瀬戸内の温暖な気候に恵まれフルーツ大国として有名な中国地方南東部に位置する政令指定都市の岡山市。県庁通り周辺には数多くのカフェやブティックが建ち並び、デートスポットとして多くの若者が訪れる。市電の郵便局前駅または県庁通り駅を降りて5分足らず…岡山市の中心部に位置する昭和の香り漂う商業ビルの5階…映画を観るならココ!という根強い地元ファンが多く訪れる映画館『ジョリー東宝』が昔と変わらない風格で数多くの話題作を送り続けている。 |
前身は岡山県を中心に数多くの映画館を運営してきた福武観光(株)の創業者・福武一二氏が昭和33年に設立した“岡山東宝”と”地下セントラル劇場”というふたつの映画館だ。次々と精力的に映画館を展開して空襲で焼け出され失意のどん底に喘いでいた岡山市民に夢と希望を与えて来た一二氏の意思を継いだ二代目社長となった御子息の一良氏が手掛けたのは、映画館経営という個人事業から近代経営に改善するという大仕事だった。そのひとつが岡山の中心街にレジャーとショッピング施設が入った福武総合ビルの建設である。東宝の封切館として日本映画の全盛期を支えてきた映画館を現在のビルに建て替えたのは山陽新幹線の開通を2年後に控えた昭和45年12月の事。創業時と同じく5階に“岡山東宝”と、地下1階に”地下セントラル劇場”ふたつの映画館を有し、夏になると屋上が名物のビアガーデンとなり、最上階にはスカイローズというファミリーレストラン、途中階には多目的ホール、ショッピング街、貸事務所が入った当時としては珍しい複合型商業ビルとして新しい街のシンボルとなった。 |
斜向かいにあるバスステーションとビル内にある商店街が接続された映画館は正にシネマコンプレックスのハシリと言える経営体系を確立させていた。日本映画最盛期の昭和30年代には岡山県下で143館あった劇場も昭和50年代には33館にまで減少。福山総合ビルが完成したのは正に映画産業に斜陽化の波が押し寄せていた時代だ。周辺の映画館は当時、爆発的に流行っていたボーリング場に軒並み転向しており、仲間内からどうしてボーリング場をやらないのだ?と勧められていたほど。ところが、後に三代目社長となる一彦氏が業界視察のため渡米していた先でボーリングは長く続くスポーツではないと判断。急遽日本に連絡してボーリング場経営だけは手を出さないよう説得したという。案の定、数年でブームは消え去り、ボーリング場に改装した映画館はそのまま消えてしまった。(これは岡山だけではなく、日本中の映画館で起こっていた)そんな中で、いち早く都市集中型の事業に切り替えて交通網の発達(新幹線、そして瀬戸大橋の開通)に伴う時代の変化を見据えて発展し続けてきた。 現在の『ジョリー東宝』という館名にしたのは駅前にある同系列の映画館『岡山メルパ』でも東宝作品をやるようになったため。館名に東宝という名前がついているが、現在は邦画・洋画を問わず東宝以外の作品も上映している。平成になって間もなく“地下セントラル劇場”を閉館して、今では岡山市内に単独の既存館は『ジョリー東宝』を含め3館を残すのみとなってしまったが「映画を観るならウチで…って言ってくれる方がいる限り頑張って存続していきます」と支配人は語る。エレベーターで5階に上がると、まず目に飛び込んでくるのが赤と白の市松模様のカーペット。売店とチケット売場が一緒の小さな受付でチケットを購入(1階にもチケット売場があるが繁忙期以外は5階に集約されている)してロビーに進む。派手な装飾やモニターで予告編を流すといった演出は無く、それだけに自動販売機コーナーの天井からぶら下がっているPOPな電飾看板がひときわ目立つ。 |
扉を囲むアーチをくぐって場内に入ると、天井の高い縦長の大空間が広がる。前方は緩やかなワンスロープで、スクリーンが大きいため、あえて前の方を好まれる方も多いという。驚くのは後ろを振り向いて2階席に当たる後方の客席を見た時だ。スタジアム形式の後方席を改装してソファーとテーブルが設置された大小8つのボックス席があるのだ。プレミアリビングシートと名付けられた特別席は、元あった座席を全て取り払ってカーペット敷きに改装。利用者は備え付けのスリッパに履き替えて(勿論、土足厳禁だ)ソファで横になっても、床に寝っ転がっても良し…観賞のスタイルは限りなく自由だ。2名用のカップルシートからグループで楽しめる幅の広いソファーまで用意されているのでテーブルにお菓子をいっぱい広げて自宅のリビング感覚で映画観賞が出来る。(いくらリビング感覚だからと言ってもおしゃべりは注意!)通常料金にカップル席はプラス600円、3〜5名グループ席はプラス1200円だけで利用出来るので、とっておきの日に是非、利用してはいかがだろうか。(2014年8月取材) |
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