぎんぎんぎらぎら夕日が沈む”発祥の地として知られる神辺を有する瀬戸内海の中央に位置する福山市は、今でも懐かしさを感じる古い町並みが彼方此方に残されている情緒溢れる街だ。広島から新幹線で30分程…福山駅を降りるとホームから江戸時代に築かれた福山城が見える。人通りが多いにも関わらず閑静な駅前ロータリーを抜け、歩くこと7〜8分足らずの笠岡町に大小4つの劇場―『大黒座』『ミラノ座』『シネマモード1・2』―を有する老舗の映画館『CINEFUKU』がある。「元々は1つの大劇場だったのですが時代と共にお客様のニーズに合わせ、劇場を小分けにして現在のスタイルとなりました」と語ってくれた支配人の酒井宏雅氏。劇場の歴史は古く、前身は明治25年に開業した芝居小屋から。福山大空襲で焼失後、昭和22年に大劇場『大黒座』として復活。昭和35年に新たに70mm上映設備を完備した大劇場『大黒座』と地下に『スカラ座(当時は“新天地大映”)』が新設され、2館での興行を開始する。その後、昭和62年に『ミラノ座』が2階にオープン。『大黒座』と共に数々の超大作を贈り続けて来た。










平成20年1月のリニューアル時に昭和町にあったミニシアター『シネマモード』を地下へ移設し、『スカラ座』改め2つのミニシアターとしてオープンしている。現在、昭和町にあった劇場(旧『シネマモード』)は、多目的スペースの劇場『シネマモードアネックス』として、様々な催しに利用されている。「劇場のコンセプトは女性が一人でもゆっくりとくつろいでいただける…を目指してロビーのデザインや場内環境を整えています」といわれる酒井支配人の言葉通り、劇場のロビーは開放感溢れるフリースペースとして、自由にくつろげる空間となっている。チケットボックスで入場券を購入して、横にある階段を上がると、大理石の壁とエナメル質の白い床が高級感を漂わせている受付とカウンターの休憩スペースがある。受付横の階段を上がると正面にコンセッションを挟んで福山市内最大級の大劇場『大黒座』と『ミラノ座』が向かい合っている。“70ミリ”の文字が光る大劇場『大黒座』は、ハリウッドの超大作が目白押しだった昭和40年代、70mm上映劇場として数多くの名作を送り続けていた。「今でも70mmの上映は可能なのですが、残念な事にフィルムが残されていないのですよ」


一度、記念イベントの際に70mm作品の上映をしてはどうか?という話しも持ち上がり、配給会社に問い合わせてみたところ、どこもフィルムが残されておらず、断念せざるを得なかったという。現在『大黒座』に残されている映写機をこまめにメンテナンスされているのが劇場に古くから勤めている70歳のベテラン映写技師。東芝の映写機を必要な部品をあちこちからカキ集めて来て映写機を作ってしまう技師の方が、最高の状態で映像をスクリーンに投影しているのだ。いつでも最高の状態に保たれている年期の入った映写機に70mmフィルムが掛かり大スクリーンに投影される日を願っているファンも少なくない。
地下にある2つのミニシアター『シネマモード1・2』では、地方都市ではあまり上映されない作品を独自にセレクトして送り続けている。「大都市でしか観る事が出来ない個性的な作品を番組担当者が自分の目で観て確信を持てた作品をチョイスして“自信をもっておすすめ”しています」と酒井支配人は胸を張る。“女性に優しい映画館”をコンセプトとしているだけに白を基調とした地下のロビーは洗練されたオシャレな演出が施されており、休憩スペースを仕切っている白のカーテンが、柔らかなムードを醸し出している。またイスに掛かっているカバーをには何やら文字が書かれている。良く見ると、その内容は全て映画ファンなら思わずニンマリとしてしまう映画の名セリフ。全てのカバーに違うセリフが書かれているので1つ1つチェックして映画のタイトルを当てるのも楽しい待ち時間の過ごし方だ。






また、昭和町にある別館『シネマモード・アネックス』は様々なイベントで貸切にできる多目的レンタルシアターとして会議、セミナー、発表会等といった用途で利用されている他、劇場独自の催しとして“インディーズ映画応援プロジェクト!”を推進。なかなか日の目を見る機会が少ない自主映画の上映から宣伝・受付等の劇場業務は全て劇場スタッフが行ってくれるのだから全国の自主映画を製作している方は是非、活用されてはいかがだろうか。更にコチラでは映画館を飛び出して映画館の無い街に出張上映を行ってくれている。どんな場所でも映写機持参で、上映会を行ってくれるので、近隣の街から毎週呼ばれて上映会を行っているという。作品も最新作から旧作まで、現存するものであれば全てのフィルムを扱っている。出来るだけ多くの人々に映画を観て楽しんでもらいたい…老舗の映画館が瀬戸内に映画の灯をともし続けているのだ。(取材:2008年9月)

【座席】『大黒座』361席/『ミラノ座』190席『シネマモード1』190席『シネマモード2』50席
【音響】『大黒座』SRD-EX・SRD・DTS『ミラノ座『シネマモード1『シネマモード2SRD

【住所】広島県福山市笠岡町3-9 ※2014年8月31日を持ちまして閉館いたしました。

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