施設正面の外壁に大きく掲げられたブルーの看板を目印に3階に上がる。受付でチケットを購入して進むと、明るく開放的な吹き抜けのロビーを中心に、3つのスクリーンが配置されている。ポップコーンマシーンには常に出来立てのポップコーンが…。最近、キャラメルポップコーンも仲間入りして、これが予想以上にお客様から好評を得ているそうだ。小腹が空いたらホットドッグとフライドポテト、ガラスのケースに陳列されているポテトチップスやポッキーなど見慣れたお菓子も何故か映画館で購入するといつもより美味しく感じる。市内にはここだけ…の映画館には、平日はシニア層、夏休みや春休みには家族連れが目立つ。シネコンよりも気軽に立ち寄れる雰囲気があるからだろうか、顔なじみの常連さんも多いという。「ありがたいことに、今では常連さんが、待ち時間とかスタッフに話しかけてくださるんです」と語ってくれたのは、劇場スタッフの山本直紀氏。

鳥取県中部に位置する白壁土蔵の街として知られる倉吉市。伯耆大山と東伯山地に囲まれた風光明媚な山間の街には、歴史ある観光スポットとして、多くの人々が訪れる。鳥取駅から山陰本線の鈍行列車に揺られ、右手に紺碧の日本海と左手に美しい山陰の山々を眺めながら1時間ほどで倉吉駅に降り立つ。有名な観光地の割には静まり返っている駅前だが、街の中心部はむしろ駅から離れた場所にある。駅前から南へ真っすぐ延びるメイン通りを15分ほど歩くと、市民の生活拠点であるショッピングセンター“パープルタウン”が見えてくる。人形峠が開通して山陰と山陽の往来がより便利になった昭和56年に開業したこちらの施設内に、地元住民に愛される街の映画館『倉吉パープルタウン シネマエポック』がある。パープルタウンの大規模リニューアルが行われた平成8年に3スクリーンの映画館としてオープン。昨年で20周年を迎えたばかりだ。


上映作品は家族向けのアニメと、シニア層を意識した時代劇や“家族はつらいよ”のようなホームドラマが多い。「ご年輩のお客様は、ご自身の年齢に近い登場人物の作品を好まれるようです。また、常連さんは洋画好きの方が多く、ウチは洋画が結構強いんです。逆に最近は若い方が洋画を観なくなりましたね」そんな状況の中で、昨年、公開した“君の名は。”には、年齢層は関係無く幅広い年代の方が訪れたという。更に遡ること1年前…土屋太鳳と山崎賢人主演の“orange オレンジ”の公開時には、滅多に映画館に来ない年代の中高生が大勢押し寄せた。「今までも少女漫画を実写化した作品というのはやっていたのですが、この映画のヒットはさすがに予想出来ませんでした。普段は映画館で映画を観ない年代のお客様がこんなに来るのは今まで無かったので、すごく印象に残った作品でした」

作品を選ぶ時は支配人と相談して決めているという山本氏。この作品はイイのではないか…と自信を持って選んでも、予想に反して全然入らなかったり、“orange オレンジ”のように、ビックリするくらいに入る時もある。「…ということで、どんな作品がウケるのか本当に分からないですね。だったら、これは?と思った作品があったら果敢に挑戦してみるもの良いかなと。もし、それで特にマイナスになる事が無いのであれば、やれることはやってみよう…って思うようになったのです」この発想は、コンセッションで販売する商品にまで波及して、ここ数年で商品の見直しも積極的に行っているという。「設立当時から、これが一番良いであろうと思っていたやり方をずっと続けてきました。例えば、機械が1台しかないので、ずっとポップコーンは塩味しか置いてなかったのですが、だったらキャラメルポップコーンは既に作ってあるものを販売してはどうか?って実際に並べてみたら私たちの予想より遥かに多く売れたのです。今は、無理だと諦めていた事でも、少しずつやり方を変えて色々チャレンジしている真っ最中です」


映画館に配属されたばかりの頃は右も左も分からなかったという山本氏。「気づかないところや至らないところがあっても、お客様から優しく指摘していただけて助けられました。本当に倉吉の人たちって暖かい方が多いんですよ」そして、映画館の仕事に就いて一年目…ようやく仕事に慣れて来た時に、あの社会現象となった“妖怪ウォッチ”が公開。その時の事を山本氏は今でも鮮明に覚えているという。「あの時は、本当にすごかったです。周りの人から“妖怪ウォッチ”すごいよと言われていたのですが、私は全然それがピンと来なくて(笑)それが朝から全ての回が満席ですからね。映画がヒットすると、お客様はこんなに来るものなんだって…。昔からいる人は、満席になったのは、“千と千尋の神隠し”以来、何年ぶり…と言ってましたから。あの時は本当に良い経験をさせてもらったと思います。だから今でも満席の場内を見るとくるものがありますね」

実は山本氏、人生で初めて映画館で映画を観たのは正に『倉吉パープルタウン シネマエポック』だった。「小学一年生の時に親に連れて来てもらったのが、“ポケットモンスター”の第1作目だったんです。ポケモンがすごく好きだったので…初めて映画化と初めての映画館というのもあって、すごく興奮したのを覚えています。映画が始まる前にトイレを済ませておきなさいよと言われていたのに、興奮し過ぎて映画が始まってからすぐにトイレに行きたくなって親から怒られました。(笑)映画館の大きな音に、もう心臓がバクバクしてきちゃって…そういう思い出も引っ括めて映画の記憶なんですよね。そういう記憶が未だに残っているのは、映画館で観たからこそなんだなって思います。それからは、その時の感動や興奮を味わいたくて映画館に通っているんです」(2017年7月取材


【座席】 『スクリーン1』108席/『スクリーン2』108席/『スクリーン3』146席 【音響】SRD

【住所】鳥取県倉吉市山根557-1パープルタウン3F 【電話】0858-48-9050

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