長野駅から歩いて3分。飲食店が軒を連ねる繁華街・石堂町のど真ん中―車1台が通れるような狭い路地の曲がり角に昔ながらの重厚な佇まいで『千石劇場』が建っている。昭和25年12月16日のこけら落とし当日、記念すべき第一回目の上映作品“バグダッド”にあわせて日劇ダンシングチームによる“歌と踊りの豪華ショウ”が行われて華々しい幕開けとなった。劇場内に喫茶店も設けられ、当時としては、かなりモダンな作りとなっており、長野県内では初の鉄筋で建設された映画館としても話題になった。(当時の長野県内にあった80館近くの映画館は全て木造であったと記録されている)







「当時は流し込みといって、完全入替制ではないですから場内の扉が閉まらない程、久しぶりにお客さんが詰めかけた映画でした」と須賀氏は振り返る。しかし、現在は駅前における人の流れもガラリと変わってしまったと須賀氏は言う。特に郊外に大きなショッピングモールが出来たというわけでも無いのだが、どうやら街に人が出て来なくなっている現象が起きているようだ。「若い人の遊び方が変わってしまったのでしょうね…ここ数年で市内にあった大きな劇場が閉館してしまったのも、それが要因のひとつだと思います」と須賀氏は分析する。その中で昔と変わらない根強い人気を誇っているのは、やはり子供向けの映画らしい。「電車やバスを利用するしかない小中学生にとって街の映画館は重宝してくれているようです。ヒーロー物やアニメとかはお友達同士で連れ立って来場していますよ」
長野県が推進している親子向けの支援事業の一環に協力されているコチラでは、親子で来場されると2名2000円で観賞が可能だ。コチラのサービスで珍しいのはペア割引…といって夫婦50割引やカップル割引とは違い、ペアであれば何歳でも、男同士でも2名2000円という国内でも珍しい割引を設定している。「こうやって地道に施策を練って行かないと、私たちみたいな街の映画館は生き残って行けませんからね」と須賀氏は笑う。

設立時は1スクリーンの700席を有した『千石映画劇場』という館名の大劇場として、西部劇を中心としたハリウッド娯楽映画専門の上映館であった。昭和63年に同施設内に200席の『千石小劇場』をオープン(現在は閉館)、平成11年に『千石劇場』の2階席部分を分離して、合計3スクリーン体制として現在に至っている。内部のリニューアルを行っているものの、外観は設立当時のままの外観を有する『千石劇場』は、戦後の近代建築として歴史的にも貴重な建物と言えるだろう。「やはり、1館だけだと上映本数に限界があるため、3つのスクリーンでお客様のニーズにお応えしている…といった感じです」と語ってくれたのは副支配人の須賀諭氏。須賀氏は権堂町にある“シネマポイント”の運営も担当しており、日中は2つの劇場を常に往復されている。現在の上映作品としては邦画は東映系がメインとなっており「以前は権堂町の方に“長野東映”という東映の直営館があったのですが、平成18年に閉館してしまいウチで東映作品を引き継いで掛けるようになったわけです」子供たちの休みシーズンになると仮面ライダー等のヒーロー物で多いに賑わっている。劇場の長い歴史において最大のヒット作は…というと“未知との遭遇”“E.T.”といった1970年代後半から80年代にかけたスピルバーグ監督作品。当時は映画館の周りをグルリと大通りに至るまで長い行列も出来たという。






1階にある『シアター1』の場内はワンスロープながらも元々2階席があった劇場だけに天井が高く解放的で、おかげで傾斜も強いため前列の人の頭が邪魔になる煩わしさがない。2階にある『シアター2』と『シアター3』も小さいながらも天井が高く心地良い空間が実現されている。日本全国を見渡しても、昔と変わらない姿で営業を続けている老舗映画館が少なくなってしまった昨今、街の中心部でどっしりと踏ん張っている古い映画館『千石劇場』という財産を持っている長野市民を羨ましく思った。(2009年10月取材)

【座席】
『シアター1』200席/『シアター2』100席/『シアター3』40席
【音響】『シアター1』のみSRD

【住所】長野県長野市南石堂町1367
【電話】 026-226-7665


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