多くの乗降客が行き交う東北最大のターミナル駅…仙台。駅前から官庁街に掛けて、休日は観光客やショッピングを楽しむ人々で賑わい、平日の夕方は学生や仕事帰りのOLとサラリーマンで駅前は活況を呈する。観光客が多い西口に比べて、バスターミナルの機能を有する駅東口は地元の人たちが多い。そんな駅前にあるBiVi仙台駅東口店2階に、3つのスクリーンを有する映画館『チネ・ラヴィータ』がある。元々は、仙台のミニシアターとして強い集客力を誇っていた2スクリーンを有する“シネアート”が、映画館事業から撤退するとなり、そのまま運営を引き継いだのが始まりだ。 |
「“シネアート”さんは、私が子供の頃から通っていた劇場で、ここで色々なアート系作品を観てきました。今度は映画館の支配人として仙台に戻って来てからは良い意味でのライバル…最後の支配人さんには、すごく面倒を見てもらったので、出来れば無くなって欲しくないと思っていたんです」と語ってくれたのは、駅の反対側にあるフォーラムネットワークが運営するミニシアター『フォーラム仙台』の支配人を兼務する橋村小由美さんだ。場内の椅子を全て入れ替え、改装をや修繕を行い、館名も新たに『チネ・ラヴィータ』として、リニューアルオープンしたのが2004年のことだ。 |
エスカレーターで2階にあがるとすぐ目の前が『チネ・ラヴィータ』のエントランスだ。木の風合いが落ち着く受付で、チケットを購入してロビーの奥へ進む。適度に死角となっている休憩スペースで、上映までの待ち時間を誰に遠慮する事なくゆっくりと過ごす。本来が映画館として作られたわけでは無いので天井の高さが低いのだが、そのハンデをここでは見事にアイデアで解決している。まず場内に入ると最前列の座席に驚かされる。まるで座椅子のような低い座面は本来のシートの脚を短く切っているのだ。ちょっと足を投げ出すような感じで腰掛けられるので、敢えてこの席を好まれる常連も多い。「私自身も最前列が大好きなので、この席はお勧めです。せっかく映画館で観るなら大画面を満喫して欲しいですから」 |
館名は変わっても今までの常連客も変わらず、順調に運営していたのだが…「突然、ビルの老朽化に伴う建て替えで、半年後には出て行かざるを得なくなったんです」映画館が出来そうな物件をアチコチ探しまわるも、そうそう簡単に特殊な条件にあてはまるスペースは見つかるはずもなく、3ヵ月が過ぎて諦めようとしていた時に、駅前のビルでゲームセンターを縮小するため、フロアの一角に空きスペースが出来るという話しが入って来た。「規模的にも理想的でしたし、すぐに決まりました」そして、新生『チネ・ラヴィータ』は、2009年8月8日にオープンした。「以前のビルでは、2フロアに分かれていたため移動が不便だった事と、意外と2スクリーンって手がかかる割には効率的ではないので、結果としては良い方向に転びましたね」 |
平日の夕方になるとチラホラ学生の姿が目立ってくる。駅前という事もあってか比較的年齢層は若い。『フォーラム仙台』で、“人生フルーツ”を上映していた時は圧倒的に年輩層が多かったのに、途中からコチラに移してから若者が観に来るようになった。同じ映画でも劇場を替えるだけで、こんなにも客層が変わるものか…と橋村さん自身驚かれたそうだ。ここのユニークな点は、“ワンダーウーマン”の隣で、“歓びのトスカーナ”をやっているところだ。だから、訪れるお客様も千差万別、年齢も性別もバラバラなのだ。共通しているのは、ここでやっている映画が好き…という事だけ。シネコンのような人混みはちょっと苦手…という人には3スクリーンの規模感が重宝がられている。他の地域と違って仙台では作品で棲み分けというよりも、自分に合った雰囲気でお客様が映画館を選んでいるようだ。「ウチに来るお客様というのは落ち着いて観たい…という方が多く、小ぢんまりしているのが好きみたいです」ちなみにコチラでは上映作品を選ぶ基準というものは無いという。ゆっくりと自分のペースで映画を観たいというお客様が多いから面白そうな映画ならば何でもやるというのがスタンスだ。「ここに来るお客様は映画はジャンルを問わず全て好き…という方が多いです。例えば『フォーラム仙台』で“ベイビードライバー”を上映した時。初日に若者がたくさん来るかと思ったら、お婆ちゃんお爺ちゃんばかり(笑)。でも、映画好きならば何歳になってもハードなアクション映画だって観たいのは当たり前の事なんですよね」 |
つまり、上映作品の選定においては、年輩の方向けとか若者向け…というマーテケィングは意味を成さない。面白い作品を落ち着いて観られる環境を提供する事に重きを置いている。また、近年、フィルムからデジタルに替わってから日本での公開作品数が倍以上に増えてきたため、少しでも観る価値がある作品を紹介したいと橋村さん。「上映出来る映画があって、それを観たいという人がいるのであれば、その映画を観る環境を作るのが映画館の仕事」というのをモットーに掲げているからこそ敢えて映画館のカラーでカテゴライズする必要はないのだ。以前、日本のイルカ漁を描いたドキュメンタリー“ザ・コーヴ”を『フォーラム仙台』で上映した時たくさんの妨害と抗議が寄せられたが、観たいと思う権利を奪う事は映画館には出来ないと言う代表の決断で予定通り公開している。「そうまでして何故それを掛けるんですか?って聞かれたら…そこに映画があるからですと答えますよ」と橋村さんは笑って答えてくれた。(2017年9月取材) |
【座席】 『1号館』64席/『2号館』64席/『3号館』83席 【音響】SRD-EX・DTS・SRD・デジタル5.1ch 【住所】宮城県仙台市宮城野区榴岡2-1-25BiVi仙台駅東口2F 【電話】022-299-5555 本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street |