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「立見を入れると『テアトル福井』なら1000人は入れる事が出来たのですから。片方はギュウギュウで、片方は席が余っている…そんな時代でしたね」ちょうど、既存館からシネコンに変わる過渡期に入社したという酒井氏は、自分が既存館の時代を知っている最後の世代かも知れない…と語る。やがて上映作品にも変化が現れ『シネマプラザ』は日劇プラザ系、『テアトル福井』は日劇系、『福井松竹座』では松竹邦画系と公開からしばらく経ったSY系や松竹富士の洋画を二部興行として掛けるようになった。「市内の映画館も減っていましたから、上映されずにスキップされる作品が結構あったんですよね。圧倒的に洋画が強い時代でしたから、洋画を掛ければある程度の数字が取れたんです」 |
そして、平成10年から改装工事に着手した翌年の平成11年12月に『テアトルサンク』として全館リニューアルオープンを果たす。上映作品も劇場の縛りは無くなり、完全なフリーブッキングとなった。その2年後に最高の動員数を記録する年がやってくる。「平成13年の夏に公開した“千と千尋の神隠し”です。この夏は凄くて、“パールハーバー”と“ジュラシックパーク3”そして、“A.I.”と“猿の惑星”の5作品が一斉に公開されたものですから、チケット窓口を全て開けても行列が途切れませんでした」と当時を振り返る。そして、今年の夏の最後に公開された“君の名は。”も予想外のヒットを記録。「前売りの売れ行きが良かったので、もしかすると…と期待込みで、スクリーン1でやる事にしたのですが、600席が何度も満席ですからね…さすがにあそこまで入るとは思わなかった」酒井氏はひと昔前だったら考えられない興行と語る。「細田守監督の“時をかける少女”があって“サマーウォーズ”で跳ねた前例があったので、そういう感覚なんだろうな…と思っていたんです。でも、このヒットの仕方は今までにはなかった…まさにSNSの現代ならではの現象だと思います」 「作品の力を100%引き出すのは普通。私たちがやらなきゃいけないのは150%とか200%とか引き出す事だと思うんです。お客様の満足と映画会社の満足…それが両方とも実現出来るのが映画館として嬉しい事です」と語る酒井氏は、地元のマスコミ各社と連携して盤石の協力体制を作り上げている。例えば、以前ある映画のキャンペーンで来福された監督に対する取材体制がそうだった。「たくさんのマスコミに取材してもらいたいから、移動時間を掛けないやり方として、テレビ局の部屋を借りてラジオや雑誌の取材もそこで全部やっちゃう…ということを福井のマスコミはしてくれるんです。移動時間が無くなるから1社でも多くの取材が出来るわけです。映画がヒットして欲しいのは監督も私たちも同じですから。それが、県外の代理店の方は考えられないそうです。その恩返しに少しでも動員数を増やして宣伝費を落としてもらえるように頑張んなきゃいけない…それが今の私の仕事ということですね」 |
『テアトルサンク』の魅力は何と言ってもスクリーンのサイズ。建物の3階分くらいに匹敵するスクリーン1のサイズは、実に左右16メートル縦6.8メートルもあるのだ。(一番小さなスクリーン2・3ですら左右10メートルある)「リニューアル時に、あんなデカいのはいらないんじゃないか?という意見も確かに出ました。2分割してスクリーン数を増やした方が良いんじゃないか…って。だけど、残して良かったです。やっぱり初めて来た人はビックリしますよ。“シン・ゴジラ”をこの大スクリーンで観たいから…とわざわざ他県から来られた方も多かったですからね」普段からスクリーン1の問い合わせが多い事からもファンは大スクリーンが好きなのだと分かる。また音響設備は常に最新の機器を導入しているのもウリのひとつだ。「ウチのオーナーは、設備にお金を掛ける事に理解を示してくれるので、現場の人間が、ココが古くなって来た…と言うと、じゃあ入れ替えようかと(笑)だから、常にある程度のレベルは保ってると思いますよ」 各館のロビーには独自の世界観があり、観終わった後もしばらく映画の世界に浸っていられる。「スタッフは地元の者が多いんですけど、一生懸命ロビーの飾りを考えてくれています。都会の映画館と比べると泥臭いかも知れませんが、その手作り感がウチの売りでもあるんです」また、映画を観て隣の西武百貨店で一定の金額を買い物をすれば6時間の駐車料金が無料になる。更にありがたいのは映画の本数が増えれば4時間が加算されるということ。映画の日には、朝車を入れて最大で12時間…ゆっくり映画のハシゴをされる方もいる。最終的にお客様から、面白かった、良かった…と、声を掛けていただけるのが何よりも嬉しいと顔を綻ばせる酒井氏。だからこそ効率だけを重視するような映画館にはしたくないと言う。「欲を言えば、全然入らなくなった映画だけど、1日1回掛けられる小さなスクリーンがあったら良いなと思います。理想と現実を見るとそれが経営的には正しいのか分かりませんが、最終的にはお客様が満足して帰ってもらえる映画館が良いですね。勿論、作品の魅力を最大限に引き出せるような環境を作って行きたいと思います」(2016年8月取材) |