阪急塚口駅前のロータリーを囲むように建ち並ぶ商業施設サンサンタウン。その一角に4つのスクリーンを有する街の映画館『塚口サンサン劇場』がある。昭和28年12月に"塚口劇場"という館名でオープンしてから今年でちょうど60周年。一時期、"塚口東映"という館名で東映の封切館となり現在の館名となったのはサンサンタウンがオープンした昭和53年7月7日。それまで3スクリーンだったのを4スクリーンにして再スタートを切る。昔と変わらないのは、エプロン姿で気軽に来れる地元の映画館である事。常連のお客様が多く、中には親子三世代に渡って来てくれている家族もいるという。「お客様から気さくに"こうした方がイイよ"とアドバイスいただけるので、若いスタッフから色々なアイデアが生まれて来たりして…そういった意味でお客様と一緒に作っている劇場なんですよ」と、語ってくれたのは映画営業部の戸村文彦氏。「お客様とのコミュニケーションの中で、皆さんが求めているものを私たちは形にしています。やれることをコツコツと。最終的に劇場の評価はお客様がされる事ですから。それだけに、お客様から喜びの声をいただけると、伝わったんだな…と、嬉しいですね」と笑顔で語られていた。そんな地元密着型の映画館でありたいという『塚口サンサン劇場』ならではのサービスがある。 |
例えば、自転車で来られたお客様には駐輪場のサービス券を渡している。お車で来られたお客様に駐車場割引はよく聞くが自転車というのは珍しい。「尼崎は坂道が無いフラットな土地なので、年輩の方でも20〜30分かけて自転車で来られたりするのです。ですから、最初の計画時からこのサービスは考えていました」更にコチラは日本いちトイレが綺麗な映画館というのも自慢のひとつ。「映画館というのは人が作るものだと思うんです。トイレが綺麗だと使う人も気持ちいいですよね?そこにお花があったら心が穏やかになると思います。なるべく映画を観る時は映画に集中してもらいたい。だから、環境作りは大事にしているのです。マニュアル通りではない人の血が通ったサービスですね」コチラでは現場にいるアルバイトが気づいた事でも良ければ積極的に取り入れている。「なるべくお客様に一番近いスタッフの意見を取り入れて、お客様には少しでも映画に集中していただける環境作りをして、作品を含め映画館全体を楽しんでもらえたら…と思っています」上映作品としては松竹洋画系と東宝邦画系のメジャー作品を中心に、2年ほど前からミニシアター系や過去の名作上映も始めている。これもお客様からの声を反映させたもの。いつも来場される年輩のお客様から“色々な映画を観たいけど、大阪や三宮にまで出かけるのはシンドイ”という声が以前から聞かれていたので思い切って上映に踏み切ったという。
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「年輩のお客様から"こういう映画もあるんだ"とか、若いお客様からは"昔の映画を観て新鮮に感じた"というお言葉をいただいています。これで映画を好きになってもらうキッカケになってもらえたら…と、これからも続けて行こうと思っています」作品の選定に関しては戸村氏が中心となってスタッフ全員の意見を聞きながら決定しているという。選ぶ基準はミニシアター系と言えども分かりやすい作品。いきなりマニアックな作品に行くのではなく、まずはお客様に映画の視野を広げてもらうのを目的としている。「お客様がライトユーザーの方が中心なので、誰でも知っている俳優や監督の名前が一人でも入っているのを基準として、今の時代にあった作品選びを心掛けています」果たしてミニシアター系の作品が受け入れられるのか?ちょうど試行錯誤している時に、一度振り切ったものをやってみよう…と、行った"電人ザボーガー"のフィルム上映がひとつの転機となった。お客様の反応を見るつもりだったがフタを開ければ、東京や九州といった遠方から多くの観客が押し寄せ、その光景を見て戸村氏は映画の力を確信したという。「まだ当時はデジタルを導入していなかったのですが、大都市圏はデジタルでの上映ばかりだったんですね。35mmで"電人ザボーガー"を観るというのが貴重だったらしいのです。それまで映画を新幹線に乗って観に来るなんて想像もしなかったので、映画の力は凄いと、実感しました」 |
デジタルを導入した現在も35mmの映写機は撤去せずに、フィルム上映も並行して続けている。ちょうど今年は開設60年記念という事で映画館の歴史を振り返る企画として、春夏には日本映画史に残る監督の作品、秋から年末には10人のスターをピックアップして主演作を二本ずつ上映。戸村氏はこうした特集上映に止まらず、最新作と過去の名作を組み合わせて映画の興味を喚起させたいと意欲を燃やす。「新作に関連した過去の作品を紹介する事で、いま観た映画を掘り下げてもらえたら、映画がもっと楽しくなるのではないかと思うのです」デジタルと35mmの両輪で良い作品を幅広く提供していきたいと語る。今年の夏に公開されたアニメは正に象徴的なラインナップだった。スタジオジブリの原点とも言える高畑勲監督の"パンダコパンダ"、ディズニーの最新CGアニメ"モンスターズユニバーシティ"、そして次世代のアニメーター新海誠監督の"言の葉の庭"という作品が一堂に介したのだ。 |
「映画は芸術であると同時に娯楽ですから、色々な映画を気軽に観てもらいたい」という戸村氏。そのための施策として、劇場入口の階段にスタッフたちが自前で作ったポスターを掲示している。こうした地道な活動がお客様にも浸透し始め、映画館への来場者層として弱いとされている40代の方も多く来館されているという。「ありがたいことに、長年来ていただいているご家族も多いです。これがコンセプトを変えずに続けて来た成果ですよね」幼稚園や保育園が多い尼崎には、共働きの若いご夫婦も多く、子育ての合間に何の気兼ねもなく映画観賞できる毎週木曜に開催されるお母さんのためのママズシアターは人気のプログラムだ。「映画の最後は、映画館ですからね。私たちが一番、観てくれる方と近い距離にいて、身近に皆さんの声を聞くことになるのです。映画は作れないけれど、映画を贈り届ける立場としては、その声を大事にしたいと思います」そうなのだ、映画館はただ映画を上映するだけの場所ではないのだ…と戸村氏の言葉に映画館の持つ可能性を感じる事が出来た。(2013年8月取材) |
【座席】 『スクリーン1』47席/『スクリーン2』117席/『スクリーン3』165席/『スクリーン4』155席 【音響】 SRD 【住所】兵庫県尼崎市南塚口町2-1-1-103さんさんタウン1番館 【電話】06-6429-3581 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |