青森駅から南東に向かって車で15分ほど…少し内陸に入ったあたりに、複合商業施設サンロード青森がある。近隣には大きな公園やスポーツ施設があったり、小・中・高校と学校が集中していたり…と住み易い街である事が分かる。施設と駅を結ぶバスも頻繁に往来しており、ここが住民にとって生活の拠点となっているようだ。施設の北口にあるゲームセンターから地下に降りると、市民にとって憩いの場である3スクリーンを有する映画館『青森松竹アムゼ1・2・3』がある。オープンしたのは平成9年3月。当初は映画館ではなく地下全体が、全天候型の屋内遊園地だった(アムゼという名前はそこから来ている)。現在の『1号館』がある場所には、映像に合わせて椅子が動いたり振動する体感型のアトラクションがあったり、中央には屋内型のゴーカートや天井には空中遊泳出来る飛行船が設置されていた。最初の頃は来場者の反応も良かったが、年とともに客足も減少。経営も芳しくない状況が続いた。そこで、ここを映画館にしてはどうか?という案が浮上。サンロードから相談を受けたのが当時、市内の映画街だった古川にあった青森松竹会館というビルで、“青森松竹1・2”という映画館を運営していた(有)シネマセンターだった。 |
「最初の年が好調だった事もあって、じゃあこのまま地下を全て映画館にしてしまおう!と、翌年7月には機能していなかったゴーカート乗り場を『2号館』『3号館』に改装しました」合わせて休憩所や売店も新設され映画館の様相を呈して来る。「ロビーがとにかく広いので休みのシーズンになると子供たちが走り回っていますよ。ただ…拡張した2館の場内は映画館仕様で作っていないので、天井が低いのが難点ですね」とは言うものの場内は地下にある割には適度な高さは確保されており、こうした適度な狭さに、こっちの方が落ち着いて観易いという人もいる程。ちなみに館名に松竹と入っているが、特に松竹の封切館だったわけではなく、青森松竹会館のビル名から取った“青森松竹”の姉妹館という事で『青森松竹アムゼ』となった。 |
「椅子が振動するアトラクションが、比較的、映画館に近い形状だったので最初に改装しました」と語るのは支配人の金澤晋治氏。元々が遊園地として設計されていたから、広々開放的なロビーの天井が贅沢なくらいに高いのが特長的だ。「真っ平らの空間に作ったものですから、全然、作りが映画館っぽくないんですよね(笑)」おかげで1階のゲームセンターと上下がつながった吹き抜けとなっており、その不思議な作りが実に楽しい。1年目は、『1号館』入口前に受付を置いただけで、お菓子売り場も小ぢんまり…ロビーが無い簡素なものだった。ところが、初年度から大ヒットを記録する異様な熱気に包まれた事態が発生する。“もののけ姫”と“タイタニック”が公開されたのだ。まだ県内にシネコンが無かった当時の混雑ぶりは予想に足る。 |
この“青森松竹”は、弘前で映画館だけではなく、酒屋や不動産業も営んでいた明治屋という会社が青森に進出した昭和30年代に端を発する。しばらくは順調に進んでいたものの映画が斜陽化すると明治屋は設備はそのままに興行から撤退。そして(有)シネマセンターが経営を引き継いで、更に『青森松竹アムゼ』がオープンすると5館を有する市内でも大きな興行会社となった。「当時はまだフィルムの時代でしたから、ココで終わった映画を翌日には“青森松竹”で掛ける…なんてよくありました。その時は、金曜の夜に上映が終わってから、全部つながっているフィルムを移動用のリールに2〜3巻くらいにまとめて車で運んでいました。向こうで再びつなげ合わせるので、作業が終わるのは夜中の2時にやっと…かなりハードでしたよ」勿論、『青森松竹アムゼ』内でも人気作ともなるとメインの『1号館』と時間差で『3号館』で掛ける事も多かった。「ただ、『1号館』だけ映写室が離れていたのでリールの真ん中に鉄の棒を通してスタッフが二人掛かりでロビーを横断していたので大変でした(笑)」やがて、近隣に出来たシネコンの影響と、自社で新たにシネコン“シネマヴィレッジ8”を津軽市にオープンするのを契機に、平成15年1月26日に“青森松竹”は閉館となる。 現在のお客様はシニア層とファミリー層がメイン。その中でも昔からご贔屓にしてくれる常連のお客様も少なくない。「消費税が上がってもシニア料金は以前のまま1000円に設定しているので、皆さん、ありがたいと喜ばれています。シニア層の皆さんは映画館慣れされた方ばかり。作品が替わる度にいらしていただけるので、スタッフとも顔見知りになって、“毎度様”…みたいな感じの方が多いですね」駅から離れた場所にあるとはいえ、バスの便がとても良いので車を使われないご年配の方には来易いのだろう。周囲に学校が多い事から中高生向けのアニメも人気が高く、この時ばかりは普段の客層とガラリと変わる。「ウチはショップが広いので、アニメとかアイドル作品のようにグッズが多くてもズラっと並べる事が出来るので、他の劇場で売り切れていたので…ってそれだけを買いに来られる方もいらっしゃいますよ」冬になって雪が降り積もると客足が遠のいてしまうのも“雪国映画館あるある”だ。「たまに秋口で雪が降っちゃうと、その日はピタッとお客様は止まっちゃいますね。雨の日とは比べ物にならないです。バスも定刻通りには来ないので、映画の時間に間に合わないからと諦めて帰ったりとか。でも子供は別ですよ。親は面倒くさいでしょうけど、子供たちは雪降っても観たいものは観ますからね(笑)」 |
間もなく30周年を迎える『青森松竹アムゼ』。金澤氏はこのように振り返った。「ヒットというわけでは無いのですが、自分たちで達成感があった作品があるんです。それは、横浜聡子監督の“ウルトラ・ミラクル・ラブストーリー”でした。舞台が青森なので県内で撮影しているのですが、横浜監督も青森出身で…そんな事もあって松山ケンイチさんも舞台挨拶をして下さったんです。前日からお客様が徹夜で列を作って…でもファンの女の子だけじゃなく、本当に映画好きっていう方が多かったのも印象的な作品でした」お客様は青森を舞台とした御当地映画を応援しようという気心の方が多いのか、“奇跡のリンゴ”や、カーリング映画の“素敵な夜、ボクにください”といった作品も好評だったという。「青森を舞台にしてくれた映画に関しては、私たちも思い入れがあるし、地元を盛り上げて行こう!…という思いが観客の皆さんにも伝わって来るので、単純にヒットとか動員数といった数字には表せない雰囲気があるんです」3スクリーンしかないため本数が限られてしまい、作品選びが悩みどころと金澤氏は言う。「どうしても確実に数字が取れるアニメがメインになってしまいますが、隙間をぬって単館系を入れるようにしています。そういう苦労も、これ面白かったよって、帰り際にお客様から言われると、やってて良かったと報われる思いがします」(2016年11月取材) 【座席】 『1号館』162席/『2号館』106席/『3号館』73席 【住所】青森県青森市緑3-9-2サンロード青森アムゼ内 |
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