平成23年9月30日、長崎県佐世保市にあった老舗映画館が閉館した。大正時代に設立した芝居小屋“弥生座”を前身とする東宝の封切館『佐世保エクラン東宝』だ。戦後間もなく邦画が盛況を見せ始めた昭和29年に株式会社エクランを設立、市内で最も古くから続く劇場として市民から慕われていた。現在の5階建てのエクランビルになったのは平成2年。アメリカ海軍や海上自衛隊などの施設があるため基地関係者も多かったのが特長だ。 |
佐世保市は長崎県北部に位置する県内2番目の人口を有する中心都市であり、かつては旧海軍の軍港が置かれた港町として栄えた。現在も造船業や国防の町として知られ、活気を見せていた佐世保市内だが、年々ドーナツ化現象が続き高齢者が多くなってきた。佐世保市内には、“東宝中央”、“東宝プラザ”、“東宝ピカデリー”という直営館があったが若者の映画離れによって次々と閉館された。アーケード街も平日は人通りも少なく、若者は郊外にある大型商業施設に流れているという。今回、『佐世保エクラン東宝』の閉館理由は、まさに客の減少による経営不振が大きく響いたものだ。最近では1日の入場者数が10人から20人前後の時が続き、突然の閉館に至ったという。休みの日になると気軽に家族揃って立ち寄れる場所として古くから東宝作品を観るならココ!という往年のファンは別れを惜しむ暇もなく突然飛び込んできたニュースに驚きを隠せなかったようだ。 |
佐世保駅から徒歩10分ほど…アーケード商店街を抜けてブラブラ出来る程良い立地だからだろうか、車を使わない世代に重宝されており、子供たちの休みシーズンとなると買い物途中のお母さんが子供を連れ立って“ドラえもん”や“ポケモン”などアニメ映画に訪れていた。また、“ルーキーズ”といった中高生向けのデートムービーもヒットしていたのが記憶に新しい。やはり海に従事する方が多いからだろうか、ヒット作には“海猿 Limite of Love”や“太平洋の奇跡”が挙げられる。階段を上がってエントランスをくぐるとチケットカウンターと売店だけの簡素なロビーが広がる。割引サービスが提示されているプレートを注意深く読んでみると「WELCOME U.S. NAVY with I.D card ¥1,000」という佐世保という土地ならではのサービスが。また、スタンプでいっぱいになったカードを提示してチケットと引き換える常連さんも多かった。
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派手な飾りつけは無い館名とポスターだけの外観は、いかにも町の映画館という佇まいを見せている。売店を挟んで左右にある二つの劇場は、こじんまりとしながらも設計段階から映画館が入るのを想定しているため、ゆったりとした居心地が良い空間となっている。座席数が多い『スクリーン1』は緩やかなワンスロープの縦に長い設計となっており、前方のブロックはセンターに通路が設けられ、後方はスタジアム形式を採用している。設計段階から映画館が入る前提で作られているため客席数の割には広い印象がある映画館だった。場内で子供たちが黄色い歓声を上げて映画が始まるのを待ちわびている…そんな光景は、もう見ることが出来なくなった。(2011年9月取材)
【座席】 『スクリーン1』128席/『スクリーン2』78席 |
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