JR根岸線で都心から1時間足らず…昭和49年からベッドタウンとして発展してきた港南台。かつては8万人いたという駅利用者も6万人に減ったとは言え、休日になると駅前にある高島屋とそうてつローゼンをキーテナントとした商業施設"港南台バーズ"には近隣から多くの家族連れが訪れている。その一画に、今も街の映画館として地元の人々に愛され続けている『港南台シネサロン』がある。昭和62年9月14日にソニーのビデオシアターとしてオープン以来、ヘラルド・クラシックスと邦画を中心としたプログラムで、オープニング作品の"ローマの休日"と"二十四の瞳"には地元のファンが数多く来場された。 |
そんな矢先、平成17年に突然ソニーがビデオシアター事業からの撤退を発表、その年の10月1日にフィルム上映が出来る劇場として生まれ変わった。ところが10年も経たない内に、今度はフィルムからデジタルへと興行界は変化を強いられる事となった。「まさかフィルムがこんなに早くデジタルに切り替わるとは想像していなかった…というのが本音です。確かにデジタルに変える時、存続するか閉館するか…という議論が出ました」そもそも『港南台シネサロン』が誕生したのは、港南台バーズにどんな施設が欲しいか?という住民にアンケートを取ったところ一番多かった回答が映画館だったから。残そうという最終決断をしたのは、"映像文化を港南台から消してはいけない!"という経営者の判断からだ。かくして、街に映画館を…という地元の人々の思いによって誕生した『港南台シネサロン』は、デジタルを導入するという決断の下、平成25年2月23日に再始動した。 |
『港南台シネサロン』が、広く認知されたのはオープンして3年後に大ヒットした"ニュー・シネマ・パラダイス"から。「当時はミニシアターブームの絶頂期でしたから朝からお客様の長い列が出来ていました」と、創業時から関わる劇場スタッフは当時を振り返る。その後もセカンド上映ながら"タイタニック"など順調な動員数が続いていた。中でも最高の動員数を誇るのは、午前中で当日分の全席が完売したという"千と千尋の神隠し"だ。「それまでは上映設備がビデオという縛りがあったため、最初の頃は封切作品でビデオ上映出来るものが少なくて苦労しましたよ」その頃、東映が直営館でビデオシアターを持っていた事から積極的に作品のベータカム化を行っており、子供たちの休みシーズンには、"ドラゴンボール"や"東映まんが祭り"を封切で上映されていた。平成8年に東宝作品もビデオ上映が可能となり、"ドラえもん"やジブリ作品などファミリー向けのアニメが充実してきた。
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デジタルになったおかげで、以前には不可能だった一日に複数の作品を提供出来るようになったとスタッフは高く評価する。また上映作品の幅も増え、年齢層に合わせた変則的な組み方が出来るようになった。駅前という立地の良さから年輩のお客様をメインとして、休日には子供を連れたお母様の姿も多いだけに上映作品も多様化している。年輩のお客様からは身近な場所に映画館があるから嬉しい…と喜ばれており、近年では"顔のない鑑定士"や"最強の二人"といった良質な人間ドラマがヒットしているという。指定席が増えている昨今、ココは全席自由なので、その日の気分や混み具合で自分の観たい席をチョイス出来るのが嬉しい。2回目以降は整理券を配布しているため、先にチケットを購入して買い物をする方も多い。殆どのお客様が近隣に住んでおり、買い物に時間を合わせてフラリと一人で観に来られたり、お友達と待ち合わせしてグループで映画を観て、隣接する飲食店街で帰りに食事をして行く姿も見受けられる。ワンスロープ形式の100席程の場内はスクリーンが高めの位置に設定されているため、前列の人の頭が邪魔にならず、身体にフィットするキネット社のイスに深々と腰掛けると、居心地良さはプライベートシアターのよう…と評価も高い。増税後も各種割引料金は変えておらず、シニア料金も以前と同じ1,000円のまま…というのも出来るだけ多くの作品を観てもらいたい思いから。「どんなに良い映画でもお客様に観てもらわなければ、それで終わりですからね。お客様から問い合わせのあった作品のタイトルは全てメモを取るようにしています」 |
お客様が観たいという映画を拾い上げる努力をしつつ、観やすい環境を作っていくのが映画館の役割…最近上映した福島の立ち入り禁止区域を舞台とした"家路"も、いくつもの問い合わせがあったため公開を決めたという。「ウチのお客様は文化や芸術に関してアンテナを広く貼っているようです。やはり映画館は良い映画をお届けするのが仕事…"顔のない鑑定士"も配給のギャガさんからウチのお客様には合うのでは?と、薦められて公開しました」時間を忘れて映画にのめり込んで忘れられない一本を見つけてもらいたい…そのために気持ちの良い環境を作り続けて行くと、映画館にかける思いを述べる。「現場に立っていて嬉しいのは、お客様から良かったわよって声を掛けられる事ももちろんですが、帰りがけにポスターを見て、これ観たいからまた来るわ…と言ってシネコンに行かずに待ってくれる事ですね」映画を観るならば『港南台シネサロン』で、というお客様がいる限り、この街から映画の灯は消える事はないだろう。(2014年5月取材) |
【座席】 『PART1』103席/『PART2』103席 【音響】 SRD 【住所】神奈川県横浜市港南区港南台3-3-1港南台214ビル3F 【電話】045-831-3377 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |