古くから岐阜の繁華街として賑わいを見せていた柳ヶ瀬には、数年前まで10館近くの映画館が軒を連ねる映画街があった。近年、郊外に出来た大型商業施設の台頭で年々柳ヶ瀬商店街から客足が遠のき、さらに岐阜県はひとつの商圏にシネコンが集中するシネコン激戦区となっているため、それまで活況を見せていた映画館も閉館を余儀なくされて今では岐阜土地興業株式会社が経営する2館を残すのみとなってしまった。その内の1館『CINEX』は4スクリーンと地下に多目的ホールを有し、街の中にある映画館として幅広い年代のお客様から親しまれている。「シネコンと同じ番組をやっても仕方ないので、シネコンに行くことが出来ない年輩のお客様に向けた番組編成を2年ほど前から始めました。」と語る支配人の松川勝由紀氏。4スクリーンの強みを活かしてロードショー作品をメインとしつつ、小劇場では岐阜公開の機会が少ない単館アート系の作品を積極的に紹介している。隣接する高島屋でショッピングをされた女性グループが映画と食事をセットで柳ヶ瀬に訪れるという姿がよく見られるようになった。
|
平成7年のリニューアル時には、7階にある『CINEX1』は女性を意識してホテルの持つ気品をイメージしたデザインコンセプトで設計、エレベーターが開くと明るいロビーが目の前に広がり、受付はまるでコンシェルジュのような佇まいを見せる。壁面から天井にかけてアール状に融合されており、既成の劇場デザインには無い、こだわった設計が随所に見られる。5階にある『CINEX2〜4』は近代モダン調のメタリックなイメージを基調としており、ユニークなのは場内へ入る扉がガラス張りとなっているところ。それではロビーの明かりが場内に入るのでは?と思っていると実は、ガラスは二重構造となっており、予告編の上映が始まると遮光スクリーンが降りてくる仕組みだ。映画館の場内を扉で仕切ることで閉鎖された雰囲気になってしまうところを上映していない時はロビーから場内が扉越しに見えて空間の奥行きを感じさせるデザインとなっているのがユニークだ。また、見上げると天井には左右の壁面から場内の色調に合わせたスポットライトが照らされているなど様々なところに立体的な空間演出が施されている。 |
『CINEX』の前身は昭和31年6月にオープンした3階建て構造の大劇場“岐阜東宝”と地下にあった“岐阜松竹地下劇場”。常に邦画から洋画まで話題作を提供し続け“フォレストガンプ”や“アルマゲドン”といった超大作から岐阜を舞台とした日本映画の名作“郡上一揆”等が歴代のヒット作として名を連ねている。それだけに、映画を観るならばココ!という昔ながらの根強いファンが多いのもコチラの特長だ。 |
最近では柳ヶ瀬商店街のお店の方から映画のチラシを置かせて欲しいと話を持ちかけられる事も増えてきて街全体で協力しながら活性化を図ろうという動きが見え始めているという。「会社としては昔から映画館経営を母体として、柳ヶ瀬に根付いてやってきたワケですからやはり一番に考えるのは柳ヶ瀬に訪れるお客様に好まれる作品選定やサービスですね」という松川氏。最近では高倉健主演の“あなたへ”が、初日と翌日の動員数が多く、“ロイヤル劇場”でも同様に健さん人気は変わらないようだ。「映画館にお越しになるお客様は、わざわざ時間を取ってお金を払って観に来られるのですから、でもその価値は絶対あるはずなんです。」映画館にたくさん人が訪れる事で街にも活気を取り戻したい…という映画と柳ヶ瀬を愛する思い。何があっても映画館を続けるという方針で一丸となって頑張っている『CINEX』。ビジネスとしてではなく文化として映画を愛している企業がある限り岐阜から映画の灯は消えることは無いだろう。(2012年9月取材) |